広告業界関係者の間では、ターゲティングに強みをもつとされるFacebook広告の攻勢が、Googleを揺さぶっているとウワサになっている。Googleは対抗策として、マーケティング活用に利点のある一方、プライバシー面でセンシティブな「検索データ」への制約を解き放とうとしているという。
盤石に見えたGoogleのネット広告事業は、Facebookの猛烈な追撃に脅かされている。Facebookのユーザーデータとリアル店舗データなどを利用した、ターゲティング精度の高い広告を念頭に、Googleはこれまで頑なに拒んできた、検索、メール、位置情報などのデータを、広告に利用する方向に進んでいるのだ。
広告業界関係者の間では、ターゲティングに強みをもつとされるFacebook広告の攻勢が、Googleを揺さぶっているとウワサになっている。Googleは対抗策として、マーケティング活用に利点のある一方、プライバシー面でセンシティブな「検索データ」への制約を解き放とうとしているという。
広告主にアカウント情報の照合を認める
とあるデジタル広告のエキスパートはこう説明する。「Facebookは『スーパー・ターゲティング広告』のためならば、すべてのソーシャルデータを使用することに意欲的だ。しかし、Googleは検索データを広告での利益につなげようとしないことで有名だった」。
「現在は、Facebookのようなプレイヤーが、『Googleのランチ(利益の比喩)を横取りしている』という表現をよく聞く」と、証券会社サントラスト・ロビンソン・ハンフェリーのアナリストであるロバート・ペック氏は話す。また、今後Googleは競合環境を理由に、検索データを自由に運用することを正当化できるかもしれないとも付け加えた。
Advertisement
検索データには何かを探しているユーザーの明確な意図(インテンション)が鮮明になる。「自分をよく見せたい」という心理が働くソーシャルメディアのデータよりも、より有用だとGoogleニューヨークの幹部は語っている。
Googleは最近、FacebookとTwitterが提供しているデータ駆動プログラムを採用した。たとえば、先月Googleがローンチした「カスタマーマッチ」。広告主が保持する顧客メールアドレスと、Googleにサインインしているアドレスを照合し、マッチングしたユーザーに対して広告を配信するサービスだ。
また2015年10月20日、Googleは「ショッピングインサイト」をオープン。これにより、小売業者は検索ワードのトレンドを知り、Google広告の利用に役立てることができる。
プライバシー保護とFacebookの狭間で
「広告主により多くのデータを開示することで、広告はよりターゲットを絞ることができるようになり、企業にとっては投資利益率(ROI)が高まる」とペック氏は語る。「そして投資利益率が上がれば、消費も多くなる」。
しかし、このような初期段階を比べると、検索データが広告ターゲティングにもたらす影響はまだまだ小さいと、ほかの情報筋は指摘している。
Googleは検索データを収益化することにとても慎重だ。これはGoogleの主商品に関連する顧客のプライバシーを守るためでもあり、欧州での訴訟でわかる通り、外部の監視の目も鋭くなってきている。しかし、情報筋によると、Facebookがパーソナルデータを開示することで、Googleは後に続く口実を手に入れることができるという。
「Googleはいまだ、どうデータを開示するか慎重になっている」と、Googleに近い、マーケティング役員は話した。「Facebookはマーケターに対して門を開き、より多くのことができるようになった」。
例として「カスタマーマッチ」を見てみよう。「カスタマーマッチ」はGoogleが提供するデータではなく、企業がどのようなデータをマッチさせるかにかかっている。「ショッピングインサイト」はターゲット広告というよりも、企業に分析結果を提供するためのものだ。
「Facebookは大いなる脅威であり、物事をうまく執行する」と、あるデジタルエージェンシーの役員は話した。「Facebookは、Googleがいままでやってこなかったことをやろうとしている」。検索エンジンが成長のピークを過ぎていることを示す兆しもある。逆にディスプレイ広告では、Facebookが急成長を見せている。
アドビの報告書によると、YouTube(Google傘下)や、Google関連のサイト(パートナー含む)に表示されるディスプレイ広告は、一年前と比べて、クリック数が25%ほど上昇している。これに対して、Facebookは広告のクリック数が35%も伸びているという。Googleより10%高い伸び率だ。
「この差は、なぜGoogleがよりターゲット精度を高めた、オーディエンスに関連性の高い広告を必要としているかを説明している」と、アドビの報告書は指摘している。「『カスタマーマッチ』の発表は、ターゲティングのためにデータをいま以上に活用し、パフォーマンスを向上させるということに、Googleがプレッシャーを感じている証拠である」。
マーケティング調査企業のeMarketerによると、Googleは世界のデジタル広告市場の30%を牛耳り、依然として王者として君臨している。しかし競合環境は変化しはじめた。Facebookは市場の10%ほどのシェアを獲得し成長を続けているのだ。しかも、通信大手ベライゾンが最近AOLを買収し、消費者向けのターゲット広告に、保有するデータのすべてを使用しようとしているのは言うまでもない。
ついに位置データ、購買データ利用を加速
しかし、消費者のクリックはすべて記録され、そのデータがより洗練された広告に使用されるこのデジタル世界において、Googleは戦術を強化する準備が整ったようだ。とあるマーケティングの専門家らによると、Google内において位置情報などに対する規制が少しずつ緩くなってきているという。GPSデータなどは世界で10億人以上のアンドロイドユーザーから容易に取得することができる。
Googleが今年のはじめにローンチしたプログラムは、広告をクリックしたユーザーは実際に店舗も訪れているということを示すもの。広告と実店舗での購買の関連性を示し、広告主が広告の効果を確認できるようにした。これもFacebookがパイオニアとなった機能である。
「以前までGoogleは絶対に位置情報などのデータは開示しなかった。しかし、いまは開示している」と、デジタルエージェンシーの情報筋は話した。
Garett Sloane(原文 / 訳:小嶋太一郎)
Photo by Carlos Luna(CreativeCommons)