Facebook最高製品責任者(CPO)のクリス・コックス氏はインタビューに対し、インドでのWhatsAppへの決済機能搭載はまだ初期段階と語り、「Facebookはビデオ(動画)に注力するが、それはテレビという形態をとらない」としてつながりと動画鑑賞を合わせや地域を目指すと語った。
「Advertising Week Asia 2017(5月29日〜6月1日、東京 六本木ミッドタウン)」に登壇したFacebook最高製品責任者(CPO)のクリス・コックス氏がDIGIDAY[日本版]のインタビューに応じた。
Facebookはユーザー数がグローバルで19.4億(2017年Q1)に達した。特に非欧米圏の新興国では多様な利用・ニーズがあらわになっており、アプリ自体も地域ごとに多様化の兆しを見せている。それが著しいのがインドだ。最大財閥がキャリア事業に参入し、高速ワイアレスネットワークと無縁だった低所得者層に4Gが広まりはじめるなか、FacebookはWhatsApp(ワッツアップ)に決済機能を載せることを計画していると取り沙汰されてきた。
コックス氏は「インドのインターネットで起きている変化に関してはとても興味深く見ている。我々はインドにおけるメッセージングアプリ上の決済機能の開発を開始したばかりであり、初期段階だ」と説明した。
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「我々は途上国向けに『Facebook Lite』を提供している。データ使用量に極めて敏感な途上国の人々のためにデザインされたアプリだ。途上国では利用デバイスのパフォーマンスは期待できない。ユーザーはデータ通信料がかかる自動再生動画を求めておらず、また多くの機能がアプリに載っていることも好まない。すでに世界中の2億人がFacebook Liteを利用している。我々はインスタグラムやワッツアップ(WhatsApp)、メッセンジャーでも、世界のどこにいても同じエクスペリエンスを味わえるようにしたいと感じている」。
Facebook Liteは2015年1月に発表された新興国向けの簡易版。アプリサイズが1MB未満で送受信データ量を抑えて低質の通信環境下でも動作を軽快にするように作られている。近年のFacebookのユーザー数では、欧米は伸びが横ばいになったが、「アジア太平洋」と「その他世界」は拡大を続けており、これらの地域にはFacebook Liteへのニーズがあるだろう。
ユーザー数の伸びの原資は、グラフの上部ふたつの「アジア太平洋」「その他世界」。欧米圏は飽和傾向 Via Facebook Financial Result Q1
コックス氏は新興国それぞれのニーズに合うアプリ開発は困難な試みでもあると指摘。「我々には、新興国の環境に対して多くの時間を費やす、多くのエンジニアがいる。新興国でのアプリケーションの利用状況をシミュレートするツールを作っている。コードを書くと数千のデバイスやネットワークの組み合わせをシミュレートし、アプリケーションの動作を自動的にテストできる」。
「テレビ化ではなくビデオ化」するFacebook
Facebookは今後導入する動画配信サービスをめぐって、Vox Media、Buzzfeed、グループ・ナイン・メディアなどの若年層向けデジタルメディアと提携したと報じられている。長尺は買い取り、短尺は広告収益の分配という枠組み。Facebookがコムキャストのようなケーブルテレビ事業者と、NBCのようなチャンネルを提供するテレビネットワークを兼ねていて、Vox Mediaなどがスタジオ、制作会社という形だ。
コックス氏は「我々はこの件に関して情報を発表してはいない(ロイターなどの報道で明らかになった)。動画を制作した人は誰でも、Facebook上にビジネスモデルをもち、オーディエンスに対してプロダクトエクスペリエンスを表現できるようにしたい。人々はニュース、エンターテインメント、友人へのシェアとさまざまなソースからもたらされる情報を動画で得ることができるだろう」と語った。
Facebookはほかにもスポーツコンテンツのライブストリーム権の入札でGoogle、Amazonなどと競り合い、元MTV幹部の雇用をし、Apple TVなどに向けた動画アプリを北米でローンチ。近年のモバイルビデオの文脈からよりテレビに近い分野のコンテンツの獲得・配信に進出しつつある。米国や中国のインターネット企業が動画に注力する背景は次のようなことがある。(1)テレビ広告予算とデジタル広告予算の融合 (2)モバイル上での可処分時間の取り合い(動画はユーザーに長い時間を割かせられる)(3)動画配信コストの下落−−。
筆者はコックス氏に「Facebookは今後『テレビ』のようになるか」と質問した。コックス氏は「Facebookはビデオ(動画)に注力するが、それはテレビという形態をとらない」と答えた。ビデオはスクリーンに映る「モーションピクチャー」の総称であり、テレビもデジタル動画も含まれる。「テレビはビデオの一形態だが必ずしもインタラクティブ(双方向)ではない。私は動画の周辺で起きる会話、背後にある関係性、コミュニティがとても面白いと考えている。友人と動画を通じて双方向的に話し合うことについて考えてもらいたい」。
ユーザーがFacebookのなかにある人間関係のネットワークやIDと絡める形で、動画を観てもらうようにすることを目論んでいるようだ。
※DIGIDAY[日本版]はAdvertising Week Asia 2017のメディアパートナーです。
Written, Photographed by 吉田拓史 / Takushi Yoshida