メディアバイイング大手のグループM(GroupM)が4月30日(米国時間)に発表したレポートおよび、メディアエージェンシーのゼニス(Zenith)が5月2日(米国時間)に発表したレポートを中心に、世界の広告支出の現状を5つのグラフで見てみよう。
デジタルメディア広告の世界では、広告詐欺、ブランドセーフティー、測定値のごまかしといった問題がいまも見られる。しかし、そのために広告費が減っているということはない。
メディアバイイング大手のグループM(GroupM)が4月30日(米国時間)に発表したレポート「インタラクション2017(Interaction 2017)」によれば、2017年には新しい広告予算1ドルにつき、77セントがデジタル広告に使われる見込みだという。そして当然ながら、トップを独走しているのはGoogleとFacebookだ。2012年から2016年にかけて、この2社はデジタル広告支出の3分の2以上を懐にした。
メディアエージェンシーのゼニス(Zenith)が5月2日(米国時間)に発表したレポート「トップ30グローバルメディアオーナー(Top Thirty Global Media Owners)」によると、2016年には世界全体の広告支出の20%がGoogleとFacebookに流れ込んだという。
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だが、少なくともGoogleに関しては、勢いがやや衰えてきた可能性がある。あるエージェンシーの人間が匿名を条件に語ったところによると、YouTubeの問題が公表されているよりも深刻な影響をGoogleにもたらしているという。「広告主がYouTubeから広告を引き上げたことが、大きな痛手となっている」と言うのは、あるメディアエージェンシーの最高経営責任者(CEO)だ。「これまでYouTubeに広告費をつぎ込んでいた広告主の多くが、いまも広告を控えている。Googleの決算は対前四半期比でプレッシャーに晒されている状況だ」と、このCEOは匿名を条件に語った。
それでは、世界の広告支出の現状を5つのグラフで見てみよう。
リードを続けるGoogleとFacebook
ゼニスのレポートによると、持株会社アルファベット(Alphabet)の傘下にあるGoogleは、2016年に794億ドル(約9兆円)もの広告売上を得た。この額は、広告売上が269億ドル(約3兆円)だったFacebookの3倍だ。また、129億ドル(約1.5兆円)の広告売上を記録したテレビ事業者のコムキャスト(Comcast)が第3位になった。
広告売上ランキングでトップ30に入った大手メディアには、デジタル専業メディアを所有する企業が多い。具体的には、ベライゾン、Twitter、ヤフー、マイクロソフト、バイドゥといった企業だ。2016年にこれらの企業が獲得した広告売上は、合わせて1328億ドル(約15兆円)となっている。これは全デジタル広告支出の73%に相当する金額で、すべてのメディアを対象とした世界の広告支出の24%を占めたと、ゼニスは述べている。
「ゼニスの最新ランキングは、インターネット広告プラットフォームが世界の広告支出の成長をどれほど牽引しているのかを示すものだ」と、ゼニスで予測担当責任者を務めるジョナサン・バーナード氏は語った。
ただし、Twitterをみくびるべきではない
GoogleとFacebookのデュオポリー(2社による独占)やSnapchat(スナップチャット)の人気上昇が大きな話題となるなか、Twitterは脇に追いやられている感がある。いくつかの記事で報じられているとおり、同社はこのところ広告売上を減らし気味だ。だが、ゼニスのレポートによれば、2012年から2016年のあいだに、Twitterは広告売上を734%増やしており、同期間でもっとも増加率の大きい企業となっている。第2位は中国の大手ソーシャルプラットフォームであるテンセントで、同じ期間の増加率は697%(金額にして439万ドル[約5億円])。第3位はFacebookで、増加率は528%だった(金額にして2700万ドル[約30億円])。
広告支出の伸びは大都市に集中している
ゼニスが発表した別のレポート「広告支出予測(Advertising Expenditure Forecasts)」によると、2016年から2019年にかけては、世界の10都市が広告支出の拡大の11%を担う見込みだという。これら10都市の人々をターゲットにした広告の支出額は、2016年には610億ドル(約7兆円)だったが、2019年には690億ドル(約7.8兆円)にまで増加すると見られている。金額がもっとも大きいのはニューヨークで、2017年には広告支出が150億ドル(約1.7兆円)になるという。東京も引けを取っておらず、予測額は130億ドル(約1.5兆円)だ。ロンドンは80億ドル(約9兆円)になると見られている。
英国のEU離脱(ブレグジット)が広告支出にどのような影響を及ぼすのかは、まだわからない。それでも、2019年までの広告支出の増加に対する貢献度で、ロンドンは第2位になるという。9億6800万ドル(約1100億円)がロンドンによって世界の広告市場にもたらされるとゼニスは予測している。
「いまは先を見通せない時代であり、予算は引き締められる傾向にあると人々はいう。だが、私はそうは思わない」と、独立系メディアエージェンシーのVCCPメディア(VCCP Media)で会長を務めるポール・ミード氏は言う。「誰もが週単位、月単位で取引をしている。彼らは、ブレグジットのような大きな問題のことなど考えていない。大手ブランドのほとんどは、投資を引き締めてしまえば売上に影響が出ることをわかっている」と、ミード氏は指摘した。
テレビの価値は衰えず
現在、デジタル広告支出は、10の市場でテレビの広告支出を上回っている。その10市場とは、オーストラリア、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スウェーデン、そして英国だ。さらに、5つの市場(ドイツ、フランス、アイルランド、香港、台湾)でも同じ状況が起こりつつあるとグループMは報告している。
それでも、テレビはほかのメディアと比べて、いまも強い力をもっている。2016年には、テレビが広告支出に占める割合は42%だった。
プログラマティックTVがそれなりの規模に成長するのは、まだ先のことだ。同じように、データ(自宅の場所、購買行動、収入など)に基づく広告を従来型のリニアTVの広告に挿入するアドレサブルTVも、規模の面で壁にぶつかっている。
いまはモバイルの世界だ
広告支出におけるデジタルメディアのシェアは、ゆっくりではあるが拡大中だ。全広告支出に占めるデジタルメディアの割合は、2016年には30.7%だったが、2017年には33%に達すると予測されている。グループMによると、人々がメディアに費やす時間は全体として増えており、2016年には1日あたり8時間だった。また、平均的な人がメディアを利用する時間は、前年比で1日あたり9分増加した。さらに、オンラインメディアに費やす時間は14分増えているが、これはモバイルの成長のおかげだ。同社のレポートにはSnapchatのようなプラットフォームのデータが含まれていないが、成長の要因として真っ先に思い浮かぶのは、こうしたプラットフォームだろう。
「2016年には、GoogleとFacebookが、増加を続けるデジタル広告支出の大半を引き寄せた」と、グループMでフューチャー・ディレクターを務めるアダム・スミス氏は言う。「2017年には、SnapchatやAmazonが、FacebookとGoogleのバリューチェーンにどのように割って入れるのかに、業界の注目が集まるだろう。また、バイドゥ、アリババ、テンセントが、中国にもっているような強力な足場を世界市場に広げられるかどうかも注目される」とスミス氏は語った。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)