Facebookは3月、彼らのアドサーバー、アトラスにおけるメジャーメント(測定)機能と、その現存するクライアントを自社プロダクトへ移転することを発表した。しかし、エージェンシーのエグゼクティブたちは、メディア供給者であるFacebook自体がアトリビューションソリューションを提供することに懸念を示す。
アトラス(Atlas)が、ついに終焉を迎えた。
Facebookは3月、彼らのアドサーバー、アトラスにおけるメジャーメント(測定)機能と、その現存するクライアントを自社プロダクトへ移転することを発表。メディアバイヤーたちはこれについて、いまだ懐疑的である。
Facebookが狙っていること
Facebookが、2013年にマイクロソフトから買収したアトラス。そして昨年11月、Facebookはそのアドサーバーを閉鎖し、メジャーメント機能だけを残すという決断を下している。さらに今回、その機能もアトリビューションとリーチにフォーカスする形で、ビジネスマネジャーに組み込まれたことで、アトラスのブランドは完全に消えた。これによって複数のデバイスを横断してユーザーをトラッキングでき、デジタル上の異なるタッチポイントにコンバージョン測定を配分できることになるという。これはFacebookのウォールドガーデンの内外ともに適応されるようだ。
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例を使って説明すると、Facebookのユーザーがニューヨーク・タイムズ上でひとつのインスタグラム投稿に関するディスプレイ広告を見たとする。そして、そのユーザーがインスタグラムに行き、投稿をクリックして、化粧品ブランドのWebサイトに飛び、そこで何か商品を購入したとしよう。このときにインスタグラム上の投稿だけがコンバージョンの起因だったとしてしまうのではなく、ニューヨーク・タイムズのディスプレイ広告もコンバージョンに貢献したことを広告主は知ることができるのだ。
これだけを聞くと素晴らしいアイデアのように思えるが、ここには利害の衝突が存在する。
「大きな懸念を抱いている」
「私たちはFacebook広告に大きな費用を費やしているが、現時点ではFacebookのアトリビューションソリューションは検討していないし、することはないだろう」。そう語るのは、メディアエージェンシー、クロスメディア(Crossmedia)の共同創業者でありプレジデントのキャムラン・アサガー氏だ。こういった不満は、FacebookとGoogleへたびたび向けられる。WPPの会長であるマーティン・ソレル氏の言葉を借りると、両社とも「自分たちのプロダクトの成果を自分たちで測定」したがるのだ。
Facebookが提供するアトリビューションソリューションのセールスポイントのひとつに、ログイン情報の活用がある。これはモバイル上で機能し、アクティビティが同一ユーザーであるかを特定できるものだ。クッキーをベースにした分析だとクッキーが存在しないアプリ内でのアクティビティに対応できないうえに、本当に実在するユーザーによって動かされているのかも特定できない問題があると、メディアエージェンシー、ノーブルピープル(Noble People)のパフォーマンス責任者ポール・ヴァイカン氏は説明する。
本記事の取材に応じてくれたエージェンシーのエグゼクティブたちは、メディア供給者であるFacebook自体がアトリビューションソリューションを提供することには、明らかに利害の衝突があると同意した。クロスメディアのアサガー氏は「メディア所有者によって提供されるアトリビューションというものに、我々は大きな懸念を抱いている」と述べる。
サピエントレイザーフィッシュ(SapientRazorfish)のデータサイエンス部門グループ・バイス・プレジデントであるエラ・チニッツ氏も同様の意見を口にした。「Facebookのものと、そうでないものをまたいで、アルゴリズムのバランスが取れていることを明らかにすることは、業界にとって重要だ」。
第三者との取り組み状況
Facebookによるアトリビューションソリューションが監査を受けることになるかは、いまだ不透明。広報担当者によるとソリューションは「まだ極めて初期のテスト段階」だからだ。ニールセン、コムスコア、そしてモート(Moat)といったアナリティクス企業とFacebookは協働し、第三者団体による承認システムに取り組んでいるという。
ちなみに、モートのエンジェル・リストによると、マーク・ザッカーバーグCEOはモートへ個人的に投資を行っていることが分かる。ニールセンとコムスコアはメディアバイについて、そしてモートが可視性について取り組んでいるのだろう。匿名希望で取材に答えてくれたエージェンシーのエグゼクティブはこれに対し、アトリビューションは特定のアクションにクレジット(貢献度)を割り当てる作業だから、まったく別だと指摘した。
Facebookに買収される前から、アドサーバーとしてアトラスはメディア業界の監督機関であるメディアレーティング審議会(MRC)によって長いあいだ認定されてきた。しかし2016年の終わりに近づいたとき、アトラスがアドサーバーからアトリビューションのツールへと転換され、それと同時にFacebookによって認定プロセスから取り下げられたと、デーヴィッド・ガンザレス氏(MRCシニア・バイス・プレジデント兼アソシエイト・ディレクター)は説明してくれた。
試験運用体験者の声
ガンザレス氏は「どのレベルの透明性と独立承認システムが求められるかは、究極的には提供されたメジャーメントに頼り、それに基づいて投資やその他の決断を下すバイヤーやセラー次第となる」と語った。
オムニコム(Omnicom)のデータテクノロジープラットフォームであるアナレクト(Annalect)は、アトラスのメジャーメントを試験運用した最初のホールディンググールプ・メディアエージェンシーだ。アナレクトの社長であるアダム・ギットリン氏によると「測定されるコンバージョン率に大きな改善が見られる」とのことだ。「従来通りのクッキーベースの測定では複数のデバイス利用が原因でメディアをユーザーが見たかどうかと、コンバージョンとのあいだのつながりを知ることができなかった」と、ギットリン氏は語る。
アナレクトは現在、Facebookのアトリビューションソリューションを無料で試験運用している。これは、まだ値段設定が完了していないためだ。
しかしアナレクトのような特別待遇を受けていない会社はためらいを感じているようだ。特に最近、Facebookがメジャーメントに関して失態を繰り返しているため、ことさらである。
ノーブルピープルのヴァイカン氏は語る。「私はアーリーアダプター(早い段階でシステムを試す適応者)にはならない。様子を見てクライアントの広告予算をそこに動かす前に、すべてがちゃんと動くかどうかを確信したい」。
Yuyu Chen(原文 / 訳:塚本 紺)