Appleが近日中に予定しているアプリの個人情報に関するアップデートを巡って、フランスのオンライン広告の大手団体複数が、同国の独占禁止法規制当局に提訴を行った。この提訴では、来年初頭に予定されている今回のアップデートについて、最低でも延期させるよう求めている。
Appleが近日中に予定しているアプリの個人情報に関するアップデートを巡って、フランスのオンライン広告の大手団体複数が、同国の独占禁止法規制当局に提訴を行った。
フランスのIAB、モバイルマーケティング連盟(Mobile Marketing Association France)、インターネットサービス協会(Syndicat des Régies Internet)、メディアバイイングおよびコンサルティング企業連合(Union Des Entreprises de Conseil et Achat Média)による提訴は、2021年初頭の実施が予定されている今回のアップデートについて、最低でも延期させるよう求めている。提訴は10月22日に、フランスのADLC(Autorité de la Concurrence:競争監視局)に対して行われた。
ADLCの広報担当は、提訴を受け取ったことを認めており、「注視している」分野なため、「細心の注意を払って精査する」と述べている。
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Appleの広報担当は声明で、「プライバシーは基本的人権だと確信している」と述べ、Appleは欧州の一般データ保護規則(GDPR)といった、個人情報保護法について、欧州のリーダーたちと立場を同じくしていると述べている。
健全な競争を阻害している
Appleの声明には「ユーザーデータはユーザーに帰属し、ユーザーが自分でデータを誰と共有するかを決めるべきだ。iOS 14では、アプリの広告を目的としたサードパーティデータとユーザーデータのリンクと、ユーザー情報の追跡を許可するか、データブローカーとの情報の共有を許可するかについて、ユーザーに選択肢を与える」と書かれている。「これらの規則は、Appleを含むすべての開発者に平等に適用される。規制当局や個人情報を重視する方たちから、この新機能は強い支持を受けている」。
6月に発表された今回のアップデートでは、広告のための測定を目的としたデバイスの広告識別子(IDFA)へのアクセス、ユーザーの追跡について、すべてのアプリ開発者がユーザーに許可を求めることを義務付けている。このアップデートは当初、AppleのiOS 14のリリースに合わせて今年9月にロールアウトされる予定だったが、開発者達に準備期間を与えるため、来年初めまで実施を遅らせたという経緯がある。
アドテクの業界関係者らは、追跡の許可か不許可をユーザーに選択させれば、オプトアウトするユーザーが大半となるだろうと考えている。さらに、専門家らは今回の変更は、フリークエンシーキャップ(同一ユーザーに対する広告表示回数の制限機能)、フラウド防止といった分野に対する影響も極めて大きいと分析する。また、IDFAに関するアップデートにより、広告収益のかわりに、アプリの有料化による収益化を選択する開発者も増えるという予測もあり、その場合はApp Storeのルールに基づき、売上の一定割合をAppleが手数料として受け取ることになる。現在、Appleはパブリッシャーに向けて、IDFV(ベンダー向け識別子)を提供している。これを通じて、各社はファーストパーティデータを用い、所有するアプリ全体でパーソナライズされた広告を展開できる。同社はデバイスのデータをデータブローカーと共有することはなく、アプリで集めたデータを広告や計測目的でサードパーティの集めたユーザーやデバイスデータとリンクさせたりすることもないとしている。
フランスの企業連盟は、Appleがアプリ開発者に不公正な取引条件を課しており、アプリ業界におけるAppleの圧倒的な地位を利用し、アプリ広告の市場や各社との健全な競争を阻害していると主張している。
連盟の提訴が通るかは不透明
まず、Appleは自社サービスに同じオプトイン条件を課していない。これは連盟の主張通りだ。AppleのApp StoreやNewsのアプリ内サービスはデフォルトでオプトインに設定されている。オプトアウトしたいユーザーは、わざわざこの設定にアクセスしてオプトアウトする必要があるのだ。またAppleは、ATT(AppTrackingTransparency:アプリ追跡の透明性)のフレームワークがApple自身にも適用されると主張している。
さらに連盟は、アプリ開発者がユーザー許可のために表示を求められるポップアップが、欧州の一般データ保護規則やeプライバシー指令の基準を満たしていないと主張する。パブリッシャーがポップアップで手を加えられるのは2行の文章のみで、ユーザーに対して「十分」かつ「具体的」な情報を提供していないというのが連盟の主張だ。さらに、ユーザーが最初の選択を取り消したい場合は、ユーザーはアプリを一度アンインストールして再インストールするほかないという(米DIGIDAYは以前、プライバシー法を専門とするセーフガード・プライバシー[SafeGuard Privacy]の共同創業者兼ゼネラルカウンセルのウェイン・マタス氏による「Appleが行おうとしている消費者体験の統一はGDPRに違反しない」という見解も報じている)。
欧州の独占禁止法分野を専門とする弁護士事務所ゲラディン・パートナーズ(Geradin Partners)の創業者で、今回の連盟の提訴においても法律面で助言を行ったダミアン・ゲラディン氏は、「個人情報保護の重要性は疑いようもない。我々が問題にしているのは、Appleが自分たちのやりたいことのために、個人情報を隠れ蓑にしていることだ」と語る。「Appleは、個人情報は基本的人権だと主張する。だが、そこにはAppleがこの主張によって利益を得るための戦略が透けて見える。彼らの動きが正当なものかは疑問だ」。
連盟は提訴のなかで、Appleに対して暫定的な緊急措置と、今回のような破壊的影響のないソリューションを見つけるための広告業界との対話を求めている。また、アプリ開発者に対し、許可のポップアップ表示の義務付けを行う時期のさらなる延期も主張している。連盟は、独占禁止法の当局が早期介入を認めなくても、ADLCが提訴に対する調査を開始することを期待している。
これまで今回のような明確なテストケースはなく、連盟の提訴が通るかは不透明だ。
大手アプリ企業もApple批判
株式調査会社のアレートリサーチ(Arete Research)の創業者兼マネージングディレクターのリチャード・クレイマー氏は、「Appleのような巨大企業がエコシステムに関する商業戦略的な決定を行えば、他企業に多大な影響が出ることは明らかだ。だが現在の独占禁止法が、競合サービスを保護する救済措置を迅速に行えるかはわからない」と語る。「たとえばSpotify(スポティファイ)は規制当局に対し、Apple One関連の対抗措置を求めているが、これは単純に両者の力関係を反映しただけに過ぎない可能性もある」。
Spotifyは昨年、EUの反トラスト当局にAppleの独占禁止法違反を提訴した。Appleを除くサブスクリプションサービスがAppleの支払いシステムを使わずにユーザーへの宣伝を行うことができず、そしてAppleがその売上の一部を手数料として収益化しているという内容だ。欧州委員会は本件について、現在調査中だ。
9月には、Spotifyやゲームのフォートナイト(Fortnite)を販売しているエピック・ゲームズ(Epic Games)、ベースキャンプ(Basecamp)、ディーザー(Deezer)などの大手アプリ開発企業やAppleを批判する団体が、App Storeの参加者やオンラインプラットフォームに対する待遇改善を求め、非営利団体の「アプリの公正化を求める連盟(Coalition for App Fairness)」を結成した。
フランスのIAB、モバイルマーケティング連盟(Mobile Marketing Association France)、インターネットサービス協会(Syndicat des Régies Internet)、メディアバイイングおよびコンサルティング企業連合(Union Des Entreprises de Conseil et Achat Média)といった企業が参加しており、Appleのティム・クックCEOに対する声明を発表。IDFAの変更による影響について懸念を表明し、オプトアウトのポップアップはGDPRに準拠していないと主張している。
Appleとの対話はまだ進行中
Appleは9月に、IABテックラボ(IAB Tech Lab)や欧州インタラクティブ広告協議会(IAB Europe)、ニュース・メディア・ヨーロッパ(ews Media Europe)、欧州出版社協議会(European Publishers Council)などと会合を行った。
対話を率いるフランスIABのニコラ・リュー氏によると、このAppleとの対話はまだ進行中とのことだ。
Appleによる変更については、「現時点では何も保証は得られておらず」、そのために今回ADLCに対する提訴を行うことになったのだという。名前は明かさないものの、今回のADLCへの提訴について支持している組織は、ほかにもあるとリュー氏は語った。
LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:長田真)