Facebookは3月第3週、Facebookの主任製品担当者のクリス・コックス氏が退社する予定だと発表した。そして今後、Facebookでマネタイゼーション、動画、ゲームを担当しているバイスプレジデント、フィジー・シモ氏が、Facebookのすべてのアプリを担当することになる。
Facebookの動画や広告への取り組みを統括してきた幹部が、今後はFacebookの全プラットフォームの運営を引き継ぐ予定だ。
FacebookのCEO(最高経営責任者)であるマーク・ザッカーバーグ氏が3月第3週、Facebookの主任製品担当者であり、ソーシャル大手企業の同社で2番目に影響力がある幹部と広く認知されていたクリス・コックス氏が退社する予定だと発表した。Facebookやインスタグラム(Instagram)、WhatsApp(ワッツアップ)、Messenger(メッセンジャー)を統括していたコックス氏の代役を立てるのではなく、この責務をザッカーバーグ氏直属の異なる4人の幹部に担わせる予定だ。そして、Facebookでマネタイゼーション、動画、ゲームを担当しているバイスプレジデント、フィジー・シモ氏が今後、Facebookのすべてのアプリを担当することになる。
Facebookと取引のある大手パブリッシャーの幹部は、早い段階でメディア企業をFacebookの動画プロジェクトに参加させてくれた気の利く理解ある幹部だとして、シモ氏の昇進を称賛した。しかし、ザッカーバーグ氏が、暗号化を用いてプライバシーに配慮したメッセージングを提供する企業にする方向性で自社の舵取りをしているなかで、動画や広告がザッカーバーグ氏の新しいビジョンにおいても重要な役割を果たすことになるかどうかは不透明だ。シモ氏は、パブリッシャーの幹部と良好な関係を築いているが、ザッカーバーグ氏の、つまり、同社の優先事項が変化している今日、Facebookにおいて新しい役割を担うことになる。
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巨大広告企業の立役者
Facebookでマネタイゼーションや動画、ゲームを担当するバイスプレジデントとしての役割を担ったシモ氏は、Facebookユーザーのために新しい製品や機能を開発することに注力する700人以上のプロダクトマネージャーやエンジニアから構成されるチームを管理していた。
シモ氏は、自分がFacebookの広告ビジネスを年間収益550億ドル(約6兆円)にまで押し上げた立役者であると、公言しても良いだろう。動画広告、そして、カルーセル広告やキャンバス広告などの広告フォーマットを含め、Facebookの新しいサービスの開発に加えて、モバイル向けの広告の制作などを行ったのは、シモ氏のチームだ。ザッカーバーグ氏が、動画はFacebookの未来のために極めて重要なコンテンツの一部になると判断したとき、シモ氏のチームは、ニュースフィードにおけるオートプレイ動画やFacebookライブ(Live)、Facebook Watch(ウォッチ)などの製品サービスを開発することによって、ザッカーバーグ氏の想いを現実にする担当をしていた。
Facebookの動画への取り組みのすべてが成功したわけではない。ニュースフィード動画はパブリッシャーやユーザーの動画視聴方法を劇的に変えたが、Facebookライブが受け入れられていることが証明されている一方で、Facebook Watchが受け入れられるかどうかはまだ分からない(シモ氏のチームが開発したインスタント記事[Instant Articles]もメディア企業のあいだでは精彩を欠いている)。
「いつも親切で協力的だ」
2015年、Facebookは新しいライブ動画ストリーミング機能を発表した。この機能の発表前にシモ氏から説明を受けたふたりの幹部やFacebookライブを担当したチームは、同氏は重要なパブリッシャーの幹部にコンタクトを取り、この機能を試してもらうよう依頼したと話す。あるパブリッシャーの幹部は、「シモ氏は、初期段階の概要をすべて内密かつ簡潔に見せてくれた。そして、私たちパブリッシャーが理にかなっていると思うかどうかについてフィードバックを求めてきた」という。
シモ氏は数年間に渡って、Facebookが開発している新製品や新機能にパブリッシャーを一貫して関わらせている。これが、シモ氏とともに開発に関わった幹部らに好印象を与えた。
「シモ氏は、いつも私たちに親切で協力的だ」と、別の重要なパブリッシャーの幹部は言う。
シモ氏は、ある意味で、迅速に動く(そして、場合によってはサービスを廃止することも辞さないという)Facebookの精神を反映する人物でもある。ベンチャー企業であるファーストラウンドキャピタル(First Round Capital)のWebサイトに掲載されたインタビューでは、シモ氏は、自身の統括方針が迅速に動き、リソースを変更することを恐れないと述べ、さらに、この方針をどのように実現しているかについて語った。シモ氏は、Facebookライブがサービス開始後すぐに、ユーザーからのトラクションを集めたことを確認すると、わずか1週間のあいだにFacebookライブのエンジニアチームを10人から100人に増員した。
「このような柔軟性を持つための唯一の方法は、変化を完全に予測して受け入れる文化を育むことにある」と、シモ氏はインタビューで語った。
考えられるデメリット
これほどの水準の柔軟性を持つことは、Facebookにとって、また、Facebookがイノベーションを起こすためには、とても重要になり得るが、Facebookがこの路線で進んだ場合、パブリッシャーにとってはデメリットもある。たとえば、Facebook Watchがそれだ。Facebook Watchは当初、本格的に作りこまれた高品質なプログラムのためのプラットフォームとして考えられていた。しかし、Facebookがユーザーに実際にサービスを利用してもらう試みのためのものとしての役割を果たし続けるように転換してしまった。Facebookの元開発担当幹部によると、こういった転換などによって、パブリッシャーとともに開発に取り組むFacebookの担当チームが戦略や優先事項の変更が発生するたびに、それらのパブリッシャーのところへ頻繁に足を運ばなければならない環境を生むことになってしまったという。「最終的に、顧客が変化に対応する十分な時間を与えられなくなる」と、この幹部は語った。
シモ氏は、Facebookのためにザッカーバーグ氏のビジョンに献身すると表明している。このビジョンは昨年、大きく変わった。Facebookはいま、プライバシーに配慮したコミュニケーションや一連のサービスの統合を重視する未来のプラットフォームの開発を重視している。
ザッカーバーグ氏は、Facebookは今後も動画には力を入れるとも語っている。不透明なのは、Facebookがユーザーのプライバシーを重視する場合に動画や広告が果たす役割だ。ザッカーバーグ氏が、自身が「街の広場(the town square)」だと呼称しているニュースフィードを残したいと述べているため、Facebookのニュースフィードは今後もそれほど影響を受けない可能性も十分にある。
新しい方向性への懸念
シモ氏はFacebookのアプリを担当しているため、また、動画はシモ氏の統括分野であるため、動画が同社にとって今後も優先度が高いことは想像に難くない。
しかし、あまり期待を抱いていない業界筋もいる。
「(Facebookは)自社のビジネスや製品に一点集中しており、いまザッカーバーグ氏によって、新しい方向性が打ち出された」と、数年間にわたって、シモ氏と頻繁に関わってきたパブリッシャーの幹部は言う。「(メディア)パートナーとの付き合いが理にかなっている限り、我々のことを今後も考慮してもらえるだろうが、Facebookの幹部レベルでパブリッシャーを重視する議論がどれほど交わされているかは分からない」。