Googleは6月24日、同社の人気ウェブブラウザ「Chrome」におけるサードパーティCookieの廃止期限を、当初の2022年1月から2023年後半まで延長したと発表した。本記事では、GoogleがCookieの廃止を保留するという決定に至った理由について、わかっていることをまとめる。
Googleは、サードパーティーCookieの廃止を2年近く延期にすることにしたようだ。
Googleは6月24日、同社の人気ウェブブラウザ「Chrome」におけるサードパーティCookieの廃止期限を、当初の2022年1月から2023年後半まで延長したと発表した。しかし、この新しい期限でさえも、柔軟に構えているという。
本記事では、GoogleがCookieの廃止を保留し、デジタル広告のエコシステムにおける識別子利用をもう少しだけ認めるという決定に至った理由について、わかっていることをまとめる。
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重要なキーポイント
- Googleは、2023年末までの3カ月間で、ChromeのサードパーティCookieを段階的に廃止する。
- Googleは、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)イニシアチブの一環として開発中のCookieレス広告手法のテストが完全に終了し、ブラウザのAPIを介して展開されたあとにのみ、これを行う予定だ。
- 同社は、2022年後半からサードパーティCookieに対するChromeのサポートを段階的に終了させる予定で、その期間は9カ月間を見込んでいる。
- これらはすべて、サードパーティCookieを置き換えるためのプライバシーサンドボックス計画による競争関連の影響を調査している英国の競争・市場庁(CMA)の対象となるようだ。
- Googleは、人の追跡と広告のターゲティングのためのプライバシーサンドボックス計画のうち、もっとも議論を呼んだFLoCにおける現在のトライアルを7月13日に終了する。
イギリスからの圧力
デジタル広告業界では、この1年以上、サードパーティCookieを利用しない方法について、頭を悩ませてきた。しかし、同社がそのサードパーティCookieの廃止期限を延長することにしたのは、政府の圧力によるところが大きいようだ。
Googleのビジネス全体が、さまざまな反トラスト法に基づく訴訟や調査の脅威にさらされている。そのなかには、今週発表された欧州委員会による反トラスト調査も含まれており、それらの訴訟のいくつかとともに、Googleのプライバシーサンドボックスの取り組みが取り上げられていた。しかしながら、Cookie廃止を延長するという同社の決定は、CMAの動きに対する直接的な反応のようだ。CMAは6月11日、評判の悪いプライバシーサンドボックスのアプローチを調整するというGoogleのコミットメントを評価すると発表した。そもそもプライバシーサンドボックスは、本来あるべき協調性に欠けており、デジタル広告のバイヤーやセラー、そしてアドテク企業に対するGoogleの支配力をさらに強化する可能性があるとして、アドテク業界から激しい批判を受けてきた。
GoogleにはCMAをなだめる大きな動機がある。正式に承認されれば、CMAは1月に開始したプライバシーサンドボックスの調査を終了するという。同庁は7月8日までに関係団体と協議したうえで、承諾するかどうかを決める。もしそうだとしても、当局が調査を再開する妨げにはならない。
CMAに提出したGoogleのコミットメントのなかで、同社はプライバシーサンドボックス方式の開発や実装において、自社のシステムやサービスを優先したり、「アドテクプロバイダーやパブリッシャーからChromeに提供されたセンシティブな情報を、競争を歪めるような方法で使用したりしない」と述べている。
昨年末の時点でも、Google の幹部は、ChromeにおけるCookieの最終的な廃止について、時期を検討していた。また、昨日公開された拡張機能の発表のためのブログ記事では、「could(できるだろう)」という言葉が使われているのも特徴的だ。同社は次のように述べている。「英国の競争・市場局(CMA)との関わりと、我々が提示したコミットメントに沿って、Chromeはその後、2023年半ばから後半までの3カ月間にわたって、サードパーティのCookieを段階的に廃止できるだろう」。
FLoCよ、また会う日まで
また、プライバシーサンドボックスの広告手法のなかでも、もっとも有名で批判を受けている、FLoC(Federated Learning of Cohorts)についても最初のトライアルを数週間以内に終了すると、Googleは発表した。同社は、米DIGIDAYに対し、FLoCの最初のトライアルは7月13日に終了すると述べている。
現段階では、一部のアドテク企業がFLoCのIDハーベスティングを行っているが、今回のオリジンテストでは、サプライサイドのパブリッシャーとその広告運用会社のみがFLoCをテストすることになっている。広告主やエージェンシーは、Googleやその他のDSPで、FLoCを使った広告ターゲティングのテストができるようになることを期待していた。しかし今回、Googleは、FLoCやその他のプライバシーサンドボックスの手法を、自社の広告製品でテストすることを延期すると発表したのだ。同社は、数週間のうちにFLoCを改良し、今後のテストについての情報を共有する予定だと述べている。
GoogleがFLoCの一時停止ボタンを押したことは、驚くべきことではない。このトラッキング技術がプライバシーを侵害する可能性があるとして、プライバシー擁護団体が騒いでいるだけでなく、デジタルパブリッシャーやほかのブラウザもこの技術を有効にしないことを決定しているからだ。Amazonも自社のほとんどのサイトでFLoCによるトラッキングをブロックしていると、米DIGIDAYも報じている。
Googleの透明性向上の兆し?
サードパーティーCookieの廃止とFLoCの導入を遅らせているGoogleに、すでに不満を抱いている業界関係者もおり、今回の期限延長はさらなる不満を引き起こすことになりそうだ。「早く実施してほしい。業界全体に迷惑をかけるのはやめてほしい。みんなを新しい正常な状態に戻してあげてくれ。このようなやり方では、戦略的な計画を立てるのは難しい」と、あるパブリッシャーの幹部は語った。
しかし、ChromeにおいてサードパーティCookieが利用可能な期間を延長するというGoogleの決定は、同社がCookieの廃止計画に関して、より透明性を高めようとしていることを示しているのかもしれない。
Googleは、プライバシーサンドボックスの提案に関連する、オリジントライアルやAPIの提供時期などを公開するだけでなく、サードパーティCookieを削除する前の移行期間や、サードパーティCookieが完全に削除される前の通知も行うと、CMAに対するコミットメントのなかで述べている。
また、GoogleはCMAに対し、サードパーティCookieの削除による影響の評価を含め、個々の代替広告手法の効果を検証することを約束した。また、CMAに約束した60日間のカウントダウン期間が発生する前に、Googleはテストを行うとしている。この期間中、CMAは調査を再開したり、競争上の弊害を回避するための措置を講じることができるという。
さらに、Googleは、提案された方法をテストするための設計を含め、「プライバシーサンドボックス提案の開発と実施に関連して、CMAとオープンで建設的かつ継続的な対話を行う」ことを約束している。
KATE KAYE(翻訳・編集:長田真)
Illustration by IVY LIU