ファッション、コスメブランド企業にとって、インスタグラムは格好のマーケティングの場だ。7割も存在する米国外のグローバルなユーザー、高いエンゲージメント率などがブランドを魅きつける。いま、インスタグラムへ注力するファッション・コスメ系ブランドが増えつつある
ファッション・コスメのブランド企業にとって、インスタグラムは格好のマーケティングの場だ。7割も存在する米国外のグローバルユーザーや高いエンゲージメントなどがブランドを魅きつける。魅了された企業からは、インスタグラム内にワンクリック購入ボタンの設置を促す要望があるほどだ。
コスメブランド大手Benefit Cosmeticsでは、自社のインスタグラムアカウントで特定の商品を検索してから来店する顧客が増えていることに気づいた。これを受けて、他のプラットフォーム以上にマーケティング予算とリソースを投入。フォロワー数100万以上の規模にまで育て上げた。このようにインスタグラムのマーケティングへ注力するファッション・コスメ系ブランドが増えつつある。
1. いまやFacebookに次ぐ、インスタグラムのユーザー数
同社の北米地域デジタルマーケティング担当取締役クラウディア・オールウッド氏は、Pinterestのような他の写真共有SNSに比べ、「インスタグラムのインパクトははるかに大きい」と語る。「間違いなく、我々の最優先項目になっている」。
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Benefit Cosmeticsだけではない。同じくコスメ大手、エスティ・ローダーの広報担当者は、モデル・女優のケンダル・ジェンナー氏をインスタグラムで起用すると発表した直後に、フォロワー数がぐんと伸びたという。インスタグラムは同ブランド内で、もっとも急速に成長しているプラットフォームだ。
「弊社のインスタグラムアカウントには、高いビジュアル性と、商品を手に入れたくなる雰囲気があります。だから、従来の顧客や美を追究されている方々に愛してもらえる」と、エスティ・ローダーの広報担当者は語った。
なかでも際立っているのがシャネルだ。ブランドリフトのコンサルティングを行う企業「L2」によると、シャネルは2014年10月にインスタグラムを始めたが、ほぼひと晩で180万人のフォロワーを集めたという。
2019年までの各プラットフォームのユーザー数の推移予測
インスタグラムは爆発的な成長を遂げつつある。2018年までに全米のインターネットユーザーの3分の1が、同サービスを利用するという予測(上図)があるほどだ。写真への嗜好性が当たり前になっているなか、ファッション系企業やコスメ系企業によるインスタグラムへの投資に拍車がかかる。
2015年8月現在、L2の調査では、人気があるファッション系ブランドの98%がインスタグラムを利用しているという。一方、コスメ系ブランドの95%もアカウントをもっている。ちなみに、おととし2013年10月時点でのファッション系ブランドにおけるインスタグラムの利用率は75%。コスメ系ブランドは78%だった。
2. エンゲージメント率も1年でほぼ倍増
ファッション・コスメブランドによるインスタグラムへの投稿数も増加している。比率だけ見ても、ファッション系は17%、コスメ系は42%と、それぞれに増えた。現在インスタグラムのAPI は、すべての広告主に公開されている。そのため、企業の参入は今後も増え続けるだろう。
ファッション企業のインスタグラムアカウントにおける「1週間の投稿数(Average posts per week)」と「エンゲージメント(Average absolute engagement by quarter)」の四半期推移
また、ファッション・コスメブランドの場合、他のプラットフォームよりもインスタグラムの方がエンゲージメントやインタラクションが高いという特徴がある。ソーシャルメディアにおいて上位67社のファッション・ブランドでは、1週間のインスタグラム投稿数を8から10に増やすことで、エンゲージメントが77%も増加したという。
「インスタグラムとPinterestとTumblrにおける、規模や再訪率を見ると、インスタグラムが頭抜けていますね」と、L2のインテリジェンス担当取締役のクロード・ド・ジョカス氏は話す。
3. 米国外に70%も存在するグローバルユーザー
各国のBenefit Cosmeticsのインスタグラムアカウントにおける、エンゲージメント率(縦軸)とコミュニティの大きさ(円のサイズ)と成長率(横軸)
インスタグラムのユーザーの70%は、アメリカ国外にいる。したがって、世界的にブランド展開するのに適しているのだ。Benefit Cosmeticsのように、多くの企業は各国専用のアカウントを取得。もしマスカラがアメリカで人気なら、同国のインスタグラムフィードにはそれが反映される。その一方、同時期にアジアのアカウントでは、ファンデーションにフォーカスを当てているかもしれない。「各国独自のインスタグラムアカウント上で、それぞれの国の言葉で話しかけたら、より反応が高くなる」とオールウッド氏は語る。
Facebookはブランド企業に信頼されており、ソーシャルメディア内での広告シェアは圧倒的だ。フォレスター社の調査によると、マーケターの82%が広告掲載を行ったと回答している。しかし、インスタグラムを好むブランドも増えている。向こう12カ月の間で、インスタグラムに資金を投じる予定があると答えたブランドは約46%。他のプラットフォームよりも高い。
4. エンゲージメント率はFacebookの約10倍?
ブランドがFacebookよりインスタグラムを好む理由は他にもある。Facebookで存在を強めても、リーチは比例しないからだ。L2によると、Facebookページに50万人以上のフォロワーがいるブランドでは、実際のところリーチは低いという。一方、インスタグラムには、そうした問題はない。ブランドのフォロー数と、そのエンゲージの間に負の相関性は見当たらないのだ。
「ファッション」「コスメ」企業における、インスタグラム・Facebook・Twitterのエンゲージメント比較
L2のリサーチによるグラフ(上図)では、ファッション・コスメ分野におけるインスタグラム・Facebook・Tiwtterのエンゲージメント率を示している。ともにインスタグラムのエンゲージメント率はFacebookのそれに比べて、約10倍の結果となった。
ハイエンドなファッション系ブランドは、インスタグラムで結果を出している。たとえば、クリスチャン・ルブタンは2014年1月に、#louboutinworldというハッシュタグ投稿を掲載するギャラリーを自社サイト内に設置した。そのおかげで、フォロワー数は80%増となったという。ちなみにFacebookでの「いいね!」は、8%しか伸びていない。こうしたハッシュタグを利用したコンテンツの40%は、コスメ系ブランドに利用されている。コスメ製品のラインには季節性があり、ユーザーの反応を利用してブランディングするには、ハッシュタグが便利なのだろう。
5. プレミアム感が醸成された唯一のプラットフォーム
インスタグラムの月額広告料金は、10万ドル(約1,200万円)から50万ドル(約6,000万円)ともいわれている。そうした、高額な料金設定も効果を発揮しているようだ。「多くのブランドは高くて手が出せない。だからこそ、インスタグラムに出稿できるブランドは、ラグジュアリー感とあこがれを醸し出すことができるのだ」と、L2のリサーチ・アナリストのギャレット・レビー氏。
直接、コマースに結びついてはいないことが、インスタグラムの最大の課題だった。しかし、深刻なものではない。さる3月には、カルーセルスタイルのクリッカブル広告が導入されたが、ブランド企業は「今すぐ購入」ボタンのような直接的な販売機能を望んでいる。いずれそれも導入されると思うが、いましばらくはブランドにとってエンゲージメントやインスピレーションを提供できる場であってほしいと思う。その方が理にかなっているはずだ。
化粧品・コスメ通販のElizabeth Ardenのグローバル・マーケティング担当責任者ディーナ・シングルトン氏は、社として注力するプラットフォームをPinterestからインスタグラムに変えたところ、効果が出たと話す。エンゲージメントが活発化し、費用対効果も高くなったという。
オリジナルの写真を撮るには、多くのリソースが必要だ。だから、同社ではユーザー投稿の写真を頼みとしている。シングルトン氏もインスタグラムに「今すぐ購入」ボタンが追加されることを望むマーケターのひとりだ。その一方で、カルーセルスタイルのクリッカブル広告と、Facebookと統合された写真の見た目に満足しているという。
なお、Elizabeth Ardenは、いまのところインスタグラムから商品購入を可能とする「Like2Buy」のようなサード・パーティを利用している。Benefit Cosmeticsも同様だ。いまのところは、「手作業の部分が多いが、うまくいってる」と関係者は語る。
Shareen Pathak (原文 / 訳:南如水)
photo by Thinkstock / Getty Images