Facebookは2年前、自社の広告ネットワーク、オーディエンスネットワーク(Audience Network)をコネクテッドTV市場に拡大しはじめした。だが、Facebookは先ごろ、そこのネットワークを閉じ、来年1月までにはパブリッシャーたちのOTTアプリにおける広告販売を停止すると、広報担当が発表した。
テレビ画面へと自社の広告ビジネスを拡大しようとするFacebookの取り組みは、複数の問題に直面している。
Facebookは2年前、自社の広告ネットワーク、オーディエンスネットワーク(Audience Network)をコネクテッドTV市場に拡大しはじめした。だが、Facebookは先ごろ、コネクテッドTV側の広告ネットワークを閉じ、2019年1月までにはパブリッシャーたちのOTTアプリにおける広告販売を停止すると、広報担当が発表した。「少数のパブリッシャーたちと協働して、彼らが有するコネクテッドTVアプリをオーディエンスネットワーク広告を通じてマネタイズする試みを行った。そして、最終的にこのコンセプトを進めないことに決定した」と、eメールの声明で語った。
この件に関して情報を持つメディアエグゼクティブ3人からの情報によると、オーディエンスネットワークを使うパブリッシャーたちは先月、自分たちのアプリの在庫利用を停止したことに気付きはじめたという。Facebookは今回の変更連絡については大々的な連絡をしていない。OTT広告ネットワークが停止したことに関してFacebookからの通知を受けておらず、OTTアプリ外の動画広告在庫に関しては、オーディエンスネットワークのアクティビティを継続して受け取っている会社もいる。
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囲い込みに嫌気?
コネクテッドTV広告に取り組んだFacebookの野望は、いくつかの点で阻害されたようだ。ひとつはコネクテッドTV環境における囲い込み現象だ。たとえばロク(Roku)では、プラットフォーム上のアプリにおけるサードパーティによる広告を制限している。これはある意味では、成長を見せているOTT広告セールスビジネスを保護するための保護主義的な手法だ。「Facebookのオーディエンスネットワークを通じた広告販売コードを含むアプリは、ロクは承認しない」と、エグゼクティブのひとりは語ってくれた。なお、本件について特定のパートナーに関するコメントはしないと、ロクの広報担当者は、米DIGIDAYの取材を断っている。
ロクは、Facebookが2016年11月にOTT向け広告ネットワークを試験運用開始したプラットフォームのひとつだった。だが、ロクにおける広告ビジネスはそれ以降、急成長を見せている。現時点では、広告がロクの最大かつ、もっとも大きな成長を見せているビジネス分野だ。「ここ6カ月から12カ月のあいだ、ロクは自らの広告プロダクトに関して、非常に大きなやる気を持って取り組んできた。いまや広告は、ロクの収益源の大きな部分を占めている。今後もそれを保護し、自らのためだけにキープするだろう」と、フォレスター(Forrester)のプリンシパルアナリスト、ジム・ネール氏は言う。
エグゼクティブたちの証言によると、Facebookによるターゲット広告をロクのアプリ内で販売することが制限される形で、同社が広告ガイドラインを改定したのも、このビジネスを守るためだったという。ロクのアプリで動く動画広告は、ロクの許可なしにデバイスのIPアドレスを集めてはいけないと、ガイドラインは規定している。コネクテッドTVにはクッキーが存在しないため、OTTアプリにおいてターゲット広告を展開するのに使える数少ない特定要素がIPアドレスなのだ。
需要との不一致?
FacebookによるOTT広告ネットワークは、OTT在庫に対してプレミアム料金を払っても構わないと思う広告主を集められなかったことが失敗の原因のひとつかもしれない。FacebookはオーディエンスネットワークにおけるOTT在庫は、独立したオプションとしてこなかった。本稿のために取材を行った広告バイヤーのなかでは、OTT在庫がオーディエンスネットワーク内で購入可能であると知らなかった人物もふたり存在した。
OTT在庫の広告主は、大部分がパフォーマンスマーケターであると、パブリッシャーたちは捉えている。パフォーマンスマーケターたちは、オーディエンスネットワークにとってはコアな広告主ベースだが、視聴回数を増やせてもクリックはできないタイプの広告にプレミアム料金を支払うような広告主ではない。「コネクテッドTV環境におけるマーケットプレイスを持続可能なものにするのに、十分なバイヤーを獲得する目標を達成できるようには、マーケットのフロントエンドを変えることはできなかった」と、ひとりのエグゼクティブは言った。
広告主からの需要との不一致が調整できなかった結果、パブリッシャーたちも自身のOTT在庫の多くをFacebookに割り当てることをしなくなっていた。Facebookの広告ネットワークを通じて、それほど収益を上げられないのではないかと心配したのだ。Facebookの広告ネットワークは、OTT在庫を直接、もしくはますます増えるコネクテッドTVプラットフォームやプログラマティックマーケットプレイスを通じて売ることで、より低いCPMを実現していると広く信じられている。こういった仕組みを通じて、テレビのような在庫を目指していた。
「コンテンツのオーナーからすると、ほかにもパートナーを組めるDSPやSSPはたくさん存在している。スポットX(SpotX)、テラリア(Telaria)、アドビ(Adobe)などだ。間違いなく、どこであれ、与えられる在庫のコントロールはFacebookのオーディエンスネットワークよりも間違いなく強いだろう」とネール氏は言う。
諦めてはいない
FacebookはコネクテッドTV広告のマーケットを、自社の広告ネットワークにおいて撤退することになったものの、マーケット自体を完全に捨て去ったわけではない。Facebook Watch(ウォッチ)のOTTアプリが存在しており、TVのような在庫を求める広告主には、こちらのOTT在庫を提供することが少なくともできる。インストリームリザーブ(In-Stream Reserve)と呼ばれる、広告主向けに作られた独立したバンドルのなかに、Watchのプレミアム動画コンテンツをパッケージングすることで、こういった種類の広告主にアピールしようとしているのだ。この在庫に対して、ブランド広告主たちから十分な需要を集めることができれば、より幅広いコネクテッドTV広告マーケットにFacebookが参入するための基盤として活用できるだろう(とはいえ、広告バイヤーはFacebookのインストリームリザーブに対して懸念を抱えているため、あくまでも仮説だが)。
「もちろん挑戦するに決まっている。(FacebookのCEOであるマーク)ザッカーバーグにとって、この宇宙に存在するあらゆる問題の解決策は、Facebookの存在感を増すことだ。彼は絶対にどこかの時点で戻ってくるだろう」と、ニール氏は言う。
Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)