8000万ドル(約87億円)の資金を集めたアドテク企業アイビュー(Eyeview)は、動画にフォーカスを据えていた。しかし、資金が底をつき、閉鎖となった。アイビューの従業員は全員が職を失うこととなる。アドテクを取り囲む状況はかつてないほど厳しくなっている。
8000万ドル(約87億円)の資金を集めたアドテク企業アイビュー(Eyeview)は、動画にフォーカスを据えていた。しかし、資金が底をつき、閉鎖となった。
彼らが抱える約100人の従業員たちは先週、この知らせを聞いた。年末を持って、運営を終了することとなった。アイビューの従業員は全員が職を失うこととなる。同社のチェアマンであるグレッグ・コールマン氏は、米DIGIDAYに事業閉鎖を認めた。コールマン氏はレアラー・ヒップー(Lerer Hippeau)のレジデンス起業家も勤めており、その他多くの役員にも就いている。従業員たちは給料が支払われ、解雇手当、そして彼らがすでに得ている歩合手数料、ボーナスも支払われると、コールマン氏は述べた。
ホンダ(Honda)やP&Gといったブランドのマーケターたちにターゲット動画広告を提供してきたパフォーマンス広告の専門企業であったアイビューだが、次々と潰れるアドテク企業のリストにその名を加えることになった。16年の歴史を持つイグニションワン(IgnitionOne)の転落をビジネスインサイダー(Business Insider)は報じている。イグニションワンは先月、急スピードでピュブリシス・メディア(Publicis Media)とジータ・グローバル(Zeta Global)に買収された。3月には、サイズミック(Sizmek)は連邦倒産法第11章により倒産を申し立て、のちにデジタル広告マーケットプレイスをジータ(Zeta)に対して3600万ドル(約39億円)で売却し、広告サーバービジネスをアマゾンに3000万ドル(約32億円)で売却した。ビデオロジー(Videology)もまた、昨年破産申し立てを行いアモビー(Amobee)によって1億ドル(約109億円)で買収された。
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アドテクを取り囲む状況はかつてないほど厳しくなっている。ベンチャーキャピタルの投資の熱は冷めつつあり、GoogleとFacebookによるデジタル広告ビジネスの寡占状態は続く。ブラウザ、そして政府レベルでのユーザートラッキングの取締りも強化されている。
アイビューは数年前に「業界の最大のプログラマティック広告プレイヤーのひとつになろうとして」気を散らしてしまい、彼らの中核であるデジタル動画パフォーマンス広告プレイヤーというビジネスの立ち位置から注意が逸れてしまったと、同社のコールマン氏は指摘する。
9月には、アイビューは共同ファウンダー、オーレン・ハーネヴォ氏の代わりとして新しいCEOのロブ・ダイチャート氏を招き入れた。クリテオ(Criteo)とルビコン・プロジェクト(Rubicon Project)出身のアドテクのベテランだ。本稿の公開までにはダイチャート氏からのコメントはもらえなかった。
閉鎖は予想されてなかった
投資家たちは痺れを切らしていた。最後の資金調達では2018年の7月に2000万ドル(約21億円)をエクイティとデットで集めた。これで資金は、合計で7810万ドル(約85億円)となった。コールマン氏は、会社の投資家たちはさらに追加で今年資金を投入したと述べている。だが、その具体的な金額は明かさなかった。
「マーケットプレイスに行き、ベンチャーキャピタルとも話をしたが、ベンチャーキャピタル業界では誰もアドテクに投資をしていない。非常に静かだ。戦略パートナーたちとの話では、非常に興味深いものも多くあったが、必要な手続きを踏むためには準備期間が短すぎた」と、コールマン氏は言う。
事業の閉鎖は予想されてなかったと、コールマン氏は述べる。
「資金が底を尽きると分かっていればロブ(ダイチャート氏)を雇わなかっただろう。すでに存在する投資家たちから、もしくはベンチャーキャピタルから、もしくは戦略(投資家)から資金を調達できると思っていた」。会社の従業員やアセットに対する需要・問合せのレベルは高いと、コールマン氏は述べた。
アイビューもほかの企業と同様に連邦倒産法第11章による倒産申し立てを行うかは、まだ不明瞭だ。「第11章申し立ての段階にあるとは思わない」と、コールマン氏は語った。
コストのかかるビジネス運営
アイビューの実情に詳しい関係者による証言では、彼らは非常にコストのかかるビジネス運営だったとのことだ。カスタマイズの動画クリエイティブと計測という彼らのメインの機能は、コストの高いコーダーたちやデータ分析の専門家たちを必要とした。さらに、GoogleやFacebookのセルフサービスのバイイングプラットフォームに向かいがちなパフォーマンス広告予算を獲得する競争を行っていた。
「『サービスとしてのサービス』にならずに『サービスとしてのソフトウェア(SaaS)』を実現するのは本当に困難だ」と、業界関係者は言う。「自らをSaaSと形容する企業の90%は、コーディングが高価で競争が激しい業界における、サービスとしてのサービスの運営形式を実際には持っている」。
「アイビューは利益を生むことを求める環境において、大きな損失を出しながらネットワークメディアビジネス運営を継続したという単純なケースだ。これはツーストライクだ」と、別の業界関係者は語った。
Lara O’Reilly(原文 / 訳:塚本 紺)