ストリーミング事業は成長を続けているが、その成長にはますますコストがかかるようになっている。パンデミックの初期に急拡大したストリーミング業界のブームが、そのまま継続しているように見える。しかし2020年に起こったストリーミングの急増は、実は2021年には沈静化し、2022年には企業の出費が増加傾向にある。
ストリーミング事業は成長を続けているが、その成長にはますますコストがかかるようになっている。
2021年の第4四半期について、見かけからは特に、パンデミックの初期に急拡大したストリーミング業界のブームが、そのまま継続しているように見える。しかし、2020年に起こったストリーミングの急増は、実は2021年には沈静化した。そして、2022年には、直近の四半期決算報告が示しているように、サブスクリプションベースのストリーミング戦争に参加している主要な企業の出費が増加傾向にある。
主なキーポイント:
- 加入者争奪戦の激化に伴って、ストリーミングへの投資も増加している。
- しかし、どの企業も同じ程度にストリーミング事業に財布のひもを緩めているわけではない。
さらに多くの資金が投入される
サブスクリプションベースのストリーミングサービス市場は、過去2年間で大幅に拡大してきた。主要なプレイヤーとして現在、Netflix、Amazonプライムビデオ、ディズニー(Disney)のHulu(フールー)といったジャイアント企業をはじめ、ディズニーのディズニープラス(Disney+)、ワーナーメディア(WarnerMedia)のHBOマックス(HBO Max)、パラマウントプラス(Paramount Plus)、コムキャスト(Comcast)傘下のNBCユニバーサル・ピーコック(NBCUniversal’s Peacock)など、比較的最近市場参加した企業も加わっている。そして、分野の拡大によって、どの企業も(あのNetflixでさえ)新規加入者獲得に苦戦を強いられている。
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「このように競争が激化していることで、我々の成長率や利益率にいくぶん影響が出ているが、これらの新しいストリーミングサービスが始まったすべての国と地域で我々は成長を続けている」と、Netflixは2022年1月20日に発行された株主への手紙で述べている。
この競争の激化に照らして、コムキャスト、ディズニー、パラマウントなどの企業は、プログラミングライブラリを強化し、加入者を惹きつけるために、それぞれのストリーミングサービスにさらに多くの資金を投入する準備を進めている。
- コムキャストは2022年に、2021年の投資額の2倍にあたる30億ドル(約3300億円)をピーコックに投じる計画であり、「今後2〜3年で」50億ドル(約5500億円)に達すると見込んでいる旨をコムキャストCFOのマイケル・キャバナー氏は、2022年1月27日の同社の投資家向け収支報告の際に説明した。
- ディズニーのストリーミングサービスにおけるプログラミングおよび制作の費用は、直近の四半期で合計30億ドル(約3300億円)に及んでいる。これは前年比で36%増加したことになる。さらに同社のストリーミング事業へ投資は続き、2022年1月~3月の3カ月で32億ドル(約3520億円)に膨れ上がると想定されている。
- パラマウントは2021年に、ストリーミング事業に前年比120%増の22億ドル(約2420億円)を投じた。同社はすでに2024年に年間投資額を40億ドル(約4400億円)に増やす予定だったが、現在は見積もりを修正し、少なくとも60億ドル(約6600億円)としている。
収益は投資に追いついてない
ただし、ストリーミングサービスを手掛ける各社の収益は、上昇するコストをカバーできるほど増大していない。
- コムキャストはピーコックで2021年に17億ドル(約1870億円)の損失を出し、2022年には25億ドル(約2750億円)にまで膨れ上がると予想されている。
- ディズニーのストリーミング部門は、2021年10月~12月の3カ月間に5億9300万ドル(約652億3000万円)の営業損失を記録した。
- パラマウントはストリーミング事業の具体的な収益について公表していないが、2021年の同社のストリーミングサービスの売上額は16億ドル(約1760億円)で、同年の投資額に対して6億ドル(約660億円)下回っている。
公平を期すために付け足すが、この現象はすべてのストリーミング事業、もっと広く言えばテクノロジービジネス全般について、ごく標準的なことのように思われる。映画『フィールド・オブ・ドリームズ(Field of Dreams)』で、主演のケビン・コストナーが自分の農場に野球場を創ったように、これらの企業はどれも、ストリーミングの「フィールド・オブ・ドリームズ」を創り上げるために資金を投入し、最終的には加入者とその結果としての収益が上がることを期待している。ただし、明らかになりつつあるのは、これらの企業のなかには立派なスタジアムを建設している企業もあれば、空き地の草野球場を作っているだけの企業もあるということだ。
巨大化が進む各社の投資額
一例を挙げれば、ディズニーは2022年の1月~3月の3カ月で、コムキャストの年間投資額よりも多くの資金をストリーミング事業に投じると予測されている。一方でパラマウントは、ディズニーの今年の予想投資額の半分程度の額を投じる予定だ。
さらに言えば、ディズニーが2022年、現状のペースでストリーミングプログラミングに120億ドル(約1兆3200億円)を費やしたとしても、依然として主要な競争相手を下回っている。Netflixはすでに、2021年にコンテンツに170億ドル(約1兆8700億円)を投じたし、間もなく統合されるワーナーブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery)も、コンテンツに年間200億ドル(約2兆2000億円)を費やす予定だ。
[原文:‘Future of TV Briefing: The subscription-based streaming war is demanding bigger war chests]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU