Facebookはeコマースプラットフォームになるべく、ターゲットとみなしているeコマース企業や小売企業を支援するサービスの買収を精力的におこなっている。ただし、この動きはコマース領域におけるFacebookの利便性を高める一方で、顧客との関係を取り上げようとしているとブランドに懸念させることにもなり得る。
Facebookはeコマースのプラットフォームとしての役割を強めようとしている。その一環として同社は、ターゲットとみなしているeコマース企業や小売企業を支援するサービスの買収を精力的におこなうようだ。
11月30日に発表されたFacebookの最新の買収も、それを証明している。同社は、ビルケンシュトック(Birkenstock)とグロッシア(Glossier)を顧客に持つカスタマーサービスプラットフォームのカスタマー(Kustomer)を買収する意向を発表した。カスタマーが提供するサービスは、企業がSMSやソーシャルメディアのような複数のチャネルにまたがるカスタマーサービスのやりとりを一元管理できるよう、顧客サービスタスクの一部自動化を支援するものだ。買収はまだ完了しておらず、Facebookは買収金額を明らかにしなかったが、ウォール・ストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)によると、契約では10億ドル(約1040億円)で評価されているという。
カスタマー買収は、Facebookが提供するアプリを通じてユーザーにさらなるオンライン購入を推奨していくことも意味する。たとえば、Facebookは昨年はインスタグラムチェックアウト(Instagram Checkout)をローンチし、今年の初めにはショップス(Shops)と呼ばれるカスタマイズ可能なオンラインストア機能を導入した。しかし、Facebookのアプリでより多くの買い物をさせるには、クレジットカード番号入力を簡単にする以上の努力が必要だ。カスタマーサービスを含む、プロダクト販売に必要なほかのサービスにももっとFacebookを導入するよう、eコマース企業を説得することも重要になる。
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ソーシャル活用の拡大
「これは、(Facebookが)コンバージョンと顧客維持のライフサイクルを完成させることに尽力している証拠だと思う」と調査会社ガートナー(Gartner)のマーケティング部門調査ディレクター、カイル・リース氏は述べた。
買収を発表したプレスリリースでFacebookは、買収完了後にカスタマーとFacebookのアプリ群をどのように統合するかについて詳細をあまり明らかにせず、「事業拡大に必要なリソースを提供し、カスタマーの事業を支援する予定だ」とだけ述べた。Facebookは声明の中で、カスタマー以外のCRMプラットフォームとの機能提携も引き続きサポートすると述べている。
ソーシャルメディアの利用が拡大するにつれ、より多くの人々が企業とのコミュニケーションのためにFacebookを含むさまざまなプラットフォームを利用するようになった。Facebookによると、毎日1億7500万人がワッツアップ(WhatsApp)を使って企業に何らかのメッセージを送っているという。米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)が以前報じたように、いくつかの小規模小売企業はパンデミックで店舗が閉鎖されてから、インスタグラムを通じた顧客からの問い合せが増加したと報告している。
ソーシャルメディアを通じてカスタマーサービスを利用している人々のもっとも顕著な例は、プロダクトやサービスの購入後にFacebookやインスタグラム上で、フライトの遅延や商品が配達時に破損していたことなどの不満を会社にコメントしている顧客たちである。しかし、インスタグラムやFacebook、ワッツアップを通じて商品を購入する人が増えるにつれ、顧客は購入後だけでなく購入の最中に企業とコミュニケーションをとるためにこれらのアプリを使いたい、と思う可能性も高まるだろう。
「ソーシャルメディアにおけるeコマースのやり取りが増え、(eコマースにおける)ソーシャルメディアの継続的な活用や利用頻度が増加していることに、Facebookとしてはカスタマーを買収することで対応しようとしているのだと思う」とリース氏は言う。「顧客からの不満や、ブランドに対する酷評に対応するだけではなく、ソーシャルメディア上での精算、注文処理、配送といったプロセス管理をより拡大することが目的だろう」。
Facebookを経由することへの懸念も
今回の買収以前、Facebookが自社の顧客にアプリを通じたカスタマーサービスを提供するためには、他サービスとのパートナーシップや機能提携を通じて、カスタマーのようなCRMサービスを顧客のビジネスAPIと統合するしかなかった。また、Facebookはディベロッパーがメッセンジャー(Messenger)を介してチャットボットを作成できる機能を長年宣伝してきたが、完全に自動化されたチャットボットは、当初の希望通りには普及していない。
しかし、チェックアウト(Checkout)機能のローンチによって、購入プロセスにおけるFacebookの管理領域は拡大した。たとえばチェックアウトでは、商品を販売する企業ではなくFacebookが注文と出荷確認のeメールを顧客に送信する。
カスタマーの買収によって、Facebookはチェックアウトを利用する消費者とコミュニケーションするための自社ツールを増やせるだろう。将来的にはチェックアウト利用客からの「どうやって商品交換をするか」といった、より複雑なカスタマーサービスの質問に対応し始めるかもしれない。さらに、カスタマーサービスの問合せに関して、現時点でFacebook上で得られている以上の洞察が得られるようになるだろう。
しかし、ブランド側からするとチェックアウトの高速化という名の下に、顧客との関係構築プロセスの一部をFacebookへと手渡すことになる。これがチェックアウトの成長を阻害する最大の要因の1つだと市場調査会社eマーケター(eMarketer)のEコマース・アナリストであるアンドリュー・リップスマン氏は述べた。Facebookはチェックアウトを利用しているブランドの総数を公表していないが、ユニクロ、H&M、ターゲット(Target)、 ザラ(Zara)を含む「数百の」ブランドがチェックアウトを利用しているという。
「コントロールを手放したくない」
Facebookが自社のサービスと買収したカスタマーの機能を今後どの程度統合させるかによるが、小売業者たちがFacebookは顧客と自分たちのあいだにくさびを打とうとしていると感じた場合、カスタマーサービスにFacebookアプリをさらに活用してもらいたいというFacebookの狙いを妨げる可能性がある。
「(Facebookが)やろうとしているのは、有用な機能を適切な場所に配置することで、小売業者が(Facebook上の商取引に)参加する理由を増やすことだと思う」とリップスマン氏は述べた。しかし同氏はまた、「(ブランドたちは)コントロールを必ずしも手放したくない、データを手放したくない、顧客体験を仲介者に受け渡したくない」という事実にFacebookは対応しなければならないだろうと語った。
[原文:Why Facebook is investing in customer service as its commerce ambitions grow]
Anna Hensel(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)