欧州の一般データ保護規則(GDPR)が2018年5月25日に施行され、デジタルメディアや広告業界は大混乱しているようだ。5月25日の早い時間から、アドエクスチェンジは場合によっては欧州の広告需要量の25~40%の落ち込みを体験した、と情報筋は伝えている。
欧州の一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:以下、GDPR)が2018年5月25日に施行され、デジタルメディアや広告業界は大混乱している。
5月25日の早い時間から、アドエクスチェンジは場合によっては欧州の広告需要量の25~40%の落ち込みを体験したと、情報筋は伝えている。アドテクベンダーは、Googleから彼らのプラットフォームを通じてやってくる需要の急激な減少が予測されることをクライアントに伝えるのに大わらわだった。米国のパブリッシャーのなかには、欧州サイトでのプログラマティック広告を全面的に中止したところもある。
Googleはここ数日、「DoubleClick Bid Manager(以下、DBM)」のクライアントと連絡を取り、欧州インタラクティブ広告協会(IAB Europe)やIABテックラボ(IAB Tech Lab)のGDPRトランスペアレンシー&コンセントフレームワーク(Transparency & Consent Framework:透明性と同意の枠組)との統合が完了するまで、パブリッシャーやアドテクベンダーパートナー、広告主は、5月25日以降、サードパーティの欧州のインベントリー(在庫)でのDBMキャンペーンの提供が「短期的に混乱」すると見込まれると警告している。
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「売上と(広告需要の)量は、軒並み大幅に減少すると思われる」と、あるパブリッシャーの幹部は匿名を条件に語った。
パブリッシャーからのインベントリーサプライの流れは多くのアドエクスチェンジで落ち込み、いくつかの情報筋はその原因として、米国のパブリッシャーが欧州でのプログラマティック広告を大量に引き上げたことをあげている。ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)やシカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)は欧州のサイトを閉鎖した。USAトゥデイのようなタイトルは欧州サイトの訪問者が米国サイトにアクセスできるようにしている。USAトゥデイは欧州サイトも継続しているが、広告は掲載していない。ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のページは欧州ではプログラマティック広告を一切表示していない。ほとんどのサイトは自社広告を掲載している。あるアドテク情報筋は、NYTは現在、オープンなアドエクスチェンジでは利用できない。NYTからのコメントはまだ得られていないが、コメントがあり次第アップデートする。
Googleに対する不満
多くの人にとってのフラストレーションはGoogleに向けられている。GDPR施行の前日、バイヤーたちは、特に追跡やアドベリフィケーションのピクセルを使っているサードパーティのアドエクスチェンジ上でGoogle経由でインベントリーを購入しないよう注意喚起をされもした。そうしたパートナーが法律に準拠しているかどうか、Googleには確認できないからだと情報筋は説明する。いくつかのエージェンシーグループは5月24日の遅くにこの警告を受けたが、Googleのガイダンスはないに等しいと感じるものも多いと、エージェンシーの情報筋はいう。
あるメディアバイヤーは「彼ら(Google)はそれを解決しようとしている。当面のところ我々は、(Googleの)追跡ツールだけを利用するようクライアントに提案していくつもりだ」と匿名で話してくれた。エージェンシーのライブキャンペーンに対するアップデートの影響はまだないので、このバイヤーは特に混乱はしなかったそうだが、状況は理想からはほど遠い。もっとあからさまに批判するものたちもいた。
匿名で取材に応じたアドテクベンダーはこう語った。「実に傲慢だ。彼ら(Google)は、みんなを脅して彼らの(GDPR)システムを使わせることができると考えていたが、業界はそっぽを向いて彼らに膝蹴りを喰わせた。彼らはこれに戸惑い、(IABの)フレームワークへの統合を進めなければならなくなった。しかし、そのせいでGoogleは規制当局から脚光を浴びせられてしまった。(GDPR規制当局に)注目されるという状況をGoogleは快く思っていないだろう。皮肉なことに、短期的にせよ、全員が苦しんでいるときに(アドエクスチェンジの需要の急激な増加から)商業的勝利を手にするのはGoogleだ」。
あるアドバイヤーは次のようにいう。「Googleからメッセージが来たタイミングが問題だった――昨日(5月24日)の午後に知らせてきた。彼らは前から知っていたのだから、適切ではない。これは、メディアバイイング戦術を試したり、クライアントに通知したりする時間が我々にはなかったことを意味する。おまけにアドエクスチェンジの利用も強要された」。
Googleサイドの言い分
Googleの広報担当者は、「我々は、IABのフレームワークとの統合を完了させると同時に、サードパーティのエクスチェンジパートナーと協力して混乱を最小限に留める暫定策を開発している」と述べている。Googleは、IABのフレームワークを利用しているパブリッシャー向けにパーソナライズされた広告提供を6月初めまでに可能にすると約束し、8月までにはIABのフレームワークと完全統合を終え、ベンダー経由でユーザーが提出した同意に基づいてパブリッシャーがパーソナライズされた広告を提供する、あるいはパーソナライズされていない広告を提供することができるようにするとしている。
「GDPRはすべての人にとって大きな変化だ」とGoogleの広報担当者はいう。「過去1年、我々は約60カ国、1万以上のパブリッシャー、広告主、エージェンシーとイベントやワークショップを通じて関わって、GDPRに準拠するために我々が行ってきた変更について話してきた。我々はパブリッシャーパートナーに対して門戸を開放し続け、GDPRコンプライアンスに関する議論を進めていく」。Googleはさらに、IAB外での同意に向けての別の選択肢についてアドエクスチェンジと共同作業を進めてもいる。
バイヤーもパブリッシャーも、Googleはなぜ土壇場まで待っていたのかと不思議に思っている。GDPRができるまでには3年の時間があった。メディアエージェンシーのなかには、Googleからこんなにも混乱した、あるいは複雑なメッセージを受け取った結果、少しでも不安に感じたときにはキャンペーンを一時中止しているところもあり、それがGoogleのエコシステムの外にあるデマンドサイドプラットフォームが体験している需要の減少を引き起こす要因になっている。
いろいろな問題は、数カ月とはいかないまでも、数週間は続くと考えているものは多い。しかし、IABのGDPRフレームワークとの完全統合の期限としてGoogleが定めた8月まで、まだ2カ月以上もある。
誰にとっても苦しい時期
アドテクベンダーは、Googleのアップデートが売上に与える影響について、クライアントに知らせる作業に追われている。アップネクサス(AppNexus)は、予想されることを警告する内容の電子メールをクライアントに送った。クライアント宛ての電子メールの一部には、「Googleの技術は、Googleだけの需要(クリエイティブ内で許されたサードパーティではなく、DBM内で許されたパーソナライズ広告)で変化して、我々のエクスチェンジに反応する。我々のおおよその試算では、DBMから25~75%の減少がありそうだ」と書かれていた。
電子メールは、アップネクサスがGoogleといかに協力して問題解決に向けて動いているかを伝えてもいる。「DBMは、各ベンダーが我々のクライアントの同意を得ていることを条件に、アップネクサスのベンダーのホワイトリストを受け取って認めることに、同意するだろう。Googleからは、このホワイトリストの発表までには数日かかる、と通知が来ている」とクライアント宛てメールにはある。
いまは誰にとっても苦しい時期だ。バージ(The Verge)の記事によると、GoogleとFacebookはどちらも、ユーザーに個人情報の共有を強制しているとして訴えられている。この訴訟は、オーストリアのプライバシー活動家マックス・シュレムス氏が起こしたもので、Facebookに39億ユーロ(約45億ドル:約4900億円)、Googleに37億ユーロ(約43億ドル:約4680億円)の罰金支払いを求めている。
「GDPR 入門ガイド」はここでダウンロードできる。
Jessica Davies(原文 / 訳:ガリレオ)