Facebookは9月、アドブレイクの利用資格を得たクリエイターのうち20%が参加し、すでにその約10%が1000ドル(約11万円)を超える収益を得たと宣伝した。しかし、そうしたクリエイターは、多くのオーディエンスを有しているにもかかわらず、そこから意味のある収益を得られていないと、米DIGIDAYに語った。
Facebookが、利用資格を満たしたクリエイターの動画配信の場、Watch(ウォッチ)の運用を開始し、クリエイターに自社製品やプラットフォームをもっと活用してもらえるように願い、ロサンゼルスでクリエイターサミットを開催した。しかし、Facebookは、クリエイターにとって本当に重要なものを提供できていない(YouTubeに対抗しようという場合は、特にそうだ)。それは、クリエイターが収益を得られる場にするということだ。
Facebookのミッドロール広告であるアドブレイクでは、プラットフォームはその収益の45%を天引きするが、クリエイターは30カ国以上、10を超える言語でこのサービスを利用できる。クリエイターは、Facebookで1万人を超えるフォロワーを持ち、3分間の動画において最短でも1分間の視聴を少なくとも3万回達成できた場合に、このプログラムを使用する資格が得られる。Facebookは9月、このプログラムを開始してから2週間で、利用資格を得たパブリッシャーとクリエイターのうち20%を超える顧客がこのプログラムに参加し、その2週間のあいだに、このプログラムに参加した顧客のうち約10%が、1000ドル(約11万円)を超える収益を得たと大々的に宣伝した。
しかし、利用資格を持つクリエイターは、Facebookにおいて多くのオーディエンスを持っているにもかかわらず、Facebookのアドブレイクから意味のある収益を得られていないと、米DIGIDAYに語った。アメリカを拠点として活動し、Facebook Watchを使用しているクリエイターは、フォロワー数の合計が約500万にものぼる複数のページでエピソード形式の番組を配信しても、動画1件当たりで100ドル未満しか得ていないと言った。イギリスを拠点に活動するクリエイターは、最近配信した5本の動画が640万以上のビューを記録したにもかかわらず、「通貨換算後の収益は、マクドナルド(McDonald)のハッピーミール(日本における「ハッピーセット」)の価格にも届かない程度の額しかなかった」という。
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DIGIDAYは、この話題について、6人の動画クリエイターにインタビューを実施した。6人全員が皆一様に、Facebookを利用して、もっと稼ぐための機会を失う危険を恐れて、匿名での回答を求めた。
承認を必要とする手順
彼らが抱く不満の一部には、このクリエイタースタジオ(Creator Studio)製品を介して、これらのチャンネルをマネタイズするうえで、Facebookが取っている方法が含まれる。クリエイターのページでマネタイズしても良いが、動画をアップしてから数日、あるいは数週間するまで広告がページ上に表示されないことがある。あるクリエイターは、「Facebookのアルゴリズムの都合で、動画のアップロードから最初の24時間以内にその動画のビューの大半を得ることになる。動画のビューが伸びているのに、クリエイタースタジオのバックエンドでは、ペンディング状態が続いていると、イライラしてしまう」。

約3週間前に投稿された動画の状態(クリエイターの厚意で提供):「この動画はレビューがペンディングされています。より多くのビューを定期的に獲得できている動画は、より早くレビューされます。のちほどステータスのアップデートをご確認ください」

1カ月前に投稿された動画の状態(クリエイターの厚意による提供):「この動画はただいまレビュー中です。すでに公開されている場合は、レビューが完了する前にアドブレイクが表示されることがあります」
Facebookの承認プロセスが遅いのは、このプラットフォームのブランドセーフティの問題がその設計に影響したからだ。クリエイターがアドブレイクを選択し、動画を配信しようとすると、Facebookの社内システムで人手による審査を経るまで待たされることになる。この承認プロセスに詳しいパブリッシャーは、異なるふたりの人物が審査を行う可能性もあるという。Facebookの広報担当者は、同社がレビュアー数に関しては調整中としたが、一つひとつの動画に人手によるレビューを実施することに関しては認めている。Facebookは、承認に関しては、24時間から48時間を目安にしたいと言った。クリエイターの承認待ちの順番を決めるひとつの要素は、その時点での動画のビュー数だ。そのため、動画を配信しようとしたタイミングのあとに、順番が任意に変更される可能性があると、Facebookの広報担当者は言う。
しかし、多くのフォロワーを持つFacebookページでさえ、承認には数日を要する。Facebookページで約500万のフォロワーを持っているクリエイターは、動画の大半は投稿したその日に承認されたが、さらに2、3日を要したことも2度ほどあったという。
YouTubeの先例を踏まえ
このシステムは、YouTubeとは異なり、マネタイズするための承認を得なければアドブレイクを配信できない。ご存知のように、YouTubeはその手順を踏まなかったために、さまざまなブランドセーフティスキャンダルに見舞われることになった。たとえば、タイムズ・オブ・ロンドンの調査で発覚した「大手ブランドによるテロリストへの意図しない資金供与」や「ローガン・ポールによる日本における死体の撮影動画」などが、その一例だ。
Facebookのマネタイズへの慎重な姿勢はリスクが低くなることを好む広告主にとっては喜ばしいものだが、クリエイターは依然として不満を持っている。
「Facebookはどれひとつとして、偶然そうしたのではない。なにせ大企業である」と、イギリスを拠点に活動するクリエイターは言う。「動画を承認するために十分なリソースがないと考えるのは、間違いだ。おそらく同社は高価な広告を購入する可能性が高い顧客を優先しているのだろう」。
ほかには、クリエイタースタジオ内の収益・洞察ページが頻繁にダウンすることがあると、情報筋は言う。このページが正しく動作していない場合、クリエイターが稼いでいるはずの金額が表示される代わりにパンダのマークが表示される。

Facebookクリエイタースタジオ(クリエイターの厚意で提供)
興味津々のクリエイターも
しかし、このような不満があっても、このプログラムの利用資格をまだ得られていないクリエイターは、アドブレイクが自分の役に立つ潜在的な可能性に依然として興味を示している。LGNDというニックネームのクリエイターは、Facebookやインスタグラム(Instagram)、YouTubeを使用しており、Facebookページ上で220万人のフォロワーを持っているが、まだマネタイズの資格を得ていない。「Facebookページは非常に気にかけている。なぜなら、たくさんの人にリーチできるからだ。動画は、3000万ビュー、4000万ビュー、5000万ビューと推移したのをこの目ですべて確認してきた。Facebookがとても気に入っている」と、そのクリエイターは言う。
利用資格が得られれば、得た収益をより質の良い動画を制作するために投資しようと考えていると、LGNDは言う。Facebookは、クリエイターの動画制作に対して資金を支払うべきだというクリエイターもいる。そうなれば、確実にクリエイターはFacebookのために、より質の高い作品を制作することに専念するだろう。
「クリエイターに資金を支払うようにすれば、クリエイターはその資金を自身の制作のために投資するだろう」と、イギリスを拠点に活動するクリエイターは言った。