アドテクのニュースほど、「ええと……」と途方に暮れてしまう瞬間はない。サードパーティCookie廃止後のGoogleの状況を垣間見たことやCookie廃止後の代替手段として計画されているものにもたらす影響を理解する際に、多くの人が経験した感情もそういうものだった。すべてを理解できるような説明をしよう。
アドテクのニュースを読んだときほど、「ええと……ここで何が起こっているんだ?」と途方に暮れてしまう瞬間はない。
サードパーティCookie廃止後のGoogleの状況を垣間見たことや、Cookie廃止後の代替手段として計画されているものにもたらす影響を理解する際に、多くの人が経験した感情もそういうものだった。実際のところGoogleは何をやっているのだろうと思っている人もいるかもしれない。
以下で、すべてを理解できるような説明をしよう。
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──まずは基本から。Googleはこれまで何をしてきたか?
Googleの最新の声明の内容はふたつに集約されている。第1に、ChromeブラウザでサードパーティCookieがブロックされたあと、Googleはオンラインで人々を追跡するためのユーザーレベルのIDをサポートしないということだ。そして、広告業界がもっと心配していることは、IDは良いアイデアではないとGoogleが述べていることだ。Googleは、IDを使うことがデータの取引方法における消費者の期待に応えることにつながるとは考えておらず、そうしたソリューションが将来の規制基準を満たすとも考えていない。
イービクイティ(Ebiquity)でグループ最高製品責任者を務めるルーベン・シュラーズ氏は、「個人による外部ウェブ閲覧やコンテンツ消費に基づいて1対1でアドレスを特定することへの法的なケースは、それがハッシュ化されているかどうかに関わらず、個人データに基づいて識別情報を照合するサードパーティのインフラに依存する場合には、そもそも擁護できないと思う」と述べる。
──ちょっと待って。ユーザーレベルIDとはなんですか?
サードパーティCookieの次の標準になろうと競合しているユーザーレベルIDは多数ある。だが、マーケターがそれぞれのニーズに応じて、いくつかのユーザーレベルIDのセットを使い分ける可能性のほうが高いだろう。人気の高いものの多くは、サードパーティCookieに依存しない。それでも、Googleのアップデート情報が示唆したように、それらはプライバシー保護に準拠したものではない。たとえば、多くのIDがハッシュ化された電子メールに焦点を当てているが、ここにひとつ難点がある。これらのソリューションは、ひとつのパブリッシャーにログインしたユーザーが、業界全体で組織する大規模な提携やネットワークにいるすべての企業によって追跡されることに同意しているように見える同意モデルに基づいて(あるいは潜在的に基づいて)いる可能性があるからだ。Googleはそう考えているようだ。
──しかし、GoogleがサードパーティCookieの使用を止めると発表して以来、ユーザーレベルIDは問題視されてきた。なぜいま大騒ぎするのか?
今回のアップデートで、GoogleがユーザーレベルIDについてどう考えているかは明らかになったものの、自社が所有・運営するマーケットプレイスでそれらを締め出すかどうかについての詳細はほとんど明かされていない。もしGoogleがサードパーティCookieの代替手段と対決すると決意した場合、それは多くのアドテクベンダーにとって大きな問題となるだろう。GoogleがユーザーレベルIDに対する姿勢をアップデートしたあと、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)の株価が2日で20%下落し、観測筋はこれがどれだけ大きな問題になりうるかを垣間見ることができたとCNBCは報じている。
アドテク企業インフォリンクス(Infolinks)の最高経営責任者(CEO)、ボブ・レギュラー氏は、「Googleは、代替データ識別モデルが自社のエコシステム内でリスクにさらされており、競合他社、顧客、パートナーはその長期的な影響を懸念する必要があると控えめに警告している」と述べている。
──GoogleはユーザーレベルIDをめぐって、ほかのすべてのアドテクと本当に戦えるのか?
奇妙なことが起こった。結局のところ、この企業(Google)は、欧州で一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が導入される数週間前に、ログファイルのデータをマーケターと共有しないと決めたのと同じ会社だったのだ。この動きは、クロスデバイスのアトリビューションでそのデータに依存していた人々を、効果的に狙い撃ちにした。Googleは今回も同様に冷酷な行動に出る可能性がある。実際、同社はすでに、ユーザーが望まない、ファーストパーティ以外の方法でターゲットにされるのを防ぐために、できることをすると明言している。ただ、Googleが規制当局に監視されていることを考えると、これがChromeでこれらの識別子を完全にブロックすることになるかどうかは、まったく別の問題だ。もしGoogleがこの措置を取ったのであれば、同社は依然として自社プロパティに独自の識別子を使用しているため、弁解は困難かもしれない。振り返って、ほかの企業に同じことはできないと伝えると、厄介なことになりかねない。それでも、奇妙なことが起こっている。
Google幹部と会って計画を話し合ったことのあるエージェンシー幹部はこう語る。「Googleが合法性を見つければ、ブラウザ(Chrome)側で積極的にブロックすることになるだろう。代替識別子に頼って成長しようとする企業にとって、これは良い兆候ではない」
──これは市場に「プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)」への軸足転換を働きかけるものか?
コンセンサスが得られる前にGoogleに答えてもらわなければならない疑問はたくさんある。Googleが自社の広告事業をほかの事業よりも優遇するのかどうか、そしてどのように優遇するのかという点に多くの不確実性がある。FLoC(Federated Learning of Cohorts、コホートの連合学習)やプライバシーサンドボックスのほかの部分から特定の情報にGoogleが独占的にアクセスできるのかどうか、あるいはユーザーのクリックデータを独自のターゲティングに使用するのをやめるのかどうかなどの疑問が、舞台裏の会議で提起されている。
Googleは、購入プラットフォームであれマーケットプレイスであれ、Googleのテクノロジーを活用して実際に売り上げを操作しているとして、マーケター、パブリッシャー、アドテクベンダーから非難されている。もし、企業が渋々ながらもプライバシーサンドボックスを支持するとすれば、Googleはその意図をもっとオープンにしなければならない。
パーミューティブ(Permutive)のCEO、ジョー・ルート氏は次のように語る。「サードパーティCookieをユニバーサルIDではなくコホートで置き換えることは、プライバシー的に安全なデジタル広告の未来に向けての前進だ。課題となるのは暫定的に起こる混乱だろう。Googleはプライバシーサンドボックスの提案に賭けている。Googleに大きな利益をもたらすものだからだ。FirefoxやAppleがそれを実装するとは思えない」。
──つまりこれは、プライバシーか独占かということか?
多くの点で、両方だ。アップデートによってGoogleは、消費者を念頭に置いて倫理的に行動していることを世界に証明しようしているが、より独占的な議題を無視することは難しい。GoogleがFLoCソリューションを発表して間もない頃、同社はコホートベースのターゲティングに焦点を移すよう広告主に促していると言われた。これは、Googleがウォールドガーデンの中で自社製品を優位に立たせるために、Cookieの死を利用した別の例なのだろうか? 英国のCMA(Competition and Markets Authority:競争・市場庁)は、すでにGoogleのプライバシーサンドボックスツールを調査しており、この件に対応しなければならないだろう。
コンテクスチュアル広告に特化したアドテク企業、ガムガム(GumGum)のEMEA(欧州/中東/アフリカ)担当マネージングディレクター、ピーター・ワレス氏は次のように語る。「これが我々に思い出させてくれるのは、デジタル広告主がCookie廃止後の世界でIDベースのソリューションにすべての信頼を置くことはできないということだ。そのため、広告主は個人を特定できる情報(PII)に頼らないソリューションを用いて、より公平な競争環境を構築し、ウォールドガーデン内全体で統一されたターゲット戦略を実現する必要がある」。
──その行間の意味をもっとわかりやすく言うと?
Googleは、我々が知っているダイレクトコンシューマーターゲティングの時代が終わりつつあることを積極的に示している。それは、いくつかの広告企業を(プライバシーサンドボックス)に近づけ、他の広告企業を遠ざけた。ふたつのグループ間の違いは、プライバシーサンドボックスの代替策を見つけようとするのではなく、プライバシーサンドボックスを中心にビジネスを構築する必要があることを受け入れているかどうかだ。企業はまだこの方法でお金を稼ぐことができているが、彼らは、自分たちのキャンペーンが「上手くいく」かどうかを理解できないかもしれず、将来の成功のためにGoogleのテクノロジーに依存することになるかもしれないという事実を受け入れさえすればよいのだ。
市場がプライバシーサンドボックスに依存するようになることは、Googleにとっては新しい独占が、より大きな規模で進むことを意味する。ターゲティングとデータ知識の知的財産を市場やほかのすべての人から取り除くことができるからだ。
──マーケターたちはなぜ混乱しているのか?
現状では、サードパーティCookieが廃止されたときに、ユーザーレベルのアトリビューションのための強力なソリューションはない。確かに、プライバシーサンドボックスの一部には、ポスト・クリック・アトリビューションに焦点を当てたものがあるが、あまりうまくいっていない。Googleは、自社の識別子にリンクされた代替識別子というアイデアを受け入れるだろうと思われていた。しかし、そうはならないようだ。そのため、多くのマーケターは、振り出しに戻ったような状態だ。
コンテクスチュアルターゲティングベンダー、ピア39(Peer39)のCEO、マリオ・ディアズ氏は次のように語る。「今回のニュースは非常に大きな不確実性をもたらしたが、アトリビューションに関して言えば、すべての支出に共通して適用されていた現在の粒度のモデルの多くが上手くいっていたことは明らかだ。我々が目にしているのは、どこで活動しているかによってマーケターが異なるアトリビューションモデルを持つようになる世界だ。これは、これらの課題を克服し、なおかつ普遍的に適用可能な代替データソリューションをマーケターが検討し始めるための明確な道筋を示してもいる」。
[原文:Google’s user-level identifier bombshell: what we know (and don’t)]
SEB JOSEPH(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)