スマートフォンとソーシャルネットワークの普及・進化により、人のつながりがグローバル規模で新たな価値を生むようになった。日本企業にとって、東京オリンピックを3年後に控えたいまは、グローバル化するチャンスだ。フェイスブックジャパン代表取締役の長谷川晋氏とAdRoll代表取締役社長の香村竜一郎氏に語り合ってもらった。
スマートフォンとソーシャルネットワークの普及・進化により、人と人のつながりがグローバル規模の新たな価値を生むようになった。
月間アクティブユーザー20億人を擁するグローバルプラットフォーム、Facebookもその9割がモバイルからのアクセスだ。フェイスブック ジャパンの代表取締役、長谷川晋氏は「モバイルの浸透に合わせ多様化する人々のつながり方に企業のビジネスマーケティングも対応していくことが大事」という。
また、こうしたグローバルプラットフォームを活用して、企業のマーケティング支援を行うのが、世界規模でパフォーマンス広告を展開するアドテクノロジー企業AdRollだ。同社代表取締役社長の香村竜一郎氏は、ソーシャルプラットフォームを重要なマーケティングチャネルのひとつと位置づけている。

本対談はフェイスブックジャパンのオフィスで実施された
本記事では、デジタル時代における人と人のつながり方の変化に合わせ、企業のマーケティング活動をどのように進化させて行くべきか、Facebook・長谷川氏とAdRoll・香村氏に話し合ってもらった。
香村 竜一郎 氏(以下、香村):AdRollは「Facebook Marketing Partner(FMP)」として、ソーシャルプラットフォームを通じた、さまざまなマーケティング支援に取り組んでいます。今回、長谷川さんと対談の機会を得て、まず、日本におけるそのようなソーシャル上のトレンドについてお聞きしたいと思います。
長谷川 晋 氏(以下、長谷川):ソーシャルにおける大きなトレンドといえば、まずは「モバイルシフト」でしょう。携帯電話の契約件数はグローバルで47億件、回線ベースで70億といわれます。それに呼応して、ソーシャル、人と人のつながりもモバイルシフトが起きていて、日本でもFacebookの月間アクティブユーザーの9割はモバイルでアクセスしています。また、人と人のつながり方も、テキスト中心だったものがビジュアル、動画へとシフトしています。
スマホに搭載された高性能なカメラを一人ひとりが持ち、FacebookやInstagramに投稿しています。Facebook上での動画再生回数は1日約80億回発生しており、こうした動画によるコミュニケーションというグローバルなトレンドは、日本でも同様です。
香村:Facebookのようなプラットフォームの役割で何が変わっていくと感じますか?
長谷川:つい最近、すべての企業活動のベースとなるミッションを変えました。もともとは「よりオープンでつながった世界を実現する」というものだったのを、「コミュニティづくりを応援し、それによって人と人がより身近になる世界を実現する」と、よりコミュニティ志向にしたのです。
人と人がオープンにつながるだけでなく、同じような目的、意思を共有する人が集まり、コミュニティができて、そこから新しいバリューが生まれると信じ、そこに注力していきたいと考えています。
地域を超えたコミュニティ
香村:昔から日本にもコミュニティはたくさんありました。地域の集まりや習いごと、スポーツ、あるいは寺社などを中心に形成された伝統的なコミュニティなどです。でも、いま、そうしたオフラインのコミュニティの参加者は減っていますよね。
長谷川:そうですね。それには、さまざまな要因があると思いますが、我々プラットフォームは、テクノロジーを使ってそうした課題にアプローチできないかと考えています。
テクノロジーを使うと、地域に縛られずに人と人がつながることができます。たとえば、着物好きのコミュニティが京都に生まれ、着物をより気軽に、自由に楽しむための活動が日本の各都市に波及、さらにアメリカのニューヨークや台湾などグローバルに広がっていって、日本だけでなく世界へも日本の着物文化を発信するようなコミュニティのつながりへと発展するといったことです。
香村:ひとりのユーザーのなかにも、さまざまな異なるつながりのニーズがあります。友だちやグループ、興味ある分野もたくさんあります。映画や読書、アウトドアにサーフィンなど、異なりますよね。
長谷川:おっしゃる通りです。ですから、それらをFacebookだけですべてカバーするのではなく、いろいろなつながり方のニーズに、Facebookのグループ機能やMessenger、WhatsAppのようなグループ間や個人間でのコミュニケーションをサポートするものや、よりビジュアルに特化したコミュニケーションを促すInstagramなど、さまざまな機能・サービスで応えていきたいと思っています。

「『つながり』から生まれる新しいバリューにフォーカスする」とFacebookの長谷川氏
人の気持ちを動かすこと
香村:昨今、スマートフォンの普及が進み、2015年に博報堂DYが出した調査では20代女性の98%がソーシャルを利用しているという結果が出ています。ソーシャルで、人のつながり方、情報の流通の仕方が変わるなかで、御社はソーシャルを、どのように企業のマーケティングツールとして活用すべきだと考えますか。
長谷川:私は事業会社で10数年、マーケティングを担当してきました。私自身の経験から感じることは、マーケターは「ソーシャルプラットフォーム」という言葉に引っ張られすぎているということです。特別なものではなく、シンプルにマーケティングとして捉えたほうがいいと思っています。
たとえば、ソーシャルプラットフォームを使うから「いいね!」何件とか、何回バズったとか、そういう指標や目標でソーシャルのマーケティングを行う企業も多いと思います。そのことは否定しませんが、マーケティングの目的は本来、人の気持ちをポジティブに動かして実際に行動を起こしてもらい、ブランドのビジネスを成長させることにあります。
香村:あくまでビジネスとして、ユーザーにとって重要な指標に基づくことが大事ということですね。
国境がなくなってきた
長谷川:ええ。それと、私が今後大変楽しみなマーケティングの進化と考えているのは「マーケティングに国境がなくなってきた」という点です。これまでは、グローバルでマーケティングを行うときには、現地にマーケティングチームを置いて、メディアを買い付けて、クリエイティブを作るということをしないと、グローバル展開できませんでした。
いまは、FacebookやInstagramのようなグローバルなプラットフォームを利用し、日本でパソコン、スマホが1台あれば「この国の、この人に、こういうコミュニケーションをする」というのを、マーケターはその場で、スケールを持って実現できます。これは劇的な変化だと思うのです。
香村:確かにそうですね。日本から世界に向けた情報発信、ブランディングのあり方が変わってきていると思います。AdRollも御社のFMPとしてスモールビジネスのソリューションのバッチをいただきました。なので、大企業だけでなく中小企業の支援をしていきたいと考えています。実際、いまは資金も人も限られているスモールビジネスであっても、パソコン1台あれば、自分のビジネスに根付いたマーケティングをグローバルで行える時代だと思います。
長谷川:こんな事例があります。家族で経営しているベルリンの家具屋の事例です。その家具屋は、それほどビジネスが右肩上がりでないときに、息子が経営に参加し、Facebookを使って、オンラインでマーケティングを開始したのです。
その結果、ベルリンだけでなく、国境を超えて家具が売れるようになり、いまではベルリン以外にも何店舗も構えるようになったのだとか。グローバルではそういうケースがたくさん出てきています。
「発見」のプラットフォーム
香村:AdRollでは、アメリカのマーケターに調査を行いました。それによると、マーケターが使用するソーシャルのチャネルは、Facebookがダントツで1位でした。「KPI達成」という点で評価されているほか、「効率的」「強力なターゲティング機能」「セルフサービスの管理画面」「メッセージやクリエイティブの柔軟性」「配信規模」「定期的なアップデート」「ユーザーとのエンゲージメント」などが高く評価されています。
この結果に対して、逆にFacebookがマーケターに期待することはありますか。
長谷川:大きく3つあります。まずは「プラットフォームとしての特性」を理解していただくことが大事だと思います。
香村:「プラットフォームの特性」とは?
長谷川:Facebookでもっとも特徴的なのは「発見のメディア」ということです。たとえば、検索では、来週ハワイに行く、というときに「ハワイ レストラン」などのように、知りたいことがあり、それに基づいて行動します。
これに対して、FacebookやInstagramは、すき間時間に「なにかおもしろいことないかなあ」と訪れることが多いのです。しかも1日に何回も訪れます。つまり、ユーザーが求めるのは「新しい情報」「新しい発見」なのです。
香村:なるほど。ということは、企業であれば、この新商品、ブランドについて知って欲しい、あるいは店舗であれば「自分の店を知ってもらう」というように、「発見」から入るのが有効ということですね。しかも、これが企業側が設定するデモグラフィックセグメントではなく、ユーザーの行動ベースに基いて、必要な情報が配信されるとなれば、ユーザーにとっても情報が有益になるはずですね。

「行動ベースに基づけば、広告も有益になる」とAdRollの香村氏
答えは中間に存在する
長谷川:そうです。そして、2つ目は「クリエイティブ」です。個人的には、「クリエイティブの二極化」が起きていると感じています。一方では、クリエイティブの自動化、つまりテンプレートに従って、プロダクトフィードなどを活用して人の手を介さず自動的にクリエイティブが制作される世界です。もう一方は、テレビCMと同じように、長い時間とコストをかけて、渾身のクリエイティブを作り込む世界です。
そうしたなかで、私はその中間こそアップサイドのポテンシャルがある気がします。
香村:テンプレに従って量産することと、コストをかけたクリエイティブのバランスを取るということでしょうか。
長谷川:いえ、少し違います。渾身のクリエイティブを1作品、じっくり時間をかけて作るのではなく、同じ予算を「数をいくつも作り、セグメントごとに違うクリエイティブを出し分けてA/Bテストにより検証する」ことに配分してはどうかということです。
たとえば、「自動車」という商材でも、顧客のライフスタイル、住んでいる地域、趣味によってバリエーションを作り、A/Bテストでブランドリフトを検証し、一番成績のよいクリエイティブをスケールさせるというように、モバイル時代には、クリエイティブ性と量産性を両立することが可能になってきます。
香村:効果検証が可視化されるという点がポイントですね。
長谷川:その通りです。効果検証は3つ目のポイントで、Facebookが評価されている大きなポイントでもあります。特に、ソーシャルプラットフォームの強みを生かした「人に対する効果検証」に力を発揮します。
たとえば、ブランディングの効果検証も、ある動画を100万人に見せ、別の100万人には見せないでその差を検証するというように大規模に行うことができますし、ブランドリフトが確認された人はどういう属性の人なのかというのを分析し、さらにそこからの学びを活かしていくこともできます。
「CPA重視」の風潮は危険
香村:いま、「クリエイティブ」と「効果検証」というお話をいただきましたが、まだまだ国内では「CPA重視」の風潮があるのも事実です。ひとつだけの効果指標だけで、すべてのマーケティング効果を測ることに、AdRollは常々警鐘を鳴らしてきましたが、そのあたりをどう考えますか?
長谷川:私自身、事業会社にいた経験があるため、当然ながら、事業会社によって何を指標にするかが異なることは理解できます。そこを尊重したうえで、CPA、ラストクリックに偏重している傾向があるのは確かです。
ラストクリックだけを見るというのは、たとえば、ビールを購入したお客様が、店頭で買うシーンのみを切り取って評価するようなものです。購入という結果を得るために、マーケティング予算を店頭POPとプライシングにフォーカスしようというのと、ほぼ一緒だと思うのです。
香村:実際は、テレビCMやデジタルなど、さまざまな影響を受けて「あのビールよさそうだな」と店頭で手に取っているわけですよね。ですから、トータルのカスタマージャーニーやフルファネルを見て、何が、どのように購買行動に影響を与えたか、正確に効果検証するのがマーケティングとしては自然の流れだと思います。
「ファンづくり」の大チャンス
長谷川:AdRollとして、日本からグローバルに進出する「マーケティングのグローバル化」や「人に対する効果検証」についてはどのように考えていますか。
香村:グローバルについては、グローバル企業としてのAdRollの強みを発揮していきたいです。先ほどのベルリンの家具屋の話ではないですが、パソコン、スマホひとつで、企業規模に関わらず、家族経営のようなスモールビジネスの企業でも、グローバルに広告を出せる。使いやすいセルフサービスプラットフォーム、小さな金額でも可能な最低予算額設定などAdRollのパフォーマンス広告における拡張性の高さを、スモールビジネスをはじめとするさまざまな企業規模の方々にもっと知っていただきたいです。
長谷川:私もこの3年が勝負だと思っています。2020年に東京でオリンピックがあって、日本に対する注目が高まっているのを感じます。
オリンピック後を考えたときに、いまやるべきことは、日本のプロダクト、サービス、ブランドをいかに海外の人に好きになってもらうか、どれだけファンを作れるかということです。
香村:月間20億人のグローバルプラットフォームだからこそできることがありますね。オリンピック後も、旅行先の選択肢に日本が選ばれて、日本のプロダクトが選ばれるようにしていく「ファンづくり」の大きなチャンスです。
長谷川:スモールビジネスのグローバル進出は、これから2020年に向けて大きなチャンスです。私たちのようなグローバルプラットフォームと、御社のようなグローバルのアドテク企業がパートナーとして手を携え、ともに取り組んでいきたいです。
ソーシャルテクノロジーを活用し、企業規模に関わらずがグローバルでマーケティングを行う可能性はどんどん広がってきている。2020年を目前に、マーケターは改めて、モバイルファースト時代のクリエイティブのあり方、フルファネルでの効果検証など、自社のプロダクト、サービスの「ファンづくり」のためのマーケティング戦略を見直すことが求められるだろう。
▼長谷川 晋(左)
フェイスブック ジャパン 代表取締役
京都大学経済学部卒。消費財メーカー、プロクター・アンド・ギャンブルで10年間ブランドおよびビジネスのマネジメントに従事。その後、楽天で上級執行役員としてグローバルおよび国内のマーケティングを管掌。2015年10月よりフェイスブック ジャパン代表取締役に就任。
▼香村 竜一郎(右)
AdRoll株式会社 代表取締役社長
慶應大学商学部卒、Googleに9年間勤務。日本、オーストラリア、ニュージーランドの新製品およびソリューション担当執行役員を務めた。2015年3月にAdRoll日本支社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。事業開発、およびセールス事業の陣頭指揮を執る。
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Written by 阿部欽一
Photo by 渡部幸和