広告主がプログラマティック購入により高い透明性を求めるようになるなか、彼らはアドテクベンダーに対してより多くのデータを要求するようになっている。そうした交渉に抵抗しているのがGoogleだ。いま、広告主によってはほかのアドテクベンダーを使ってリスクを緩和しようとする者もいる。
広告主がプログラマティック購入により高い透明性を求めるようになるなか、彼らはアドテクベンダーに対してより多くのデータを要求するようになっている。そうした交渉に抵抗しているのがGoogleだ。Googleがアドテクを支配していることは、広告主にとっては随分前から不安の種だった。いま、広告主によってはほかのアドテクベンダーを使ってリスクを緩和しようとする者もいる。
米国を拠点とするある小売企業のディスプレイ広告部門責任者は先頃、業界で「Googleアドエクスチェンジ(Google Ad Exchange)」として知られる世界最大のオンライン広告マーケットプレイスでは、主要キャンペーン用の広告を買わないと決めた。この企業は、2019年の主要なホリデーシーズンに彼らが落札、あるいは落札できなかったプログラマティック入札について詳細なログレベルのデータを欲しがったが、Googleがその提供を拒否したからだ。同社は代わりに、データの共有を嫌がらないうえ、ある程度の割引もしてくれるほかの6つのアドエクスチェンジでメディア予算を費やした。
このディスプレイ広告部門責任者は匿名を条件に次のように語った。「Googleアドエクスチェンジは、透明性がなく、我々のメディア予算に対する彼らのテイクレートだけでなく、我々がDSP(デマンドサイドプラットフォーム)からすでに引き出すことができるデータについても提供しようとしないため、そもそもリストに載っていなかった」。
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広告主の多くは、同じ苛立ちを抱えながらも、そこにある広告すべてを失ってしまうことを恐れてGoogleアドエクスチェンジから広告を買うことをやめたがらない。しかし実際には、そうしたことによる結果はそこまで明確ではない。
「事実、Googleアドエクスチェンジがなくても、前年の同期間よりはるかに有利なCPMの恩恵を受けた。ほかのエクスチェンジを通じてトップパブリッシャーにリーチできるときに、Googleに予算をつぎ込み続ける意味はない」と、このディスプレイ広告部門責任者は述べた。
同じ理由で同様の動きをする広告主はほかにもいる。
本記事執筆のためにインタビューに応じた3人のアドテク幹部によると、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)のマーケターたちは、Googleアドエクスチェンジでの支出を減らすプロセスを進めているという。しかし、彼らが米国拠点の小売企業の先例に倣い、P&Gのメディア予算をGoogleアドエクスチェンジから引き上げることはないだろうと、この幹部たちは話す。結局、オークションにおけるGoogleの有利な点は、広告主のために価格を低く抑え、ほかのマーケットプレイスよりも優れているということだ。
計画をよく知るアドテク幹部の1人は、「Googleに対して、さらに細かいデータを我々と共有しないなら、ほかのどこか、我々とデータを共有してくれそうな誰かに金を割り振ると言っている大手プログラマティック広告マーケターが数人いる」という。
大手広告主によるGoogle離れ
ほかのアドテクベンダーと異なり、Googleは、自社が販売するインプレッションに関するデータをめったに共有しない。Googleはその代わりに、集計した情報を共有する傾向がある。そのせいで広告主は、 Googleが、入札からどれぐらいの収入を得ているかはもちろん、ほかのアドテクベンダーのためのインプレッション再販業者としてどんな役割を果たしているかについて、長いあいだ疑問を持ち続けてきた。
「Googleは、うまく機能するプログラマティックビジネスを構築したが、が、それが今後どのように機能するかを説明しないことに広告主は苛立ちを感じている」と 、ジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者クリス・ケイン氏は話す。
いまのところ、Googleのマーケットプレイスからどれぐらいの予算を引き上げるかを検討しているのは、ほんのひと握りの大手の、知識を有するプログラマティック広告主だけのようだ。
プログラマティックエージェンシー、グッドウェイ・グループ(Goodway Group)のプレジデントを務めるジェイ・フリードマン氏は、「パイ全体のなかで Googleのアドエクスチェンジが占める割合は少し減っている。正確なパーセンテージはわからないものの、少なくなってはいるが、それは重要なほどではない」と述べる。
あまり気にしなかったGoogle
Googleは、より賢明なプログラマティック広告主を少数失うリスクより、インプレッションを正しく勝ち取るためのもっとも安価な方法かどうかは気にせず、Googleから広告を買い続けるであろう多数の広告主のシェアを守ることのほうが価値があると判断したようだ。
Googleはこの10年をかけて、メディアバイヤーを困難に追い込む広告オークションモデルを構築してきた。
Googleは一方では、広告主にオーディエンスのターゲティングデータと、自社のマーケットプレイスでの広告のオンラインオークションでより落札できるようにするチャンスを与えてきた。Googleのアドテクでは、ライバルベンダーが入札をするのを待ってから入札を行うことができる。他方、その恩恵に浴することができたのは、Googleのアドテク製品を使ってインベントリー(在庫)を購入した広告主だけだった。広告主のなかには、この設定に躊躇し、Googleの入札プラットホームはすべてのインベントリーを客観的に扱うのではなく、メディアプロパティにより多くの支出を集中させようとしているのではないかと警戒するものがいた。だが、ほかの広告主は、Googleアドエクスチェンジから広告を買うメリットのほうがデメリットよりも大きいと信じた。
ヘッダー入札による革命
この困難はしばらくのあいだ、Googleの支持に不均衡をもたらした。そこで、SSP(サプライサイドプラットフォーム)としても知られる競合アドテクベンダーが、自分たちに有利な方向へ情勢を傾けようとした。
Googleアドエクスチェンジには、全インプレッションに入札する機会をバイヤーに提供する能力があり、SSPはヘッダー入札を使って同じことをしはじめた。SSPはその後、広告主がインプレッションに対して払った額が実際の入札価格より少し高くなるGoogle独自のアドエクスチェンジとは違い、広告主がインプレッションに対して意図した価格で正確に入札できるファーストプライスオークションを実施しはじめた。
最終的にGoogleは、オークションルールを書き直し、より公正を期すことに決めた。Googleは2019年、以前のケースとは違い、落札者が支払う入札額が1セントたりとも多くならない、全入札者を対象にした一連のルールが支配するユニファイド・オークションを導入した。このユニファイド・オークションでは理論上、最後の瞬間にGoogle以外のマーケットプレイスを通じて同じインプレッションを買おうとしている競合他社より高い入札価格を付けるチャンスを広告主に与えるとされていた機能を廃止し、競合するほかのアドテクベンダーは同じ水準のフィールドに立つことができる。
ヘッダー入札がもたらしたもの
だが、変更は思いがけない結果もいくつかもたらした。
Googleアドエクスチェンジと他者のアドエクスチェンジとの入札競争がより公平になったいま、広告主は、ルビコン・プロジェクト(Rubicon Project)やパブマティック(PubMatic)のように、詳細データへのアクセスを提供するアドテクベンダーからメディアを購入するインセンティブを高めている。
このデータがあれば広告主は、インプレッションに至る低価格で最善のルートを考え出せる。そしてこれが Googleが推進しているようなユニファイド・オークションの鍵となるだろう。こうしたオークションでは、同じパブリッシャーのインベントリーが同時に複数のアドテクベンダーを通じて提供されるため、広告主が誤って自分自身に入札してしまい、その後インベントリーに対してより多く支払う責任を負わされる可能性が高くなる。これを避けるために、広告主はサプライパス最適化テクニックを使って、より良いプログラマティック契約を仲介できるようにしている。その契約の多くは、広告主がアドテクベンダーから取り戻せるデータに基づいて予測されている。このデータがあれば、広告主は、Googleアドエクスチェンジからの広告購入よりも良い選択肢があると気づく。
「Googleの優位性は消えた」
「ヘッダー入札への回帰、スタンドアローンなエクスチェンジの成長、『ラストルック』機能の廃止で、ほかのSSPに対するGoogleの優位性は消えた」とパブマティックの広告主ソリューション担当バイスプレジデントであるカイル・ドーズマン氏はいう。アドテクベンダーが実施するオークションを詳しく見ているバイヤー、透明性に欠けるGoogleのオークション実施方法、サプライパス最適化の登場が組み合わされて、いくつかの広告主がはじめて、Googleから離れてほかのアドテクベンダーを利用しはじめていると、ドーズマン氏は付け加える。
Googleからのコメントは得られなかった。だが、Googleに近い情報筋によると、Googleは自社のアドエクスチェンジが有利になるように扱ってはいないといい、そこでのオークションは公正で、最高入札価格が勝つ場所であることを強調しているという。この情報筋はさらに、アドテクは競争が激しい市場であり、広告主は簡単に支出を変え、パブリッシャーも簡単にSSPを変更することを強調した。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)