東南アジアのデジタル市場には、アリババ、テンセント型のコングロマリット型のトレンドが見え隠れする。楽観的なシナリオでは、ASEANを一国と考えると2020年に日本を超え、2030年に世界第4位の経済になる。
東南アジアのデジタル市場には、アリババ、テンセント型のコングロマリット型のトレンドが見え隠れする。楽観的なシナリオでは、ASEAN(東南アジア諸国連合)を一国と考えると2020年に日本と同水準になり、2030年に世界第4位の経済圏になる。多様なプレイヤーがひしめくか、それとも少数のコングロマリットが制覇するか。東南アジア最大のネット企業ガレナ(Garena)と東南アジアテックシーンの最初期からの投資家/起業家である独ベンチャーキャピタル・ロケットインターネットを取材し、今後のマーケットを探ってみた。
東南アジア最大のガレナ:他業種に手を伸ばす
「2000人の『地上部隊』が東南アジア各国にいる。村から村へとリアルの顧客、リアルのユーザーをマーケティングするのに役立っている」。ガレナのプレジデント、ニック・ナッシュ氏はTeck in Asia Tokyo 2016でこう語った。東南アジアはさまざまな民族が交じり合い、そのニーズや関心は多様だ。
ガレナは2009年中国出身のシンガポール人フォレスト・リー氏が創業したゲームEC企業。従業員は約5000人。評価額は37億5000万ドル(約4000億円)で東南アジア最大のネット企業であり、地域の急成長するネット産業の象徴だ。9月上旬には世界有数の政府系投資会社テマセク・ホールディングス(シンガポール)、孫泰蔵氏などが出資を決めている。
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「サイバーカフェ(東南アジアのゲーム専用ネットカフェ)をまとめ上げるには、村から村へと行脚し、我々のサービスを説明しないといけない」。ガレナは現在、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイランド、ベトナム、香港、台湾で事業を展開している。各国のサイバーカフェで伝統的な形の営業を進めているという意味だ。
ガレナにはもうひとつ大きな柱が育ちつつある。「昨年6月にEコマースの『ショッピー(Shopee)』を7カ国語対応で開始して以来、ショッピーは地域で最速の成長を遂げるモバイルマーケットプレイスだ」とナッシュ氏は語った。
ガレナ・プレジデント、ニック・ナッシュ氏 by吉田拓史
ショッピーは、中小の小売企業がひしめく東南アジアのショッピングモールをそのままネットに入れたようだ。ショッピーは現在出店者の運営コストを助成し、マーケットプレイスのスケールを目指している。これにより、先行していたアリババ子会社のラザダ(Lazada)、トコペディア(Tokopedia)と強烈な競争が始まっている。
ガレナはゲームからECに足を広げ、モバイルペイメントにも足を踏み入れている。同じくゲーム事業からソーシャル、金融など多様な領域に事業を拡大したテンセントをなぞろうとしているように見える。東南アジアのテック企業はテンセント、アリババを成功モデルと捉えており、模倣する傾向が鮮明だ。
「30秒以内に売れる」となめらかなインターフェイスを訴えるショッピー。チャットによる質問、交渉も可能で、売掛金もショッピーが保証(エスクロー)してくれる。
ロケット:先進国のモデル飛び越える
ロケットインターネットの東南アジア事業会社のひとつ、アジア・パシフィックインターネットグループ (APACIG)CEO のハンノ・スティグマン氏(写真㊦=Tech in Asiaから)はDIGIDAY[日本版]の取材に対し「テンセントのモデルは本当に素晴らしいものだ。だが、必ずしも東南アジアでそれがそのまま通用するとは限らない」と語った。
ロケットインターネットは東南アジアでもっとも先行していたECのラザダを設立。ショッピーが急追するなか、アリババにラザダ保有株を売却する見通し。ロケットインターネットの第2四半期決算は保有/出資企業の価値の低下に苦しむ結果となった。
市場の急速な多様化のなか先駆者利益は生きるのだろうか。「ショッピーは確かに成長しているが、米中以外のインターネット産業で会社設立・投資してきた経験のあるロケットインターネットとアリババのチームが強いのは明らかだ」とスティグマン氏は語った。「我々はミャンマーにスタートアップ6社を設立した。ミャンマー経済の成長は確かでモバイルは爆発的に普及している」
市場の見通しはいい。Googleとシンガポール国営投資会社テマセク・ホールディングスによるリサーチ『e-conomy SEA』は、東南アジアのインターネット経済の規模が2025年に2000億ドル(約20兆円)を超えると予測。牽引役はeコマースと旅行だ。「我々はあのレポートについて何度も議論を重ねてきた。東南アジアは他の地域に比べて競争が激しくない。欧米ならひとつの業態で数十社が競争することになるが、東南アジアでは2、3社いればいい所だ。我々は早期に市場に入り、長期的に投資する。この方法が実を結ぶときがくるだろう」。
東南アジアはインフラの脆弱さが指摘されている。「確かに交通、生活、社会のインフラが弱く、これらはリアルと接触のあるビジネスにとって障害になりうる。しかし、この課題を逆用し、先進国が通ってきた道を飛び越すことができる。そうすると先進国よりも素晴らしいものが地域から出現するはずだ」と、スティグマン氏は語った。
Text by 吉田拓史
Photo by Thinkstock