Cookie後の世界に関するGoogleの計画は、2年近くも遅れることは必然だった。実際のところ、これらのソリューションのいずれかがサードパーティCookieの実行可能な代替案になるかどうかを判断するのは時期尚早だ。しかし、このような結果になるはずではなかった。
なぜ、Cookie後の世界に関するGoogleの計画は、2年近くも遅れるのだろうか?
この質問に対する答えは、すべて次の質問につながる。テストするものがないという理由で、ほとんどの広告主は代替案のテストができていないのは、なぜか? それは、テストの準備が整っている代替案がほとんどなく、テスト可能なものもあまりに陳腐で、マーケターにとって学ぶことがほとんどないためだ。さらに、コロナ禍による遅延と、サードパーティCookieの置き換えという事業のスケールの大きさにより、あらゆる作業の進行が遅れているためだ。
つまり、遅延は必然だったのだ。
Advertisement
実際のところ、これらのソリューションのいずれかがサードパーティCookieの実行可能な代替案になるかどうかを判断するのは時期尚早だ。言うまでもなく、いくつかのソリューションは欧州連合(EU)のプライバシー法に準拠していなかった。業界の切れ者たちがプラスとなる解決策を見つけようとしており、新たな提案が追加されていることも忘れてはならない。
アドテク企業アゼリオン(Azerion)の広告戦略、インサイト、マーケティング責任者であるポール・ローリー氏は「いろいろ質問してみてわかったことだが、Googleの提案は答えより疑問の方が多く、不信の穴が開いている」と、話す。
しかし、サードパーティCookie後の世界を探す旅は決して、このような結果になるはずではなかった。
スケジュールの穴
たしかに、Googleは常に、Cookieを置き換えるためのスケジュールは流動的だと公言している。つい最近の6月にも、英競争・市場庁(CMA)の承諾が得られない限り、サードパーティCookieを廃止することはないと述べている。しかし、舞台裏では別の話が進行していた。ある広告業界幹部は匿名を条件にこう説明している。「6月中旬、Googleと話したばかりだが、彼らは決まり文句のように、『早ければ2022年1月、準備ができたら発表する予定だ』と繰り返していた」。
Googleは通常、広告に関しては確実性を重視する方だ。広告技術を市場に投入する際は、エージェンシーと緊密に連携する傾向がある。多くの場合、テストの資金を出すようマーケターを説得するのはエージェンシーだ。しかし、FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)に関しては、Googleはそれほど積極的ではない。むしろ、手綱をきつく握り締めている。実際、広告業界では、FLoCについて基本的なこと以外はあまり知られていない。簡単に言えば、サードパーティCookieを使った1対1のターゲティング機能に取って代わる可能性があるオーディエンスの集団だ。
あるエージェンシー上級幹部は、自身の発言によってGoogleとの取引が危うくなっては困るということで匿名を条件に、次のように語った。「現在、FLoCの大規模なテストはまったく行われていない。Googleやほかのパートナーとテスト計画を立てているところだが、年内にテストが始まればよいと考えている」。
Googleは7月にトライアルをいったん終了すると発表したため、広告主がいつコホートを手にすることになるかはもはや誰にもわからない。こうしたテストの失速は、コホートの有効性、プライバシー規制の観点から問題がないかどうかなど、マーケターが抱いている膨大な疑問の答えをGoogleが持ち合わせていないことを示唆している。どこかの時点で、Googleが理解できる範囲を超えてしまったようだ。
「さらに長く曖昧な状況に置かれる」
実際、Googleは1月の時点で、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の特に期待されている部分であるFLoC(議論の余地はあるかもしれないが)を6月にテストできるとマーケターに伝えていた。しかし、その6月が終わろうとしているときでも、マーケターはまだ待っていた。しかも、この状況がいつまで続くかさえわからない。Googleが明言しているのは、トライアルをいったん終了したあとにFLoCを改良し、数週間中に広告製品のテストに関する情報を共有するということだけだ。
イーマーケター(eMarketer)のアナリスト、ニコール・ペリン氏は「スケジュールが更新されたことで、マーケターは今後の計画それ自体については明確な情報を得ることができた。しかし、最終的な未来像の明確化が先送りされただけで、エコシステムはさらに長く曖昧な状態に置かれることになった。どのような未来が待ち受けているのか、プライバシー、アドレサビリティ、測定に関するもろもろの問題は結局どのように解決されるのかは不明のままだ」と話す。
もちろん、マーケターは今も、年内にコホートが手に入ることを期待している。しかし、Googleは決してマーケターの期待を膨らませようとはしていない。延長されたスケジュールは具体的な日付が曖昧だ。そして、Googleの幹部たちは、非公式の場であまり明確なことを言わない。
メディアバイイングエージェンシー、メディア・キッチン(Media Kitchen)のアソシエイトディレクター、ダナ・ビューシック氏は「マーケターは多くの疑問を持っているが、FLoCのトライアルに関しては、我々はまだ不確実な時期にある」と話す。「とにかくプロセスが曖昧だ」。
FLoCの功罪
たしかに、GoogleはFLoCのIDをChromeユーザーに割り当てられるようにした。しかし、その対象は米国と、オーストラリア、ブラジル、カナダ、インドネシア、日本、メキシコ、ニュージーランド、フィリピンのごく一部に限定されている。必要な規模がなければ、FLoCの真の効果を確かめるのは難しいだろう。たとえば、米国では、FLoC IDがカバーしているのは全人口のわずか1%だという幹部もいれば、5%だという幹部もいる。たとえマーケターがFLoC IDを使ってターゲットを絞り、広告を購入できたとしても、その結果は統計的に有意ではないため、多くを学ぶことができない。
とはいえ、トライアルは決して完全な消化試合ではない。
このIDを使えば、トラフィックの傾向から、FLoCのコホートと実際のコンテンツの好みがどれくらい一致するかを確認できる。これは、細かい仮説を好むマーケターにとっては十分だが、Cookie後の世界をもっと明確に知りたいマーケターには物足りないかもしれない。言うまでもなく、期待値は再調整されている。多くの意味で、FLoCは常に扱いにくい存在だった。それにはいくつかの理由がある。
モバイルアドテクベンダー、ブリス(Blis)の最高技術責任者、アーロン・マッキー氏によると、まずひとつ目の理由として、画一的な分類法が業界にとっては不十分だと指摘する。ふたつ目に、「関心をベースにした識別子」が十分あれば、データの匿名性を解除することが可能であり、それではプライバシー重視という本来の目的を達成できないと続ける。そして、最後の理由として、このような柔軟性を欠く限定的な分類法では、業界の期待に添うキャンペーンのパフォーマンスは望むことができないという。
このような大きな変化の中心にGoogleがいることを考えると、とにかく時間がかかることは間違いないだろう。
「小さな代償にすぎない」
Googleとの緊密な関係を理由に匿名を希望するエージェンシー幹部は「我々のクライアントがFLoCに多くのリソースを投資するのは、IDのカバー率が米国の人口の少なくとも20%に達するまで意味を成さない」と、話す。「私が心配しているのは、今からトライアルを本格始動するまでのあいだに、Googleが何度か変更を加える可能性があることだ」。
これはGoogleには通じない考え方だ。GoogleにはFLoCやプライバシーサンドボックスのほかの部分を失敗させる余裕などない。消費者を直接ターゲティングする時代は終わり、少なくともGoogleが関わっている限り、プライバシーサンドボックスが未来であることをすでに示唆しているためだ。プライバシーサンドボックスの改訂や遅延、そしてそれによって引き起こされる不満は、苦労して、ときには困惑しながらクッキーを追求することが何かにつながるのであれば、小さな代償のように思える。これらのソリューションがビジネスとしてGoogle自身の有利にならないよう、Googleが世界中のさまざまな当局と連携することを約束している事実はその証拠だ。
コンサルティング企業プログラマティックアドバイザリー(The Programmatic Advisory)のCEO、ウェイン・ブラッドウェル氏は「すべての広告主がターゲティングと測定を行い、その結果、すべてのパブリッシャーがマネタイズできる拡張可能で民主化された方法があって初めて、広告収入によって運営されるインターネットが持続可能になる。それをGoogleはよくわかっている」と話す。「Googleがインターネット広告の役割について現実的に考えているのは素晴らしいことだ。彼らが物事を思い通りに進められる巨大な既得権益を持つことはたしかだが、GoogleがAppleのような動きをすることはないため、デジタル広告業界とその構成員にとって、最終的にはとても良いことだと思う」。
スケジュールが延長されたことで、業界はGoogleのアドレサブル広告に対するアプローチをより徹底的に、そして冷静に考察できるようになった。Googleが提案しているソリューションは実行可能性やプライバシーに関するさまざまな疑問点があり、答えを出す必要がある。1対1のオーディエンスターゲティングを実行できないことはひとつの課題だ。しかし、マルチタッチアトリビューションやメディアミックスのモデリングの中心部の破損は、Googleが前進するうえではるかに複雑な課題となるだろう。
SEB JOSEPH(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:小玉明依)