これまでストリーミング戦争はビジネスモデルやサービスの特徴ごとに、いくつかの争いにわかれていた。しかし、ストリーミング視聴が増加の一途を辿るなかで、個別の争いは巨大な「領土戦争」になりつつある。メディアやエージェンシーの幹部たちは、囲い込みが加速し市場が分断され、透明性が失われつつあることに懸念を示している。
ストリーミング業界の縄張り争いはさらに激しくなっている。
3月以降ストリーミング視聴は増加しており、これが個々のストリーミング戦争を大きな「縄張り争い」へと発展させている。Netflix、Disney+(ディズニープラス)、HBOマックス(HBO Max)といったサブスクリプションベースのストリーミングサービスたちがしのぎを削るなか、Hulu、ピーコック(Peacock)、プルートTV(Pluto TV)といった広告対応のプラットフォームたちも争っている。また、Amazonとロク(Roku)というコネクテッドTVのプラットフォーム間のライバル競争もスローダウンする様子を見せない。
Googleが新しいAndroid TVデバイスの開発に取り組み、市場のシェアを大きく奪おうと動き始めたこともあり、今後も競争は激化するだろう。当初はサービスの特徴ごとにわかれていた争いは、互いに影響を与えながらより全体的な縄張り争いの様相を呈しはじめている。これにより、ストリーミング市場のいわば「生態系」がどんどんと細分化されつつあるのだ。
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プラットフォームとの主導権争い
ストリーミング業界が好戦的になっていることをよく示しているのが、AmazonとロクがNBCユニバーサル(NBCUniversal)とワーナーメディア(WarnerMedia)を相手に繰り広げている配信に関する争いだ。前者はいずれもコネクテッドTVプラットフォームのオーナーであり、報道によるとNBCユニバーサルが譲ろうとしない同社のストリーミングサービスであるピーコックの広告収益の一部を求めている。またワーナーメディアは報道によると、HBOマックスにFire TVやロクのアプリからの直接アクセスを制限することで、サブスクライバーとのダイレクトな関係をプラットフォームに奪われないようにしている。
さらに企業間の争いが顕著になっている最近の例には、Appleに関する懸念がある。これまではコネクテッドTVプラットフォームの中では比較的中立的な立場を貫いていたAppleだが、今後はApple TVでアプリを配信しているメディア企業との契約に対し、より積極的に介入する可能性があるというものだ。
この懸念はまだ可能性にしか過ぎない。しかし米DIGIDAYの取材に応じてくれたメディア企業の幹部のひとりは、最近のフォートナイト(Fortnite)の開発元であるエピック・ゲームズ(Epic Games)とAppleの争いを見ていると、中立性を捨てる可能性が見られると語った。AppleはCBSオールアクセス(CBS All Access)とショータイム(Showtime)というふたつのストリーミングサービスのサブスクリプションをバンドルで販売しているものの、これらのバンドルのサブスクライバーたちはApple TV上のアプリ経由でのみ視聴が可能となる、という契約をバイアコムCBS(ViacomCBS)と結んでいる。ここにもAppleがよりアグレッシブになっている傾向を見てとれる、と幹部は語った。
広告収益の奪い合い
縄張り争いはサブスクリプションだけにとどまらない。広告支出が従来型のテレビからストリーミング、コネクテッドTVプラットフォーム、ストリーミングアグリゲーターへと移るなかで、個々のメディア企業たちは自分たちがこれらの支出をマネジメントする立場につこうと同様の争いを展開している。
この流れはメディア幹部たちが「FAST」と呼ぶ、無料で視聴できる広告対応のストリーミングTV市場において顕著だ。AmazonによるIMDb TVやピーコックといった、自社以外のメディア企業からのストリーミングチャンネルを24時間配信している新興のプラットフォームは、広告収益を完全に掌握している。つまり、各チャンネルのインベントリを分割してメディア企業がそのインプレッションを自分たちで販売するといったことは認められておらず、収益の半分をメディア企業と山分けするという形が通例となっている、と複数のメディア企業幹部たちが証言している。
FASTはライセンスするプログラムを増やし、自分たちが広告収益をコントロールできるチャンネルをさらに増やそうとしているようだ。一方でメディア企業たちは、自分たちのチャンネルのパフォーマンスや視聴数に関するプラットフォーム共通のデータは受け取れない。「パフォーマンスを比較する共通項が存在しないため、どんなコンテンツをどこに流せばいいか判断が難しい」と別のエグゼクティブは言う。
分断されていくマーケット
メディア企業の懸念を他所に、コネクテッドTVプラットフォームやメディアコングロマリットのような広告対応ストリーミングサービス分野における大手のプレイヤーたちは、競って「囲い込み」を強めている。それによって市場はより分断され、広告主たちの苛立ちは増すばかりだ。
ロクがDSPのデータシュー(Dataxu)を昨年買収したあと、AmazonはFire TVプラットフォームにおけるデータシューの機能を停止させたのが好例だ。あるエージェンシーの幹部はこう語った。「コネクテッドTVはもはやお互いに在庫をシェアしない。いくつかの巨大なウォールドガーデンがあるだけだ」。
[原文:The streaming wars have escalated over turf grabs]
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)