Google の自動運転車は、正力松太郎の夢を見るか?:「ITバカ」を救う助け舟とは

本記事は、電通デジタル 客員エグゼクティブコンサルタント/アタラ合同会社 フェロー/zonari合同会社 代表執行役社長、有園雄一氏による寄稿コラムとなります。

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私には夢がある。Google自動運転車を、いつか、両親にプレゼントしたいのだ。トヨタとかじゃなくて、やはり、自分の古巣、Googleの自動運転車をプレゼントしたい。

私の父は、脳梗塞に襲われ、左半身に麻痺が残り、運転ができなくなった。母親は幸いにも元気だが、もうすぐ80歳。近所の東急ストアに毎日買い物に行くようだが、牛乳やタマゴなどを買い物袋に入れて運ぶのが、徐々に、辛くなってきた。父が病気になってから、彼らはクルマを手放した。行動範囲も狭くなり、めっきり楽しみが減ったようだ。そんな彼らの唯一の楽しみは、テレビだ。散歩に出掛けるとき以外、テレビは、ほぼ終日、つけっぱなし。

自動運転車には、備え付けのディスプレイがあり、5G回線のネット同時配信で彼らの大好きなテレビを見られるはずだ。自動運転車のIDは、私のスマホと連携され、万が一、事故などがあったら、私にアラートがくる。位置情報やデモグラでCMもターゲティングされ、近所で開催されるお年寄り向けのイベントや近くのスーパーのお徳情報、資生堂や花王などナショナルブランドのCMも、当然、彼ら向けの訴求になる。

「みんなの笑顔」のために

このCMのターゲット配信は、広告主からの要望も多い。たとえば、資生堂の小出氏は、MarkeZineの記事で以下のように話している。

「理想はターゲットのみに配信したいですが、画面の向こうにいるのが男性なら当社においてもメンズ化粧品の広告が流れるという男女の出し分けだけでも、広告費の半分を有効活用できます。デジタルで行われているターゲティングに近いことがテレビでできれば無駄がない、というのが、やはり最終結論ですね」。

資生堂の化粧品のなかにも、年配向けと女子高生向けなどがあるらしい。なので、高齢者向けにもターゲット配信できれば、広告主は喜ぶ。

私は、「メディアや広告はヒトを幸せにする」と信じている。自動運転車のなかで、5G回線を使い番組をネット同時配信する。そうすれば、うちの両親は、大好きなテレビを観ながら、日本中どこにでも行ける。笑顔も増えるはずだ。ターゲット配信すれば、広告主もハッピーだし、当然、テレビ局もGoogleも儲かる。

つまり、「みんなの笑顔」のためになる。私は、メディアや広告の仕事を通じて、みんなの笑顔を見たいのだ。

日本は世界一の高齢化社会だ。両親と同じように、生活の足に困っているお年寄りは、多いはず。彼らは、日本の高度経済成長を支えて、豊かな社会を私たちにプレゼントしてくれた。海外に行けば分かるが、こんなに平和で豊かな社会は他にない。「失われた平成の30年」で綻びも目立ってきたが、それでも平和で豊かな方だ。それを汗水たらして作ったのは両親の世代だ。私たちは、当然、彼らの老後を支え、そして、未来ある子供たちに、笑顔の絶えない社会を引き継いでいきたい。

私の夢を砕くGDPR

しかし、残念なことに、GDPRの影響で、私の小さな夢は、難しくなった。Google車が日本中を走ると、乗車する人の個人データだけではなく、走行中にセンサーやカメラで日本中のあらゆるデータを収集する、と考える人たちがいる。Googleストリートビューの画像も、エドワード・スノーデンの事件のように、アメリカの諜報活動に使われているかもしれない。国家安全保障上、Google車の日本導入に、政府がOKできるのか。アメリカは同盟国だから、構わないのか。そんな懸念もあるようだ。

GDPRの波及効果は大きく、私の小さな夢を砕きかねないのだ。

「最悪の場合、中国が規制しているように、GoogleやFacebookは、EUでビジネスができなくなる。GDPR違反が続けば、ますます、EUの人権活動家の感情を逆なでしてしまう」。先日、あるIT業界関係者が心配そうに、つぶやいた。

昨年から激しくなったGAFA規制。ケンブリッジ・アナリティカ社の事件もあり、個人情報漏洩と民主主義の危機が大きな問題になった(参考)。

英国の情報コミッショナーであるエリザベス・デンハム氏は、「プライバシーを犠牲にするビジネスモデルを徹底的に見直さない限り、ユーザーの信頼を永久に失うことになる」と警告している(参考記事)。

ここで「信頼を永久に失う」の真意は、「永久に追放する」、つまり、「中国を見習って、GoogleやFacebookなどのサービスを遮断し、アクセスできなくする」。EUの過激な人権活動家や、GAFA規制を推進するタカ派政治家の最終目標は、そこにある。

彼らは、GoogleやFacebookがなくても生活には困らない。実際、中国は、GoogleやFacebookがなくても経済大国になった。中国の3強BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)が育ったのは、GoogleやFacebookを排除したからだという見方もある。このままでは、アメリカと中国に大きく水をあけられてしまう。だから、GDPRで規制して、そのあいだに、アメリカにも中国にも対抗できる、強力なIT企業を、EU内部で育てていく。そんな戦略も透けて見える。

私は、Googleの永久追放は、望まない。だが、日本でも「『GAFA規制』6月までに取りまとめ、政府の成長戦略に」と、動きが加速している。

Googleは「ITバカ」?

最近は「元Google社員だった」というと、「GAFA規制、大変ですね」と言われる。そして、「IT業界は、人権やプライバシーの意識が低いですね」と心配してくれる。その人は、Google社員がストライキしたことに触れ、憐れんでいた。

CNET Japanの記事「立ち上がるグーグル社員たち–2万人ストライキの影響は会社の枠を超える」によると、「職場の文化から、米軍向けのGoogleのプロジェクト、中国向けに検閲対応の検索エンジンを開発する取り組みまで、さまざまな問題に従業員が異を唱えた」らしい。

私が酷いと思ったのは、中国向けに検索エンジンを開発中だったこと、それから、「性的暴力や嫌がらせの疑いがある案件で告発者に訴訟権の放棄を強制する」と記事中にあることだ。「訴訟権の放棄を強制」とは、隠蔽工作ということだ。これが事実なら、従業員が怒るのは、もっともなことだ。

いまや、Googleブランドは、地に堕ちた。「いまGoogleに新卒で営業として入るほど馬鹿な奴はいない」とか「なぜIT業界の起業家は”バカで幼稚”なのか」「“ITバカ”にならないために『考える力』を磨き続けよう」などの記事が出て、世間は、GoogleやIT業界叩きに便乗する。

順風のとき「Googleは神だ」、逆風では「ITバカ」と呼ぶ。「パソコンが友だちだから人の気持ちがわからない、人権やプライバシーを考慮してビジネスモデルを作れない」と言った人もいる。

GAFA規制という外憂、社員ストライキという内患、そして、世間の評判の悪化で、Googleは八方塞がりだ。

世界一の投資家、ウォーレン・バフェットの有名な言葉がある。

It takes 20 years to build a reputation and five minutes to ruin it. If you think about that, you’ll do things differently.

「評判を築くのに20年、5分でそれを失うこともある。それを考えたら、あなたの行動は異なってくる」。

Googleは一連の事件で信頼を失った。もう一度、信頼を再構築するために、その行動を改めなければならない。

昭和のメディア王たち

ところで、私は、Google自動運転車を両親にプレゼントするために、テレビ局と情報銀行が助け舟を出せると思っている。その話に入る前に、もうひとつ、夢の話をしたい。

先日私は、正力松太郎氏(読売新聞の第7代社長)の夢をみた。正力氏が私の夢に現れたのだ。彼は「みんなの笑顔のために仕事をしろ」と言った。そして、そのことを大久保好男氏(日本民間放送連盟 会長)にも「伝えてくれ」と。おかしな話だと思う。そもそも、私は、大久保氏とは面識がない。だが、私の解釈では、ネット同時配信は「みんなの笑顔」につながると、正力氏は言いたいのだと思った。

実は、私の書斎の壁に、吉田秀雄氏(電通第4代社長)の写真と「電通鬼十則」を飾っている。私が吉田秀雄氏の写真を張ったのは、広告業界の礎を築いた、偉大な先人に、思いを馳せながら生活したいからだ。

電通を育てた“広告の鬼” 吉田秀雄」などの資料を読めばわかるが、ラジオ市場は、吉田氏が中心になって事業化したが、テレビ放送は、正力氏が主導して、1951年に「日本テレビ」の免許を申請した。当時、正力氏と吉田氏は、放送ビジネスについて意見を交わしていたようだ。

私は、ふたりの会話がどんなものだったのか、吉田氏の写真を見ながら、ときどき、妄想する。おそらく、その妄想の延長として、正力氏が私の夢に現れたのだ。

資料によると、終戦時の家庭にテレビ受像機は1台もなく、かつ、20万円以上と破格だった。そのため、正力氏は、街頭テレビを設置していく。そこに、巨人軍のナイターや、力道山のプロレスなどを流し、戦後の不安で眠れぬ国民に夢を与え、「みんなを笑顔に」したのだ。正力氏も吉田氏も、「みんなの笑顔」が見たくて、ラジオ・テレビ放送を創り、赤字覚悟で突き進んだ。

放送ビジネスは、公共の電波を使うため、免許がいる。その公共性ゆえに、国民から信頼されなければ、免許を剥奪されかねない。自動運転車も公道を走るからには、国民の信頼が必要だ。自動走行中に公道で暴走されては困る。国土交通省も警察庁も、国民の信頼を第一に規制を敷くだろう。

テレビ局と自動運転車

そう考えると、免許事業者であるテレビ局とGoogle自動運転車は、相互補完になると思う。自動運転車が収集する個人データや走行データは、すべてテレビ局が管理するサーバに送り、そして、情報銀行機能を使って、国民の許諾に基づいて、5G配信のCMターゲティングに使うのだ。Googleは、テレビ局にネット同時配信に必要な技術を提供し、収入をテレビ局、国民、情報銀行と分け合う。

テレビ局は、データを使ってCMをターゲット配信し、収入を得る。Googleは自動運転車の技術提供対価とCM収入の配分を得る。国民は、個人データの利用許諾の対価を得る。情報銀行は、データ利用許諾業務で手数料を受け取る。広告主は、ターゲット配信で喜ぶ。ついでに、広告代理店は、広告販売手数料を得る。

GDPRに対応し、データがアメリカ政府の監視に使われないという信頼を、国民から勝ち取らないと、Google自動運転車が日本の公道を走るのは難しい。それを考えると、テレビ局のような公共性の高い企業と手を組んだ方がいい。

そうすれば、私の小さな夢も実現でき、両親はGoogle自動運転車で笑顔になれる。「みんなの笑顔のために仕事をしろ」。正力氏の教えに従えば、良い方法がきっとある。私は、そう信じている。

Written by 有園雄一
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