Facebookが動画広告の平均視聴時間を誤って過大集計してしまったことは大きな失敗であり、恥ずべきことではあるが、いまのところパブリッシャーや広告主にとって、同プラットフォームへの投資を再検討したり、手を引くほどの問題とまではなっていない。なぜ、そのような状況になっているのか解説する。
Facebookが動画の平均視聴時間を誤って過大集計してしまったことは大きな失敗であり、恥ずべきことではあるが、いまのところパブリッシャーや広告主にとって、同プラットフォームへの投資を再検討したり、手を引くほどの問題とまではなっていない。
「ウォールストリートジャーナル(The Wall Street Journal)」によると、Facebookは各広告主に対し、Facebookでの動画平均視聴時間の計算にエラーがあり、実際よりも多い集計結果になっていたことを伝えているという。本来なら動画の総視聴時間を視聴人数で割らなければならないところを、Facebookの誤計算により、総視聴時間を視聴回数で割った結果が反映されてしまった。
Facebookの場合、視聴時間が3秒未満の場合は閲覧数に計上されないため、一瞬動画を見てすぐに去ってしまったユーザーの分は結果に反映されない。「ウォールストリートジャーナル」の報道では、Facebookは広告主に対して、実際の数値は誤計算によって算出されていたデータから60%から80%ほど下がることを伝えたそうだ。
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今回の問題は、業界に「ある程度」の影響を及ぼしている。その理由を紹介する。
なぜこれが大きな問題となるのか?
現在、デジタル広告市場はFacebookの独占状態だ。ある関係者の予測によると、新規に制作されるデジタルアドの85%はFacebookとGoogle向けのものだという。巨大な力は、同時にそれ相応の期待を生む。Facebookが何か変更を行えば、それがマーケターの活動に多大なる影響を与える。平均視聴時間の誤計算ということはつまり、もともと発表されていたほどはユーザーが動画を視聴していない、とFacebookがいったことになる。今後ビジネスを進めるにあたり、動画を最優先事項としてきたFacebookにとっては痛手だ。平均総視聴時間の測定基準をもとに、大規模な予算編成と支出に関する意思決定をしてきた広告主にとっては憂慮すべき事態である。
それならば、なぜ問題が「ある程度」なのか?
世界的なメディアサービスエージェンシーのグループM(GroupM)やホライゾン・メディア(Horizon Media)など多くの企業は今回の誤集計が各社の価格設定やサービス内容に悪影響を及ぼすことはないとしている。これは、エージェンシーが基本的に、Facebook上で動画枠を購入する際に平均視聴時間を考慮しているわけではなく、インプレッション数や10秒動画再生回数、100%動画再生回数といったパフォーマンスメトリックを使うため、Facebookのエラーによる影響を受けないのである。グループMはデジタル広告評価企業のモート(Moat)を利用して、自身のFacebook動画キャンペーンを検証しており、「継続的な視聴時間が短いことは、モートを利用して以来、はっきりわかっている」と発表している。
「もちろん、滞在時間は大切だが、それは100%視聴される割合や100%視聴毎のコストについていえることであり、平均滞在時間の測定基準とは正反対のものだ。それが、予算をかけた結果に対して悪影響を与えることはない」というのはホライゾン・メディアのソーシャル戦略とマーケットプレイス買付担当ディレクターであるアニタ・ウォルシュ氏だ。
だからといって、広告主にとって良いニュースだったというわけではない。グループMは今回の件を「不注意と不運」と位置づけ、またウォルシュ氏は「2年もたってしまう前に、問題を発見すべきだった」と話した。
キャンペーンに悪影響がないなら、なにが問題なのか?
Facebookはその大部分が閉鎖的なネットワークだ。出版や広告関係のコミュニティは、周囲に壁を巡らせた庭園のような同ネットワークに対し、第3者の調査や検証を受け入れるように求めてきた。しかし、その規模と影響力から、Facebookは要求の大部分に取り合ってこなかった。いままで実行されてきたのはその一部だ。たとえば、Facebookは、広告主がモートやニールセン(Nielsen)、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science )といったデジタルメディアの評価を行う企業を使ってキャンペーンを検証することは認めている。
しかし、それでは不十分だ。パブリッシャーや広告主は、信用に値することはもちろん、数々のプラットフォームのパフォーマンスを総合的に比較するのに活用できる、普遍的な第3者評価を求めている。
「しかし、この解決策を見つけるのは簡単ではない。標準化するということは、すべてのプラットフォームを同じように扱うということだが、これは各社が動画に関連して作り上げてきたプラットフォームや各社独自のユニーク体験に対して、非情な方法になってしまう。これがテレビならばどんな体験も同一直線上にあるのだが」と話すのはデータ会社ZEFRのチーフビジネスオフィサーのジェイソン・カーク氏だ。「しかし、もし彼らが答えにたどり着けば、テレビからデジタルへの予算移行は加速するだろう」。
それが実現するかどうかのカギはFacebookやGoogleをはじめとするデジタルメディアの「壁に囲まれた庭園」が握っており、あまり期待はできない。
「この聖杯が手に入れば、すべてのパブリッシャーとプラットフォームが共通の測定基準をもつことになる。パブリッシャー自身が自己採点を行うべきではないからだ」とウォルシュ氏。「これで議論が前進すればよいが、そうなる保証はない」。
パブリッシャーへの影響はどのようなものだったのか?
パブリッシャーも完全に無傷のままいられたわけではないようだ。Facebookの機嫌を損ねてしまうとパブリッシャーとしての寿命が縮んでしまうため、匿名を条件にパブリッシャーのエグゼクティブ3名に話を聞いたところ、彼らの会社のFacebook向け動画価格は平均視聴時間をもとに決められたものではないと回答した。マーケターが関心を向けるのはビュー(視聴回数)とエンゲージメントだ。
しかし、多くのパブリッシャーがFacebook動画やライブ動画にリソースをつぎ込んでいている現況(Facebookは動画を求めているので)からすると、Facebookが主張していたほどにはユーザーが動画を見ていないことが判明したということは懸念事項となる。
Facebookは、パブリッシャーに対して直接配信を行うよう説得したが、それは「人々はコンテンツへのエンゲージをやめることはないので、我々は今後も収益を得ることができる」という想定の下の説得であったと、あるパブリッシャーのエグゼクティブは話した。「Facebookが平均総視聴時間を我々から取り去ったことで、パブリッシャーは混乱状態だ。このようなことにならないように、今後は気をつけるべきだ」。
リアクションに浮ついた様子が感じられる。
人の不幸は蜜の味ということだ。ますます力を増している様相のFacebookに対して、パブリッシャーやマーケター、そしてエージェンシーが「Facebookだって計算違いをするのだ」というこの機会に飛びついても、それは自然なことだろう。マーケターやパブリッシャーは、今回の誤集計を利用してFacebookに測定方法の改善と均衡性を求めるべく圧力をかけることができる。ただ、Facebookにも朗報はある。この件は、1週間もすれば忘れられるだろう。
Sahil Patel(原文 / 訳:Conyac)
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