GoogleのCookie廃止延期で広告業界に安堵感が広がったのは無理もないことだが、実のところ状況はほとんど変わっていない。サードパーティCookieは、ゆっくりとだが確実に、ファーストパーティCookieからコホートまで、さまざまなソリューションで置き換えられつつある。延期がこの現状を変えることはない。
GoogleはサードパーティCookieに命綱を差し出したが、規制当局の姿勢は変わらない。サードパーティCookieによるウェブサイトをまたいだ追跡は、依然としてプライバシー遵守とは見なされない。
GoogleのCookie廃止延期で広告業界に安堵感が広がったのは無理もないことだが、実のところ状況はほとんど変わっていない。サードパーティCookieは、ゆっくりとだが確実に、ファーストパーティCookieからコホートまで、さまざまなソリューションで置き換えられつつある。延期がこの現状を変えることはない。
延期自体は「予想の範囲」内
「アウディ(Audi)がGoogleの発表で取り組みをやめることはない」。こう語るのはアウディがデンマークでサードパーティCookieの代替技術を試すために契約したアドテク企業、セマシオ(Semasio)のCEOで共同創業者のカスパー・スクー氏だ。「マーケターたちはこれまでの試行の結果に手ごたえを感じ、さらに進めたいと考えている。特にデンマークではそうだ」。
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最初のキャンペーンでは、アウディのマーケターが、デンマークの大手メディアグループであるPHDメディアデンマーク(PHD Media Denmark)の幹部と共同で、メディア消費とデモグラフィックのデータを使用し、購入の可能性の高い人たちとそうでない人たちを分けた。そこで切り分けたグループについて、アウディのCRMデータベースとページレベルのコンテクスチュアルデータに基づいた情報を活用してターゲティング戦略を策定したところ、セマシオによればこのアプローチによるコンバージョンが、コンバージョン全体の70%を占めるに至ったという。
ある意味、デンマークはアウディにとって格好の実験場だ。第1に、サードパーティCookieのトラッキングをデフォルトでブロックするiPhoneのユーザー人口が多い。第2に、デンマークではヨーロッパの個人データ保護規則がより厳格に解釈される。
メディアバイイング会社のメディア・キッチン(Media Kitchen)でアソシエイトディレクターを務めるデイナ・ビューシック氏は「Googleの発表について当社が話をしているマーケターの多くが、延期された期間をサードパーティCookieの代替技術の試験期間としてとらえている」と話す。「そのための試験予算の増加が見られると思う」。
実際、GoogleがCookie廃止を延期するのではないかと疑っていたマーケターは多い。結局のところ、Googleは具体的な日付の提示や対策の推奨にずっと消極的だったからだ。マーケターたちを驚かせたのは、2年という延期期間の長さだ。それでも、アウディやネスレ(Nestlé)のように、時間に余裕ができたにもかかわらず計画をそのまま推進している企業はたくさんある。延期前のように慌てて対応を迫られることを1年半後にまた繰り返したくはないというマーケターがほとんどなのだ。
希望的観測はリスクが高い
その上、この記事に関連して米DIGIDAYが話を聞いた9名の広告会社幹部によれば、いまさら方向転換するには、サードパーティCookieなしでの広告のあり方を探るのに各社ともあまりにも多くの時間と費用をかけてしまっているのである。
あるグローバルなメディアエージェンシーネットワークの上層部筋は、この時点でのクライアントとの話し合いについて公式に発言することは辞退しつつも次のように語った。「ID、ターゲティング、独自のオーディエンスソリューションなどの将来対策にそれほど投資がなく、それらの対策の成熟度も低い、Googleのロングテールを構成する中小ブランドであれば、慎重な『様子見』的な態度もよいかもしれない。だが最大手ブランド各社は、アドテクの進歩的なイノベーションを駆使して市場での優位性をさらに強めていく用意ができているし、実際にそれを実行に移していきたいと考えているにちがいないと思う」。
たしかに、緊急性が低くなったいま、Cookieレスに対応したソリューションを試す勢いを緩めるマーケターが出てくる可能性があるのは先述したとおりだ。だが彼らも、Googleが次に打ち出してくる施策が自分たちに都合のよいものになるのではないかという希望的観測で、元の日常に戻るのはリスクが高すぎることを承知している。
万が一、都合よくことが運んだとしても、それは市場の一部(大きな一部ではあるが)にすぎない。実際、ウェブの大部分は、SafariからFirefoxまで、すでにサードパーティCookieのない世界へ移行してしまっている。このため、リーチの最大化を図るマーケターにとっては、Googleの最新の動きも特に大きな影響はないのだ。
オムニコム・グループ(Omnicom Group)傘下のエージェンシー、OMDの幹部によると同社の入札リクエストの約80~85%は、サードパーティCookieの使用による個人レベルでの対応が可能だという。サードパーティCookieによらず対応可能な割合は15~20%程度ということになるが、ほんの2年前にはそれがゼロであった事実を考えると、サードパーティCookieの代替技術に対する取り組みが確実に伸びているということだ。
確実なソリューションを待つ余裕はない
さらに重要なのは、このようなCookie代替技術の伸びが、機能する度合いに差があるにしても、それらのソリューションが十分に機能することを示唆する点である。そうでなければ、プログラマティックな方法を採用する進歩的なマーケターが代替ソリューションを追求するわけがない。
たとえばネスレの場合を考えてみよう。同社の計画を知るふたつの情報筋からそれぞれ別に得た情報によると、同社はセカンドパーティデータに関するパブリッシャーとの提携をグローバルな規模で進めているそうだ。このような提携を通して、ネスレのマーケターは同社のデータをパブリッシャーのファーストパーティデータと合わせ、パブリッシャーのポートフォリオ全体にわたって既知のオーディエンスと新規の類似オーディエンスに対するターゲティングを展開できる。
EU一般データ保護規則(GDPR)と同様、サードパーティCookieの廃止も、マーケターをこのような取り組みに向かわせている。自社のデータにしかアクセスできないCPG(消費財)企業として、サードパーティCookieがなくなったときにネスレに残された数少ない選択肢のひとつが、このような提携なのだ。
ネスレはこの計画に関するコメントを辞退している。だが、この問題の大枠に関する同社の立場については、漠然とした概要を示してくれた。スポークスマンは次のように語っている。「当社は、消費者に素晴らしいブランド体験を提供できるように、消費者のプライバシーを中心に据えた上でパブリッシャーとどのように協力していくべきか、新しい方法を常に模索している」。
ネスレやアウディのようなマーケターは、少なくとも中短期的には、IDに対するアプローチを1つに絞らず、アプローチのポートフォリオを組んで対応する世界を想定している。つまり、認証されたID、確率論的に推定されるID、コンテクスチュアルまたはコホートベースのソリューション、PPID(パブリッシャー指定の識別子)などを、異なるレベルや用途に合わせて使い分けるのだ。これらの方法は、やがてひとつの優位な方法へと絞り込まれていくかもしれないが、(多少の猶予があるにせよ)Cookieレスがすでに現実となっているいま、マーケターにそれを待つ余裕はない。
パブリッシャーのデータをいかに使いこなすか
実際のところ、多くのパブリッシャーはすでにCookieやそれ以外の識別子も含めたファーストパーティIDを使用して、少なくともトラフィックの一部をマーケターに売っている。たとえば、英国では10社中9社(93%)のパブリッシャーがこうしたファーストパーティIDの提供を行っているが、米国では7社(68%)にとどまっている。このデータは、アドテク企業アドフォーム(Adform)のプラットフォームにおける広告費の80%を占める大型サイト群から流れてくるトラフィックの分析によるものだ。
たしかに、まだやらなければならないことは残っている。すべてのアドテクベンダーが代替ソリューションを扱えるわけではないため、パブリッシャー側も提供できる対応には限りがある。
米国の大手パブリッシャーの68%以上がファーストパーティIDを渡しているとはいっても、ID全体のボリュームは20%以下である。ほとんどがトラフィックのほんの一部に集中しており、アドフォームによればそれは主に認証されたユーザーのものである。いずれにせよ、代替ソリューションを慌てて導入しなければならないわけでもない。
延期によって、パブリッシャーはファーストパーティデータを使用した対応を強化し、広告主やアドテクベンダーに対するインベントリで試してみる時間ができた。顧客データプラットフォームのブルーコニック(BlueConic)COOのコーリー・マンチバック氏は「パブリッシャーは、よりよい戦略を策定し、チームやテクノロジーの対応を用意する時間が与えられたと考えるべきだ」と説明する。
その理由として、Googleは自社のプログラマティック取引においてバイサイドに提供するPPID(パブリッシャー指定の識別子)を、パブリッシャーと広告主間では使用できるものの、異なるパブリッシャー間または異なる広告主間では使用できないという制限を設けている。
「何事もなかったかのように振る舞う」
言い換えると、Googleは市場におけるほかのプレイヤーが獲得できる(と考えている)ビジネスチャンスを拒んでいる(通常はその逆だ)。現時点ではやらなければならないことはたくさんある。具体的には、広告主がパブリッシャーのサイトの外にリーチを広げられるように、パブリッシャーのデータを保護された状態で混ぜて使用させてもらえるように説得しなければならない。ウォールドガーデンの外のエコシステムがプライバシーを遵守しながら傑出し、差別化を生み出す機会がここにある。
アドフォームの共同創業者でCTOのジェイコブ・バック氏は「マーケターがこのニュースにどのような反応を見せ、それが当社のパブリッシャーとの仕事に大きな影響を及ぼすかを知るにはまだ早い」と話す。「そうは言っても、発表後すぐの話し合いからは、多くのマーケターやエージェンシーが何事もなかったようにこれまでの取り組みを続けようとしているのは明らかだ」。
[原文:Google’s cookie delay may offer breathing room but should be used with caution, say marketers]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)