6月第4週、米国で毎年恒例のニューフロント(NewFront:デジタルメディア広告枠の販売イベント)が開催された。この期間中、欧州の広告主向けに行ったオンラインセッションで、TikTokは古参SNSとの違いを強く打ち出し、広告パフォーマンスのさらなる透明化と、企業が安心して広告費を投入できる環境作りを約束した。
大手SNSに対抗する成長著しい挑戦者として、TikTokが後発組の強みを最大限に活かしつつ、マーケターたちに新しい選択肢とより大きな裁量権を提案している。
6月第4週、米国で毎年恒例のニューフロント(NewFront:デジタルメディア広告枠の販売イベント)が開催された。このイベントの期間中、ヨーロッパの広告主向けに行ったオンラインセッションで、TikTokは古参SNSとの違いを強く打ち出し、広告パフォーマンスのさらなる透明化と、企業が安心して広告費を投入できる環境作りを約束した。
このイベントを皮切りに、動画共有アプリとして知られるTikTokは、ヨーロッパと米国のブランド向けに、同社プラットフォームの独自性と価値の高さを訴求するためのキャンペーンを開始。この広告主向けのピッチのなかで、同社は、TikTokで成功する秘訣として、「広告ではなく、TikTokを作ろう」と訴える。TikTokの狙いは、オーディエンスの規模を訴求するという従来的な手法からの脱却であり、広告主に対して、若者層へのリーチの必要性とその方法を説くことだ。TikTokのユーザーは、歌って踊るだけの若者ではなく、周りが思うよりずっと洗練された、多様な人々であると同社は言う。
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TikTokは、いったいどんな言葉で自社の広告商品を売り込もうとしているのか。件のピッチについて以下に解説する。
TikTokが広告主に向けて行ったピッチとは?
他社のソーシャルネットワークとの違いを強調するために、TikTokはピッチの要点を5つのキーポイントに絞り込んでいる。
- TikTokで一番人気のコンテンツは、実はユーザーのダンス動画だけではない。Facebookをはじめとする競合SNSが、社会運動に消極的と非難されている昨今、TikTokは社会運動に前向きなプラットフォームとして台頭している。「TikTokは行動派を歓迎するプラットフォームだ」。同社のグローバルビジネスソリューション部門で欧州事業を統括するステュアート・フリント氏は、先週のイベントでそう述べている。たとえば、「Black Lives Matter(黒人の命は大切だ)」のハッシュタグは、再生回数122億回を超え、トレンド入りしている」。
- FacebookやGoogleに対しては、広告効果の計測が自由にできないという不満が多い。「TikTokはできるだけ柔軟に対応したい」と、フリント氏は述べている。そして、カンター(Kantar)、ニールセン(Nielsen)、ミルワードブラウン(Milward Brown)ら、調査会社との提携を進める一方で、複数の計測会社とベータテストを実施している。フリント氏いわく、「自分で自分の宿題を採点するようなマネはしない」。
- 衝撃的なニュースばかりが執拗につづくなか、ポジティブで、元気の出るコンテンツを求めるマーケターは少なくない。TikTokはそのような企業の広告に安全地帯を提供するものというポジショニングを狙っている。TikTokといえば、主に明るい音楽とダンスの動画で知られるが、ヨーロッパ、米国、アジアを通じて、学びのコンテンツの提供にも注力している。さらに、モート(Moat)、インテグラル・アド・サイエンス(Integral Ad Science:IAS)、ダブルベリファイ(Doubleverify)、オープンスレート(Openslate)ら、広告の効果検証を行う企業との連携を進めると同時に、独自のコンテンツモデレーション(投稿監視)技術とブランドセーフティのチームを20市場に設置している。
- TikTokでもっとも人気のあるキャンペーンは、どれもユーザーがその火付け役となっている。このアプリのアルゴリズムは、ユーザーの好みに合わせてコンテンツをキュレーションすることで、そのユーザーが参加しそうなキャンペーンが表示される確率を高めるものだ。したがって、広告主には、このアルゴリズムを最大限に活用できるキャンペーンの設計が求められる。昨年、ドイツテレコムのMVNOであるコングスター(Congstar)が、「ダンスの自撮り動画を投稿して、追加のデータチャージを当てよう」というキャンペーンを展開。TikTokによると、投稿動画数は300万件超、再生回数は10億回超を達成したという。
- TikTokで起きる現象は、TikTok内にとどまらない。営業担当の幹部たちは、このアプリをソーシャルメディアキャンペーンの出発点に位置づけ、ここからほかのプラットフォームに拡散するような展開を考えている。「TikTokのコンテンツは常に、主要なソーシャルチャネルをまたいで共有される」。TikTokの欧州グローバルビジネスソリューション部門で、マーケティング活動を統括するトレヴァー・ジョンソン氏はそう指摘する。「結果的に、TikTokには、より広範な文化にブランドを織り込み、トレンドを創る力が潜在的に備わっている」。
TikTokのピッチについて、ほかにおさえておくべきポイントは?
これまで、マーケターたちにとって、TikTokにはブラックボックス的なところがあった。つい最近まで、同社には、広告主やエージェンシーに近づくための地域市場インフラがなかった。いま、TikTokはその存在感を示しはじめている。今般のピッチの一環として、同社は広告のフォーマットとサービスを「TikTok for Business(ティックトック・フォー・ビジネス)」の名のもとに一元化した。TikTok for Businessは、各種の広告フォーマットやキャンペーンの管理方法についての情報を提供する、オンラインポータルの役目も兼ねている。メディアバイヤーたちは、これらの変化をひとつの転機と見ている。
「ニューフロントでのプレゼンテーションとTikTok for Businessに見る通り、彼らの狙いは、広告商品とクライアントサービスに注力し、TikTokをブランドにとってエンゲージしやすいプラットフォームにすることだ」。メディアエージェンシーのm/SIX(エムシックス)でシニアパートナーを務めるジェイムズ・チャンター氏はそう語る。
TikTokのピッチに多少なりとも修正が必要な側面はあるか?
TikTokのブランドリフト効果に関する調査は限られている。調査を委託する広告主がほとんどいないためだ。
あるメディアプランナーが匿名を条件に説明してくれた。「Facebook、Instagram、Twitterには、業種別に確立されたブランドリフトのベンチマークがある。一方、TikTokが欧州各国で出している調査報告の数字は、いくらなんでも高すぎる。たとえば、あるハッシュタグチャレンジ(Hashtag Challenge)では、ブランド認知が96%増、ブランド連想が43%増、ブランドの好意度が39%増という数字が示された。ニールセンとカンターによるテスト結果とはいえ、ほかのプラットフォームの数字とまったく合わないし、現実的に達成できる数字ではないと思う」。
TikTokは目下、このブランドリフトという指標の改善に取り組んでいる。
「今年の第1四半期に、カンターと24件のキャンペーンを展開した」とフリント氏は打ち明ける。「カンターのグローバルベンチマークに照らして、24件すべてのパフォーマンスを追跡したところ、認知、検討、好感度、購入意向の項目で、基準値をクリアしていた」。
[原文:‘Easier for brands to engage with the platform’: Inside TikTok’s revamped pitch to advertisers]
SEB JOSEPH(翻訳:英じゅんこ、編集:長田 真)