Facebookが、拡張現実(AR)の展開に向け、広告主たちの早期対応を取り付けている。この売り込みを開始したのは3カ月前。ナイキ(Nike)、スタジオカナル(StudioCanal)、TSBなど、広告主とエージェンシー30社に対して、ARキャンペーンを制作する限定ベータ版プログラムへのアクセスを提供した。
Facebookが、拡張現実(AR)の展開に向け、広告主たちの早期対応を取り付けている。
Facebookが募集の売り込みを開始したのは3カ月前。ナイキ(Nike)、スタジオカナル(StudioCanal)、TSBなど、広告主とエージェンシー30社に対して、ARキャンペーンを制作する限定ベータ版プログラムへのアクセスを提供した。現在、英国のイギリスの百貨店ジョン・ルイス(John Lewis)や、デジタル制作エージェンシーであるスティンク・スタジオズ(Stink Studios)を含む広告主やエージェンシーで総計約700人の開発者が、Facebookの新しいカメラ機能のためのインタラクティブなフォト効果やビデオ効果の開発を進めている。Facebookは、初期段階で参加するパートナーを絞っているようで、ポッシブル(Possible)、ウィー・アー・ソーシャル(We Are Social)、ラルフ(Ralph)などほかのエージェンシーはこの機能の利用を待っている状態だ。
Facebookからの売り込みを目にしたエージェンシー幹部たちによると、Facebookの関心は、最大手のメディアバイヤーを説き伏せることよりも、今後、大衆の関心を引き起こしていく画期的なことをやれるパートナーを引き入れることにあるという。たとえば、大変な話題になったジョン・ルイスのクリスマス広告は、Facebookアプリの使いかたを1段変える、Facebookのカメラをできるだけ多くの人に使ってもらうための重要な機会だと見なされた。FacebookのAR機能を使うには、写真をFacebookアプリにアップロードするのではなく、Facebookのアプリで写真を撮影しなければならない。ジョン・ルイスのARでは、同社の広告に登場するかわいいモンスターに似た、モンスター姿のセルフィーを撮ることができる。
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初期段階で必要な事例
FacebookにとってARがモバイルや動画と同じくらい重要なものになるには、ジョン・ルイスのような事例が初期段階でもっと必要だと、ウィー・アー・ソーシャルでクリエイティブテクノロジーとイノベーションの責任者を務めるマット・ペイン氏は語る。また、Facebookにとって重要なのは実装だと、ピュブリシス・メディア(Publicis Media)傘下のスパーク・ファウンドリ(Spark Foundry)でデジタル戦略の責任者を務めるチャールズ・クロッティ氏は述べる。Facebookはユーザー基盤はあるが、ARではSnapchatの方が定評がある。
Facebookは、ARツールのアーリーアクセスを許可した広告主たちに対して開発者サポートを用意し、ベータアクセスしている開発者たちが学んだものをお互いに共有できる非公開のFacebookページも提供している。匿名を条件に米DIGIDAYに語った消息筋によると、Facebookスタッフが前触れなく米国オフィスに姿を見せ、自社向けに開発したフィルターを見せたので驚かされたという。
「(Facebookは)我々が夏に開くイベント向けのフィルターを提供してくれた。それほどの露出ではなかったが、興味深いテストになった」と、この消息筋は語る。「現在、開発者キットを入手しており、自作することになるだろう」。
『パディントン2』の実例
Facebookは、2カ月前には映画製作会社スタジオカナルの本社に開発者を送り込み、同社とエージェンシーのハバス(Havas)のチームが先日、英国公開された映画『パディントン2(Paddington 2)』のフィルターを作るのに協力した。映画に登場する「くまのパディントン」の特徴である赤いハットと青いコートをユーザーにかぶせるフィルターだ。
フィルター公開から2日間で利用数は2万6000回を超えたと、スタジオカナルのデジタルマーケティングマネージャー、ジェイミー・マクヘイル氏は語る。フィルターの利用状況については、Facebookが共有する指標を制限しているため、同氏にはこの数字しかわからない。ただ、この件については徐々に変えていくことを、Facebookは確約したという。
「(ARキャンペーンを)Facebookと行うことにした理由は、純粋に、リーチとプラットフォームの規模だった」と、マクヘイル氏は語る。「Snapchatを完全に圧倒している」。
Snapchatはすでに、より確立されたARスタジオを用意しているが、カナルがFacebookによるARの取り組みを支援する構えになっているのは、Facebookがブランドらと直接行った仕事がしっかりしたものであることを証明するものだ。マクヘイル氏によると、Facebookが同氏に対してAR機能のアイデアを最初に提案したのは1年前のことだ。それから数カ月後の今年4月に、創設者のマーク・ザッカーバーグ氏は、FacebookアプリでAR体験を作る開発者向けのツールを発表した。
なお、Facebookはこの件でクライアントのところに直接行っているが、これについてエージェンシー側は心配していない。Facebookはエージェンシーに対して、重複を避けるために、ブランドへのARキャンペーンの売り込み状況を知らせるように依頼している。
Snapchatとの比較
これまでのところ、ARキャンペーンのパフォーマンスについて上がってきている知見はさまざまだ。広告主とエージェンシーはFacebookのARについて、実益をもたらすものというより、いまは試行錯誤の段階だと理解している。米DIGIDAYが話を聞いた広告幹部は、Facebookが提案するARのパフォーマンスをSnapchatと比較するのはまだ早すぎると大半が口を揃えた。
360iヨーロッパで最高クリエイティブ責任者を務めるメリッサ・ディットソン氏は、FacebookのARカメラはまだ十分に知られていないと指摘した。同社は、「プライド・オブ・ブリテン・アワード」のスポンサーを務めたTSBのARフィルターを開発した。「プライド・オブ・ブリテンのフィルターの状況については、いまのところ実に満足している」と、ディットソン氏は語った。
一方で、AR広告に関するFacebookの大々的な売り込みは、まだ受け入れられていないと述べるマーケターたちもいる。キング(King)、エッセンス(Essence)、デジタスLBi(DigitasLBi)といったエージェンシーの幹部たちは先日、英Business Insiderに対して、SnapchatはARの競争でライバルを大きく引き離していると語った。また、ラルフの戦略ディレクター、トム・ウィンボウ氏は、FacebookのAR機能は、知っている限りでは自分を「熱くしない」と語った。Facebookはマスへのリーチとエンゲージメントの両面で「信じられないほど費用対効果がある」方法だが、「とても面白いというわけではない」と同氏は言う。Snapchatは、ユーザーがレンズを体験するのが当たり前になっており、そのためソーシャル体験としては「依然としてもっとも面白いARだ」と同氏は語った。
FacebookとSnapchatが売り込んでいるARに関して、現状での最大の違いは、Snapchatが閉じたエコシステムである点だ。Snapchatの場合、ブランドやエージェンシーは、レンズやフィルターの開発をもっぱらSnapchatの開発者に頼っている。それに対してFacebookは、いまは一部に対してとはいえ、プラットフォームがオープンだ。Snapchatが自ら開発を手がけることで、同社はARアクティベーションの質を制御できるかもしれないが、価格設定は、大半の広告主にとって手の届かないところになる可能性がある。Facebookの場合、広告主やエージェンシーの人件費以外に、ARキャンペーン開発にFacebook側で料金が付加されることがない。Snapchatの場合は、広告エージェンシーがSnapchatの開発費をクライアントに転嫁する必要があるかもしれない。
Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)