2021年は、テレビ広告のアップフロント(米国における広告の先行販売)市場においてストリーミング専門セラーが躍進をとげる年となった。Amazon、ロク、YouTubeといったストリーミング専門セラーはもはや、従来のプレーヤーの後塵を拝してはいない。
今回の記事では、今年のアップフロント(米国における広告の先行販売)市場において、Amazon、ロク(Roku)、YouTubeと従来のテレビネットワークのオーナーが繰り広げる競争の状況がどう変わったかを取り上げる。
ストリーミング専門セラーの台頭
2021年は、テレビ広告のアップフロント市場においてストリーミング専門セラーが躍進をとげる年となった。
この年次契約サイクルの中心を占めたのは依然として従来のテレビネットワークオーナーだったが、Amazon、ロク、YouTubeといったストリーミング専門セラーはもはや、従来のプレーヤーの後塵を拝してはいない。Amazon、ロク、YouTubeは、テレビネットワークから主導権を奪ったわけではないが、いまやハンドルに手をかけている。
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注目の展開
- ロクやYouTubeなどのストリーミング専門セラーは、今年のアップフロントで例年より早く広告主やエージェンシーとの交渉を開始した。
- Amazon、ロク、YouTubeの今年のアップフロント戦略には、従来のテレビネットワークと似ている部分もあれば、対照的な部分もあった。
- ストリーミング専門セラーは、これまでのようなエージェンシーレベルではなく、個別の広告主とアップフロント契約を結ぶようになってきている。
- ストリーミング専門セラーは、テレビネットワークの広告インベントリー(在庫)が有する制約につけこみ、より柔軟なキャンセル条件を提示して、テレビが課す厳格なキャンセル条件との対比を強調した。
あるエージェンシー幹部によると、これまで広告主やエージェンシーは、テレビネットワークオーナーとの交渉のあとで、主要なコネクテッドTVプラットフォームや広告収入型ストリーミングサービスと交渉していた。しかし、今年は状況が違った。エージェンシー幹部によれば、ディズニー(Disney)やNBCユニバーサル(NBCUniversal)が5月のアップフロント市場の先陣を切ったものの、ストリーミング専門セラーもぴたりと追随したという。
「ロクとYouTubeはこれまでより早い段階で積極的に動いていた」と、UMワールドワイド(UM Worldwide)の統合投資部門でエグゼクティブバイスプレジデントとマネージングパートナーを兼任する、ステイシー・スチュワート氏は述べる。
その証拠に、7月12日、ロクは7社の主要エージェンシー持株会社とアップフロント契約を締結したことを発表した。
もうひとつの変化は、ストリーミング専門セラーが契約を結ぶ相手にみられる。Amazon、ロク、YouTubeは従来、エージェンシー持株会社とのあいだで最低投資額を取り決め、そのあとエージェンシーが1年にわたりクライアントと協力し、ブランドの広告費をコネクテッドTVプラットフォームやデジタルストリーミングサービスに誘導して、最低投資額を達成した。しかし、今年はストリーミング専門セラーが、個別の広告主とのあいだで最低投資額を定める動きが見られた。これは従来、テレビネットワークオーナーが採用してきたアプローチだ。
「ストリーミング企業はおおむね、持株会社レベルのコミットメントではなく、個別のクライアントとの契約を目指していた」と、あるエージェンシー幹部はいう。別のエージェンシー幹部は、この変化はストリーミング専門セラーがオーディエンスに関する個々の広告主のニーズや広告インベントリー需要を満たすことに自信をもっていることを裏付けるものだと指摘する。
こうした自信は、Amazon、ロク、YouTubeの交渉姿勢にも表れている。テレビネットワークのオーナーが広告主にコミットメントの早期達成を迫り、従来放送広告へのオファーを蹴ってまでストリーミング広告の契約締結をめざしていたのに比べ、ストリーミング専門セラーの態度はおおらかだった。「そういう意味では、アップフロントでは2つの物語が同時進行していた」と、また別のエージェンシー幹部はいう。
エージェンシー幹部によれば、ストリーミング専門セラーは急いで交渉のテーブルに着いたものの、交渉自体は急がなかった。その必要を感じていなかったのだ。なかには、まだすべてのストリーミング専門セラーとのアップフロント交渉を終えていないという幹部もいた。
「ロク、Amazon、Googleからは、契約締結を迫るプレッシャーは感じなかった。むしろ(これらの企業は)『従来放送市場から広告費が押し出されているのはわかっている。規模を拡大しつつある我々には、それを迎え入れる用意がある。そのことを知っておいて欲しい』という態度だった」と、3人目のエージェンシー幹部は述べた。
さらに、ストリーミング専門セラーは広告主に有利なキャンセル条件を提示することで、テレビネットワークオーナーとの差別化を図った。たとえばロクは、キャンペーン開始の2日前までなら広告主が購入した広告枠を100%キャンセルできるオプションを提供している。ほかのセラーは、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau; IAB)が定める、14日前まで100%キャンセル可能という基準を順守している。対照的に、一部のテレビネットワークオーナーは、ストリーミング広告在庫により厳格なキャンセル条件(キャンペーン開始の1カ月前までは広告購入の最大50%をキャンセル可能)を適用しようと試みていた。
しかし、今年のアップフロントにおいてテレビネットワークとストリーミング専門セラーのあいだで競争条件が平準化した最大の要因は、広告主の見方の変化だったのかもしれない。広告主はすでに、Amazon、ロク、YouTubeが提供しているものは、テレビとあまり変わらないと考えている。
「テレビの新しい定義は、テレビ的なコンテンツを視聴すること、テレビ画面でコンテンツを視聴することだ」と、スチュワート氏はいう。
今年のアップフロントで、ストリーミング専門セラーはデータクリーンルームを通じて番組レベルの透明性を確保し、コンテンツに対する広告主の懸念に対処した。これが功を奏したのは間違いないだろう。一方で、広告主は評価のアップデートを支持するような統計データも目にしている。たとえば、米国では1億2000万人以上がテレビ画面でYouTubeを視聴しており、Google傘下のYouTubeはテレビ視聴時間のシェアに関してNetflixと肩を並べている、といったデータだ。
オムニコム・メディアグループ(Omnicom Media Group)の最高投資責任者であるジェフ・カラブリーズ氏は、「適切なメッセージを、適切なタイミング、適切な場所、適切な価格でオーディエンスに届けることが何よりも重要だ。そのなかでGoogleを候補として検討することは、消費行動の変化をとらえ、クライアントがキャンペーンを展開すべき場所を理解するのに欠かせない。これまで通りの世界がずっと続くと考えるわけにはいかないのだ」と述べた。
[原文:Future of TV Briefing: How Amazon, Roku and YouTube stepped up in this year’s upfront market]
TIM PETERSON(翻訳:的場知之/ガリレオ、編集:長田真)