ベライゾン、10億ドルの負け戦「Go90」の内実:「成功の見込みは無かった」

ローンチパーティには、地味なものから派手なものまでさまざまあるが、ベライゾン(Verizon)が2015年9月、Go90(ゴーナインティ)のために行ったパーティは稀に見る規模のものだった。カニエ・ウェストのライブ、制作会社ファニー・オア・ダイ(Funny or Die)の人気番組「ビトウィーン・トゥー・ファーンズ(Between Two Ferns)」に登場するコメディアン、ザック・ガリフィアナキスによるライブ・パフォーマンス。そして、ジョン・レジェンドからショーン・ホワイトに至るまで、大物セレブリティたちが会場に現れた。ベライゾンによる野心的なモバイル動画新規事業Go90がデジタルエンターテイメントにおける次の大きな波になるという楽観が確実に表れていた。

携帯電話会社のベライゾンはメディア企業になろうとしていた。しかも、多額の予算をそこに注ぎ込む覚悟があった。若い世代の視聴者が従来のテレビではなく、YouTubeやソーシャルに流れ込んでいるなか、新しいビデオプラットフォームが登場するには、機は熟していた。すでに若いオーディエンスは、デジタルビデオクリエイターやメディア企業からの高品質なコンテンツをモバイルのスクリーン上で何時間も視聴していた。そのレベルのコンテンツを提供できるプラットフォームとなれば、参入にも期待が高まるのは当然だろう。

しかし、3年も経たないあいだに、このビジョンは死んでしまった。ヴェッセル(Vessel)、コムキャスト(Comcast)によるウォッチャブル(Watchable)、そしてサムスン(Samsung)によるミルクビデオ(Milk Video)といった、野心的なスタートアップ事業の波に乗っかる形ではじまったGo90だったが、先日、ベライゾンは正式に、Go90の7月31日サービス停止を発表した。世界有数の配信パワーと巨大な予算を持っていても、オーディエンスのニーズを捉えることに失敗すれば成功しないという教訓を学ぶのに、高額のレッスン代を払ったことになる。

「Go90はそもそも成功の見込みが無かった」と語るのは、メディアアドバイス企業クリエイティービーメディア(Creatv Media)のファウンダーであるピーター・キャシー氏だ。「業界は、Go90の戦略を本当には理解できていなかった。それでもお金だけは、喜んで受け取った。Go90はコンテンツに対して、見合わないほどのお金を払ってしまったと、ほとんどの関係者が報告している」。

モバイルビデオに大きく賭けたベライゾン

ベライゾンのデジタルビデオに対する野心は、インテルメディア(Intel Media)を買収したときに高まった。インテルメディアは半導体メーカーのインテルが持っていた、ウェブベースのストリーミングTBサービス、オンキュー(OnCue)の一部門だった。しかし、のちにベライゾン自身が学んだように、問題は有料TVのバンドルをローンチするのに必要な番組契約を確保するのに苦労していたことだった。

買収からすぐに、ベライゾンは新しいチャンスを目にする。若い世代の人々は昔ほどはテレビは見なくなっていた。変わりにYouTubeやソーシャル上で時間を費やしていた。彼らが視聴していたのは、新興のデジタルメディア企業やビデオクリエイターのスターたちによる、さまざまな種類のビデオや番組だった。同時にこれらのビデオクリエイターたちは、ビジネスとして収益を維持することに苦しんでいた。2014年や2015年の時点でのマネタイゼーションは、YouTubeのプレロール広告によるレベニューシェアリングやブランデッドコンテンツ、そしてスポンサーシップにほぼ限られていたからだ。

多くのデジタルビデオクリエイターにとってベライゾンは救世主のように現れたわけだ。ヴェッセルやサムスンによるミルクビデオの失敗があったあとに、とめどない予算を持ったように見える巨大企業が参入し、デジタルビデオに大きく賭けようとしていた。そして、ベライゾンも番組製作者たちに支払う金額に関してためらわなかった。Go90と近い、ふたつの情報源によると、プロジェクトの終盤までにベライゾンは、なんと約12億ドル(約1350億円)も費やしたことになるという。これはオンキューとヴェッセルを買収するのに使われた金額自体も含まれる。Go90自体のコストは、3億ドル(約337億円)以下だったとのことだが、詳細は得られなかった。

いくつかのビデオ会社にとって、Go90は金のなる木だった。番組契約の実情に詳しい複数の情報源によると、オーサムネスTV(AwesomenessTV)とコンプレックスネットワークス(Complex Networks)は、複数年に渡る「アウトプット」契約を結び、それぞれに対して、毎年何千万ドルという金額が支払われたようだ(ベライゾンは両方の企業の株を所有)。

モバイルの重要性は明確でも、それ以外はすべて不明確

Go90から報酬を受け取ったことがあるという複数の情報源によると、ベライゾンの売り込み文句とは、モバイルビデオが未来であり、消費者の視聴習慣がどんどんとモバイルスクリーンへと移るのにあわせて、彼らが拠点となるべく大きく賭けに出る、というものだった。また、Go90はYouTubeとは違い、プレミアム環境になるとも謳っていた。それによって広告レートも高くなるというわけだ。Go90はTV番組をライセンス放送し、スポーツや音楽イベントのライブ配信についても高々と語っていたという。

前に行われたインタビューにおいて、当時のベライゾンにおける消費者プロダクトポートフォリオ部門シニアバイスプレジデントであり、Go90設立当初からの責任者であったブライアン・アンジオレット氏は、米DIGIDAYに語っている。「多くの人々がたっぷりと時間を費やすことができるコンテンツを提供できている。ウェブ、テレビ、ライブといったあらゆるソースから、プレミアムレベルのコンテンツを視聴者は見つけることができる」。

ハイクオリティのコンテンツを大量に提供するという考えに最初の段階から取り憑かれていたベライゾンのエグゼクティブたちが、フォーカスを失っていたと、複数のGo90のプロダクション・パートナーたちが語ってくれた。彼らがリーチしようとしていたオーディエンスが誰なのか、ベライゾンが実際に知っていた様子はない。その一方で、YouTubeやインスタグラム(Instagram)、Snapchat(スナップチャット)といったソーシャルプラットフォームは継続して、モバイルスクリーンに適したフォーマットやプロダクトを導入して、若い世代のユーザーたちを取り込むことに成功していた。

「たくさんのビデオを見るために人々がGo90に集まってくると思っていたようだ。けれども、誰も本当にそんなことを人々が求めていたのか聞いてすらなかった。何億万ドル、もしくは10億ドルものコストに見合うなんてマーケットリサーチがどこに存在してたのか。すべてが実験に過ぎなかった。誰もリサーチをしなかったように感じられた。存在していない問題の解決策を作っているような具合だ」と、Go90と長年協働してきたプロダクション・パートナーのひとりは語った。

3つ目のステップは収益性。しかし、上手くいかない

Go90がローンチされてから1年が経ち、コンテンツパートナーたちはビデオの再生数が1000単位であることに不満を述べていた。冗談で、Go90のことをSlow 90と呼んでいたくらいだ。

現在はベライゾンのシニアバイスプレジデントで最高コンテンツ責任者であるアンジオレット氏は、その間もGo90の責任者として留まり続けた。しかし、彼の下はというと、まるで回転ドアのように次から次へとエグゼクティブたちが入れ替わり、Go90をなんとか軌道に乗せようとしていたのだ。ベンチャーがはじまり、1年が経ち、NBCユニバーサル(NBCUniversal)に長年務めていたエグゼクティブのチップ・カンター氏が入ってきた。カンター氏はYouTube、ヴェッセルで勤務してきたイヴァナ・カークブライド氏をGo90の最高コンテンツ責任者として雇った。

Go90が「コンテンツサンデー」アプローチと呼んだ新しい戦略も、古い戦略とそれほど違ってはいなかった。スポーツの生放送やライセンスコンテンツといった、さまざまなジャンルやフォーマットにおけるオリジナル番組を生み出すというものだ。「Go90とは何なのか?」という疑問の声は、多くのプロダクション・パートナーから上げられた。

新しいエグゼクティブチームは、デジタルビデオエンターテインメント分野の経歴を持っていた。このチームには元ブリップ(Blip)のエグゼクティブであるスティーブ・ウルフ氏、元メーカー・スタジオ(Maker Studio)、ヤフー(Yahoo)のエグゼクティブであったエリン・マクフィアソン氏も含まれていた。そのため、Go90パートナーのあいだには楽観的な気持ちが広まっていた。ここにきてやっと、ベライゾンもモバイルビデオに賢い方法で取り組むためのチームを持ったわけだ。YouTubeやほかのエンターテイメント分野からの法務専門家も雇った。彼らはコンテンツ契約の交渉の仕方を知っている専門家たちであり、より長期の独占ライセンス期間といった、Go90にとって有利な契約を求めはじめた。

しかし、カンター氏の役割のひとつは、Go90のプロダクション・パートナーへと回るお金の一部を取り戻すことだったと、複数の情報源が語っている。プロジェクト全体を停止するという判断にベライゾンが近づいていたようだ。

オース参加に入る、Go90

今年はじめには、Go90はAOLとヤフーの合併によって生まれたパブリッシングとテクノロジー企業オース(Oath)の管理下に入った。リコード(Recode)主催のイベントにおいて、オースのCEOであるティム・アームストロング氏は、Go90の将来について質問され、今後どれだけの間、Go90ブランドが継続されるかは不確定だと答えている。

アームストロング氏のコメントの前段階で、エグゼクティブたちが合併の動向を待つために、新しい支出を停止していた。コメント前後には、Go90の名前のままか、異なる名前に変わってか、Go90というプラットフォームではなく、オースが所有するプラットフォームのためのプロジェクト開発のためのスタジオとして再生するのではないかという推測が流れていた。

オースとベライゾンは、どうやらその方向性に進んでいるように見える。ベライゾンに近い立場の情報源によると、オースはスポーツライブ配信とスポーツ、ニュース、ファイナンス、そしてエンターテインメントのカテゴリーにおけるオリジナルビデオに専念しているという。ベライゾンが7月31日にGo90を閉じる準備をするあいだ、Go90のエグゼクティブたちは会社の他分野へと移るオプションを提示されているという。

ベライゾンとオースがビデオに今後も取り組むとしても、長期的にGo90が会社全体にどのようなインパクトを持つかは不明確だ。

デジタルビデオのクリエイターたちは一方で、また巨大なバイヤーが現れないかと期待している。もしかしたらジェフリー・カッチェンバーグ氏のニューTV(NewTV)が、ようやくモバイルとショートビデオへと参入するかもしれない。もしかしたら、だが。

「デジタルコンテンツに対する消費者からの需要は、短いものが良い、というものがある。Go90はそれを理解しなかった。ヴェッセルもそれを理解しなかった。けれど、ほかのビデオサービスが入ってくる余地はあると、私は思っている。広告収益を欲しがるだけの人材ではなく、消費者がどのように行動するかを真に理解している人材によってサービスが行われる必要があるのだ」と、Go90のプロダクション・パートナーのひとりは語った。

Sahil Patel(原文 / 訳:塚本 紺)