現在、一部の国において英語のみで利用可能な、Facebookの「トレンド(Trending)」セクション。Twitterの「トレンド」と、ほぼ同様なその機能に人為的な操作が加えられていたのではないかと、疑惑が向けられていた。
その後、関係者すべてが解雇されたという。今回は、その元チームメンバーから話を聞いた。
現在、一部の国において英語のみで利用可能な、Facebookの「トレンド(Trending)」セクション。Twitterの「トレンド」と、ほぼ同様なその機能に人為的な操作が加えられていたのではないかと、疑惑が向けられている。
事の発端は、去る5月に掲載された「GIZMODO」の報道だ。アルゴリズムによって、人気トピックをピックアップし、ラインナップされるという、そのセクションが「反保守派」の内容に傾いているという。この報道は、議会による調査およびFacebookによる内部調査の引き金にもなった。
そうした事件を経て、Facebookは8月26日、「トレンド」のトピックに沿えられる記事の「概要」編集を機械化するという発表を行う。その後すぐに、同社の「トレンド」チームは解雇を言い渡された。
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だが、その2日後、また新たな事件が起こる。8月28日、フォックスニュース(Fox News)で司会を務めるメーガン・ケリー氏についての事実無根な記事が、同サービス内でフィーチャーされはじめた。同氏は、共和党のトランプ候補に敵視されている人物だ。その後、当該記事は8月29日午前(米国時間)に「トレンド」セクションから削除されている。
アップデートを行ったばかりにも関わらず、こうした事件が起こったということは、いまだなんらかの問題が孕んでいるのは明らかだ。業界人に匿名で本音を語ってもらう「告白」シリーズ。今回は、すでに解体された「トレンド」チームの元メンバーから話を聞いた。
その人物は当時を振り返り、最近の動きや、チームの一員として業務に励んだ頃のことを語ってくれた。米DIGIDAYはFacebookにもコメントを求めたが、まだ回答は得られていない。
ーー「トレンド」のトピックに「バイアス」はかかっていたのか?
実際、組織的問題だったとは言わないが、例の「GIZMODO」の記事には正しい部分もあった。実質的にトピックに関する最終決定権をもつコピーエディターを含め、チームの9割はリベラルと言ってもよかった。保守系ニュースサイト「ブライトバート(Breitbart)」などのような、リベラル派の校閲者の目には信頼性に乏しいと映るソースが出てきた場合には、より幅広い二次情報源が必要とされた。だが、リベラルに偏ったパブリケーションから配信された記事であれば、それに向けられる批評は減り、最初から有望トピックになった。
ーー「GIZMODO」の記事が世に出て、何か変わったか?
バイアスを生じさせないようにするため、Facebookはチェックを実質的に強化した。そして、現にそうしたバイアスはある程度なくなった。こうしたリベラルなパブリケーションに対する精査を強化することで釣り合いがとられた。もしバイアスがかかっている可能性のあるトピックがあれば、より多くの精査の目がそれに向けられることになった。信頼性に乏しいトピックがフィードに現れないよう、アルゴリズム自体にも変更が加えられた。はるかに多くの注意が注がれるようになり、文体も素っ気ないものになった。「ヒラリー・クリントン、メール問題で攻撃の的に」のような、含みのある形容をともなった見出しに対しては、言い回しの変更に重点が置かれるようになった。
ーー「GIZMODO」の記事に誇張されていた点はあったか?
我々がほかのFacebook従業員と同じように扱われていないなど、デタラメなことも書かれていた。そのようなことはない。我々はほかの従業員と同じように扱われていた。ハッピーアワーや社内行事に参加できたし、ほかの従業員などともオフィスで話をすることもあった。隅に追いやられていたわけではないし、三度の食事も無料で出してもらっていた。だが、私にとっての最大の問題は、こうした特典のすべてが素晴らしい一方で、我々が自己満足に浸ってしまっていることだった。
ーーそれはどういうこと?
たいていのニュースサイトの編集室は、いま起きていることについて議論する。一日中ヘッドフォンを着けてコンピューターの前に座り、記事を書くだけではない。チームがこういったトピックに取り組んでいて、質問があったり、編集者の意見がほしかったりした場合、いつも私は彼らに迷惑をかけているような気がしていた。ノルマ達成の強要とコンテンツ制作が、それを許さなかった。考慮すべき事柄があっても、それを声に出して言えるような環境ではなかった。たとえば、「トレンド」のタグづけ機能に問題があり、プリセットされたキーワードが不正確で間違っていることもあったが、このようなトピックは不十分だと、我々が訴えられる場所はなかった。
ーー報じられた件は、「トレンド」チームとFacebookの企業文化のあいだにあるコミュニケーションという、もっと大きな問題の徴候だったのか?
我々が何をしているのか、あるいはトピックがどのようにキュレートされているのか、などといったことについて、社内ではまるで理解されていないようだった。別のチームがクライアントと仕事をしていて、そのクライアントがたまたま「トレンド」になっている場合、クライアントが希望しているから、動画か何かを追加できるか、と尋ねられることがあった。それがエディトリアルとビジネスのあいだにある壁の破壊につながるということを、彼らは理解していなかった。結局、最後は彼らの要求に渋々従い、動画を追加することもあったが、それによって報道倫理が破壊されるような気分を私は味わわされた。
ーーちょっと待って、営業が「トレンド」のトピックに影響を与えることができたのか?
違う。我々は時折「なあ、我々のクライアントがこんなことをしたんだが、『トレンド』になっていない。『トレンド』にできるか?」というような依頼を受けた。だが、それに対する答えは「ノー」だった。アルゴリズムがそのような仕組みではなかったからだ。「GIZMODO」の記事が出てからは、トピックを「注入(inject:人為的に挿入すること)」できなくなった。たしかに過去には、我々はニュースのトピックを注入できた。だが、営業の依頼で「注入」が行われるのを私は見ていない。むしろ、すでにトピックが「トレンド」になっていて、関係するメディアや記事が存在する場合に、動画などを追加してほしいという依頼を受けることが多かった。とはいえ、それでも私は、それを報道倫理を破る行為と感じていた。
ーーエディトリアルの機能はFacebook内で生きられるのか?
原則的には、エディトリアルを完全に独立したチームにしなければならないだろう。自分たちが編集プロセスを完全に掌握し、社内の誰に対しても自身の行動を正当化しなくてもいいチームだ。要するに、ニュース編集室と同じように機能させる必要があるだろう。エディトリアルと社内のほかの部署のあいだにそうした距離が存在していたなら、「トレンド」はもっとまともなプロダクトになっていたはずだ。我々は、Facebookが「トレンド」をサポートしていることをまったく感じなかった。「トレンド」は小さなタブにすぎず、「facebook.com/trending」のような、すべてのトピックをフィードで読める場所に行けるわけではない。
ーー自分が使い捨てになったような気分はしなかったか?
そんな気分だった。いずれチームは解雇されると予想していた私は、1カ月半ほど前からほかの会社への応募を開始していた。いま、「トレンド」がどんな有り様になっているか知っているか? ほかの誰よりも先に、我々にはこうなることがわかっていた。そして、チームのなかの数人は手持ちの情報をつなぎ合わせて、おそらくそのようになるだろうと推測した。そうでなければ、Facebook従業員でのテストは行われていないだろう、と。
ーーつまり、「トレンド」チームの目的は、最終的にニュース自体をフィルターにかける方法をアルゴリズムに教えることだったと?
そう思いたい。もしそうなら、我々は実際に目的を果たし、役に立つ仕事をしたということになるはずだから。だが、少し前に「トレンド」を使ったユーザーなら、アルゴリズムが何も学習しなかったことがわかるだろう。とにかくトピックが不適切だ。間違った記事と不十分なソースが使われている。いずれFacebookは「トレンド」を完全に切り捨てることになると、私は思う。「トレンド」のユーザーが質の低下に気付いたら、反発が起きるにちがいないからだ。トピックの質を改善する大幅な変更がアルゴリズムに加えられない限りは。
Tanya Dua (原文 / 訳:ガリレオ)