この2年ほど、Amazonはファッション顧客を引き込む新たな方法を見出すべく、種々のサービスを怒濤の勢いで投入しており、ほぼ毎月、新たな機能が登場している。なかにはすでに消えたものもあるが、それらが全体として、ファッション界における同社の力を増大させているのは間違いない。そんなAmazonの試みを紹介する。
Amazonが仕掛ける一大ファッション戦略の全貌は掴みがたい。
Amazonはファーストパーティおよびサードパーティのアパレル製品をメインサイト、派生サイトのLuxury Stores(ラグジュアリーストア)、傘下のZappos(ザッポス)で販売。数字は測定する人によって変わってくるが、いずれにせよ、Amazonをeコマースアパレル業界の主力とする見方が大勢を占め、そのシェアは同市場の50%に迫るとされている。その一方で、ファッションブランド間の評判はさまざまであり、同プラットフォームにおける偽物の横行が、ナイキ(Nike)をはじめ、有名ファッションブランドを遠ざけているのもまた事実だ。
だがこの2年ほど、Amazonはファッション顧客を引き込む新たな方法を見出すべく、種々のサービスを怒濤の勢いで投入しており、ほぼ毎月、新たな機能が次々と登場している。なかにはすでに消え去ったものもあり、まるで手当たり次第に投げつけ、どれが壁に張り付くのかを試しているような部分もあるのかもしれないが、それらが全体として、ファッション界におけるAmazonの力を増大させているのは間違いない。市場調査会社カンター(Kantar)によれば、衣類の購入を主にAmazonで行なうと答えた人々の割合は、2019年以来、3%増えている。成長率自体はまだ小さく、それにはコロナ禍の影響もあるのかもしれないが、Amazonが仕掛けてきたファッション関連の試行の数々が、目に見える結果を出しつつあるのは確かだ。
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「Amazonは攻撃を仕掛け、その結果、成長している」と、カンターのeコマースアナリスト、レイチェル・ダルトン氏は評し、特に婦人靴といったいくつかの商品は1年前よりもAmazonでの購入率が明らかに高まっていると指摘する。「ファッションはいまや、Amazonの主要分野のひとつになった」。
彼らはどのようにしてここに至ったのだろうか? この約1年半にAmazonが導入したファッション関連の主な試みを以下に紹介する。
The Drop(ザ・ドロップ):インフルエンサーがデザインしたストリートウェアを販売するプロジェクトで、立ち上げは2019年5月。Amazonが特別感を打ち出した最初の試みのひとつで、製品はすべて有名デザイナー/インフルエンサーがデザインした限定ものであり、販売期間も発表から30時間のみに限定している。
The Dropはいまのところ、Amazonのファッション関連の試みでは最大の成功例となっている。The Dropのインスタグラムアカウントには、20万人を越えるフォロワーがおり、カイリー&ケンダルのジェンナー姉妹といった有名人とのコラボを通じて、Amazonでしか買えない限定ファッションアイテムを市場に投入している。
StyleSnap(スタイルスナップ):2019年6月に登場したアプリ内ツールで、ユーザーがお気に入りの衣類の写真/スクリーンショットをアップロードすると、Amazonで販売中の商品からお薦めが表示される。Amazonは当初、これを「買物の仕方を一変させる、決定的」ツールと宣言し、強くプッシュしていた。また、インフルエンサーも巧みに巻き込む仕組みも構築し、Amazon Influencer Program(アマゾン・インフルエンサー・プログラム)に参加するクリエイターが、自身が身につけている衣服がスクリーンショットされると、相応のポイントと手数料を受け取れるようにした。
ただ、鳴り物入りで登場したものの、いまやすっかり影を潜めている感もある。米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)が調べたところ、ソーシャルメディアにStyleSnapの記述はほとんどなく、ダルトン氏も「あくまで私感だが、Amazonはこれを引っ込めようとしている気がする。おそらく、期待したほどは利用されていないのだろう」と評する。
一方、Amazonの広報はモダンリテールに対し、「数千万人の顧客やカミラ・コエーリョ氏やナジャ氏、アビー・ハーバート氏といったインフルエンサーが2019年のローンチ以来、StyleSnapを訪問している」と文章で回答した。
#FoundItOnAmazon:2019年6月にはもうひとつ、先行のソーシャルディスカバリツール、Amazon Spark(アマゾン・スパーク)をインスタグラムのページふうに刷新し、#FoundItOnAmazonとして再登場させた。インフルエンサーはこれにAmazonで販売中の衣類を身につけた画像を載せると、手数料を受け取れる。
「Amazonがこうしたソーシャル的要素の取り込みに熱心なのは明らかだ」とダルトン氏は指摘し、その狙いは自社プラットフォームを買物以外の目的でも人々が集まる場にすることにある、と言い添える。Amazonのプラットフォームから#FoundItOnAmazonを訪れた人数の把握は難しいが、このハッシュタグ自体はTikTokで第2の人生を謳歌しており、後者のユーザーが数々のアフィリエイトリンクを介して、Amazonのアパレル商品――および他の商品――への膨大な数のトラフィックを生んでいる。
Personal Shopper by Prime Wardrobe(パーソナルショッパー・バイ・プライムワードローブ):Amazon版Stitch Fix(スティッチ・フィックス)として、2019年夏に登場したPrime(プライム)会員向けのサービスで、月額4.99ドル(約527円)。ユーザー個々の検索履歴に基づいて、スタイリストチームが毎月お薦めをセレクトする。当初はレディースのみだったが、2020年9月からメンズも開始した。
Amazonは同プログラムに関する数字を発表していない。ただ、最近の分析で、マルチメディアファイナンシャルサービス企業モトリー・フール(Motley Fool)は、市場を牽引しているのは依然Stitch Fixであり、Amazonのファッション関連の試行は数があまりに多い――いわく「焦点が定まっていない」――ため、 Prime WardrobeをStick Fixを凌駕する存在にできていないのではないかと指摘した。
Making The Cut(メイキング・ザ・カット):2020年3月に配信を開始した、ショッパブルな[買物ができる]ファッションリアリティショーで、基本的な作りは先行番組『Project Runway(プロジェクト・ランウェイ)』と同じ。ショーに登場した衣類は各エピソード終了後にAmazonで購入できる。
司会のハイディ・クルム氏は「長寿番組になって」欲しいと語っているが、シーズン2はまだ制作されておらず、シーズン1が期待外れに終わった可能性は高い。
共同戦線:2020年夏、Amazon Fashion(アマゾン・ファッション)は人気ファッション/ライフスタイル誌、ヴォーグ(Vogue)からお墨付きを得た。高級ファッション市場が落ち込みを見せるなか、両者は手を組み、独立系デザイナーにAmazon上のデジタル店舗を与え、自身のデザインした商品を販売させている。
Alexa(アレクサ)によるコーディネート:AmazonはAlexaの商品ディスカバリツールへの進化にも投資している。ユーザーが何を着たらいいのか訊ねると、Alexaが各地域の天気や個々の購入履歴に基づいてアドバイスを返す。続いて、そのアドバイスに合う商品がアプリのAmazon Shopping(アマゾン・ショッピング)に表示される。
これについてはしかし、懐疑的になるだけの理由が山ほどある。同様の機能を有する先行商品Echo Look(エコー・ルック)――カメラを備え、ユーザーの体型に合わせて服装選びのアドバイスをする――が、2020年5月に製造を打ち切られているからだ。ただし、Amazonは自信を覗かせている。Alexa部門のVPチャック・ムーア氏はVogue Business(ヴォーグ・ビジネス)に対し、Alexaユーザーの「半数以上」がショッピング機能の利用を定期的に試みており、ファッション好きを取り込む下地はすでにできていると、断言している。とはいえ、音声ショッピングをファッションという、ビジュアルな商品にまで広げるのは、少々無理がある気もする。
Luxury Stores(ラグジュアリーストア):Amazonは高級ファッションブランドを取り込もうと長らく苦闘してきたが、その努力がついに実り、2020年秋、Luxury Storesを立ち上げた 。これは招待客のみが入れる「店舗内の店」で、高級ブランドを呼び込むAmazon初の試みであり、オスカー・デ・ラ・レンタ(Oscar de la Renta)が公式パートナー第1号となった。Luxury Storesは基本的に招待ベースのため、成功の度合いについては一概には言いがたいが、ローンチ時以降も、最近ではエリーサーブ(Elie Saab)をはじめ、Luxury Storesでの販売契約を結ぶパートナーは現れており、その点はAmazonにとって明るい兆しのひとつだ。
Made For You(メイド・フォー・ユー):2020年12月に導入された新サービスで、ユーザーは素材やスタイル選びも含め、体型や好みに合わせてシャツをオーダーできる。価格は一着25ドル(約2640円)。
長続きするか?
すべての経過を丹念にフォローするのは難しいかもしれないが、いずれにせよ、大量のローンチは戦略の一部だとダルトン氏は言い切る。Amazonには公の場で実験できるだけの財力があり、「できるだけ多く試し、どれが機能するのかを見極めたいと考えている」と氏は指摘する。「Amazonは実際、この1年を通じてファッションにかなり注力した」。
これらの多くは、ダルトン氏いわく「ソーシャルメディアキュー」を利用している。たとえばStyleSnapは、ユーザーがインスタグラムやPinterest(ピンタレスト)のページをスクロールし、目に付いた衣類/着こなしをスクリーンショットで撮ることで、その機能を最大限に発揮する。また、FoundItOnAmazonはAmazonのインフルエンサーを数多く擁しており、人気ソーシャルプラットフォームの形態を真似しつつ、ショッピングに力点を置いている。これは、Amazonにおける通常の購買動態からはかけ離れているが、ファッション界の動態には合っており、インフルエンサーにもよく馴染む。
これらの機能/サービスについて「どれが残り、どれが消えるのかの判断は、時期尚早と言えるかもしれない」と、ダルトン氏は評する。ただ、こうしたアプローチが全体として、Amazonはファッションに強い、という新たな見方を消費者に植え付けているのは間違いないだろう、とも言い添える。「彼らはファッション界のリーダーの座を狙っている。Amazon Fashionとして自らをブランディングしている事実からも、それは明らかだ。これら個々の試みがたとえ生き残らなくとも、そこから得た学びを基に、Amazonは進化していくだろう」。
[原文:Everything you need to know about Amazon’s fashion ambitions]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)