Amazonの広告事業は、30億ドル(約3400億円)の規模を誇り、今後10年で500億ドル(約5兆6000億円)に成長するとされる。しかしバイヤーによれば、いまだ基本的な部分で粗が目立つという。よく指摘されるのは、動作が遅く機能の少ないツールやダッシュボード、ケーススタディやバイヤーへの販売サポートの不足だ。
Amazonの広告事業は、30億ドル(約3400億円)の規模を誇り、シティバンク(Citibank)の予測では、今後10年で500億ドル(約5兆6000億円)にまで成長するとされる。しかしバイヤーによれば、依然として基本的な部分で粗が目立つという。しばしば指摘されるのは、動作が遅く、機能の少ないツールやダッシュボード、ケーススタディやバイヤーへの販売サポートの不足についてだ。
業界のベテランは、これらは成長中のビジネスでは避けられない悩みであり、GoogleやFacebookにもそんな時代はあったとして、意に介さない。しかし、バイヤーのなかには、Amazonの途方もない規模を考えれば、より高い水準を期待してもいいはずだという意見もある。「Amazonなのだから、もっといいものを期待していた」と、あるバイヤーはいう。
バックエンドツール
ひとつめの不満は、バックエンドツールの操作性だ。Amazonを試験導入中であるため、匿名を条件に語ったふたりのバイヤーは、システム全体がまだ冗長だという。たとえば、ベンダーとセラーは、同じ場所の広告スペースをめぐって競っているにもかかわらず、広告キャンペーンの別のデータを閲覧することになる。
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「彼らは互いに口を聞かないか、互いの真似をしないかだろう」と、あるバイヤーはいう。
単にAmazonで広告ひとつを購入するのでさえ、GoogleやFacebookで同じことをするよりも、はるかに煩雑だ。これはAmazonのインフラが不安定で、広告プログラムが重複しているためだ。
「現段階では、データにたどり着くにも、変更を加えるにも、Amazonでは競合他社のプラットフォームよりもずっと時間がかかる。ただし、Amazonは広告ツールに適切な改善を施し、解決にリソースを割いている」と、360iのeコマース担当バイスプレジデント、ウィル・マーガリティス氏はいう。「Amazonにとって、いまは勢いを生かし、広告主のプラットフォームUXをシンプル化する絶好の機会だ」。
Amazonは広告事業を一本化し、混乱を収拾する努力をしてきた。アルファベットの略称だらけで複雑怪奇だった以前の組織は整理され、今年9月に統合プラットフォーム「Amazon Advertising」が発足したことで、広告購入やキャンペーン管理は容易になった。
「我々のツールやプロダクトは常に進化している。エージェンシーや広告主にとって、より使いやすくすると同時に、ニーズや目的に沿ったさまざまな機能を提供していきたい」と、Amazonの広報担当者はいう。「今年、我々はAmazon DSPインターフェースの進化に力を入れた。新たなナビゲーションデザインなど、数多くのユーザビリティの改善を施した。2019年もこれを継続していくつもりだ。今後リリース予定の機能としては、新たな基幹オペレーションや、レポートの強化などがある」。
以前からあった問題のひとつに、プラットフォーム上で広告を管理し購入する際の操作方法が、ファーストパーティセラーとサードパーティセラーで大きく異なる点があげられる。Amazonでは、サードパーティセラーとファーストパーティセラーでインターフェースが違うのだ。たとえば、一方はキャンペーンの過去7日間のパフォーマンスを閲覧できるが、他方ではこの期間が過去14日間になる。「このせいで何を比較しようにも面倒だ」と、先述の匿名バイヤーはいう。
新たな統合プラットフォームでは改善がみられるが、先述の2人のバイヤーは、まだ不十分だと話す。
「あの変更は組織に関するもので、呼び名が変わるなど、あくまで内輪の変化でしかない」と、あるバイヤーはいう。「技術的には何ひとつ変わっていない」。
「いまでも異なるふたつのシステムが存在するため、属性やレポートシステムが共有されていない」と、別のバイヤーも口を揃える。「ダッシュボードと指標は統一され、見た目の印象はすっきりしたが、まだ完全ではない。いまも別々のダッシュボードを開かなくてはならないし、ほとんど同じに見えるが、指標とトラッキングには微妙な違いがある」。
Amazonの大きな強みは膨大な購入データだ。しかし、ツールキットが十分に洗練されていないため、広告購入と売上の関係を読み解くのは困難だと、バイヤーは不満を漏らす。
「まるで10年前のGoogleだ」と、WPP傘下のマーケットプレイス・イグニッション(Marketplace Ignition)の創業者エリック・ヘラー氏はいう。「ツールは良くなってきているが、広告購入が実際にどう実行されるか、コピーやキーワード、インベントリー(在庫)の運用は適切かといった、複雑な問題は未解決のままだ」。
Amazonは最近、「買い物かご分析」ができる高度なデータツールをセラー向けにリリースした。これは、ユーザーの購入した商品や、カートに入れた商品と、広告の関係を測定する機能だ。重要なのは、これがAmazonの「プレミアムオファー」の一部であり、つまりこの先端ツールを使うには追加料金が必要ということだ。
「Amazonは、プラットフォームの統合とリブランディングに成功した」と、トンブラス・グループ(Tombras Group)のAmazonサービス担当バイスプレジデント、ケビン・パックラー氏はいう。「いまは点と点を線でつないでいる段階で、広告プラットフォームの全体像、それにAmazonの目指すものがようやく見えはじめたところだ」。
下のスクリーンショットから、過去1年のダッシュボードの進化が見てとれる。最初が現在のもので、トレンドやキャンペーン終了日までの期間のデータが見られるようになっている。2番目は2017年のもので、全期間を通じたデータしか見ることができない。
パックラー氏は、第二の進化が必要だと語る。たとえば、購買層に関するより詳しい情報や、デバイス分析といった、Amazonがまだ提供していない機能だ。
「Amazonの問題は、あまりにもたくさんの部署やプロジェクトがあり、それに伴い異なる指標が生まれることだ」と、彼はいう。
Amazonの広告エコシステムが未熟であることの副作用のひとつとして、テック企業やエージェンシーのなかから、未解決の問題や混乱を逆手にとり、ブランドから仲介業務を請け負う会社が成長していることがあげられる。たとえば、テイカメトリクス(Teikametrics)は機械学習プラットフォームを構築し、全カテゴリーのデータや広告価格のモデリングを行うことで、Amazonの広告プロダクト全体にキーワードの最適化を実施する。マーケットプレイス・イグニッションについても、ブランドに仕事を依頼されるのはAmazonのことをよくわかっているからだと、ヘラー氏はいう。
販売サポートの問題点
広告販売に欠かせないものをひとつ挙げるなら、それはケーススタディだ。バイヤーは、何が、なぜ、どういった点で効果的だったかを知りたいものだ。このことが、内部の仕組みやデータに関する秘密主義で有名なAmazonへの不満につながっている。Amazonの動画広告のケーススタディを検索しても、大したものは見つからない。他の巨大プラットフォームで同じことを検索すると、結果は大きく異なる。たとえば、Facebookは358ものケーススタディを公開している。
あるバイヤーによれば、Amazonのケーススタディがほとんどないのは、広告参入から日が浅く、法務担当部署が広告に特化していないためだ。GoogleやFacebookと異なり、Amazonは広告売上至上主義ではない。Amazonにとって広告は、小売というコアビジネスに付随する、数多くのサイドビジネスのひとつにすぎない。そして、小売の第一原則といえば、すべてのデータを安全に保護することだ。
「Amazon社内に、どのデータをどんな形で公開するかについて葛藤がある」と、先述のバイヤーはいう。「彼らは完璧なデータしか表に出したがらないが、ケーススタディはそういうものではない。投資利益率(ROI)を推し量るヒントだけでも、ないよりずっといい」。
広告販売の最大手としてGoogleとFacebookが台頭した理由のひとつに、エージェンシー担当部署の設置がある。Amazonはこの点で遅れをとった。とはいえ、Amazonも好機を逃すまいとしている。ニューヨークの再開発地区ハドソンヤードの巨大プロジェクト「マンハッタン・ウエスト・タワー」に確保した2フロアは、主に広告担当部署にあてられる予定だ。
情報筋によれば、AmazonはWPPなどの持ち株大企業にリソースを提供している。だが3人のバイヤーによると、研修内容は十分ではないようだ。パックラー氏は、Amazonがエージェンシーに積極的にアウトリーチを続けていることを賞賛する。けれども、別のバイヤーは、エージェンシーへの支援は素晴らしいが、研修機会がもっと欲しいと話す。「ツールの使い方を教えてくれれば、自分で使うようになる。Amazonがリソースを割いているのはわかるが、わたしが望むのは大勢に研修を実施することだけだ」。
Amazonの広告事業の成功は、ある意味でAmazon自身にとっても予想外だったのかもしれないと、このバイヤーは述べた。「彼らは広告事業をはじめたらどうなるか、様子を見るつもりだった。ところがはじめたとたんに大成功を収めた。そして人々の話題をさらい、全体の収益に大きく貢献するまでになった。だが、そこにしっかりした戦略や展望があるようには思えない。そうであったらよかったのだが」。
黎明期の広告事業
バイヤーたちは、Amazonの広告事業の進歩について、現実的な見方をとっている。これまでの急成長からみて、AmazonがGoogle、Facebookに次ぐ、デジタルアドプラットフォームの第三勢力になることは確実だ。また、先取的なプラットフォームバイヤーの一部は、Amazonへの不満のほとんどはフェアではなく、エージェンシーにありがちな、不確定要素の多いテックプラットフォームに対する虚勢のことが多いと考えている。
「広告主やエージェンシーは、口を開けば『このプラットフォームには、これがない』と、不満ばかりいう。一体どうしたいっていうんだ? いつまで文句を言い続ければ気がすむんだ?」と、ナニガンズ(Nanigans)のシニアバイスプレジデント、ベン・トレゴー氏は語った。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)