米国のデジタル広告は「モバイルシフト」を終え、「モバイルオンリー」に向かっている。このモバイルで圧倒的に強いGFが収益成長のほとんどを飲み込んでいるという構造だ
IAB(インタラクティブ広告協会)は27日、2016年通期の「インターネット広告収益レポート」(PwC実施)を発表した。米国のデジタル広告業界にとって「いいニュース」は3つある。
(1)デジタル広告収益は前年比22%増の725億ドル(約8兆円)で713億ドル(約7兆9000億円:eMarketer調べ)のテレビ広告を超えた、(2)モバイルと動画の躍進、(3)GoogleとFacebook(以下GF)は収益成長の9割程度飲み込んだ――。
米国のデジタル広告は「モバイルシフト」を終え、「モバイルオンリー」に向かっている。このモバイルで圧倒的に強いGFが収益成長のほとんどを飲み込んでいるという構造だ。
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(1)デジタル広告収益の急伸
デジタル広告収益は2006年から年平均成長率16%で成長している(図1)。特に近年はモバイルの伸びが顕著であり、このIAB以外の多くの予測でも、モバイルが今後の成長を牽引すると指摘されている。

図1 : デジタル広告収益の推移 Via ” 2016 Internet Advertising Revenue Full-Year Report “
(2)モバイルと動画の躍進
モバイル広告は2016年にノンモバイル(ほぼデスクトップ)の収益を超してしまった。2011年以降のデジタル広告の増加分の大半がモバイルによりもたらされた形。
IAB CEO ランダル・ローゼンバーグ氏は「2016年はモバイルがインターネットエコノミーにパワーをもたらした。広告主はマーケティング目標を達成するためにデジタルを活用することに自信を示している。増加するコミットメントはブランドのマーケティングが今日の慌ただしい消費者について行くため、『モバイルファースト』から『モバイルオンリー』にシフトしていることの表われだ」と語っている。
モバイルで表示される広告を「モバイル広告」として抜き出した条件での広告フォーマット別シェア。2015年35%(右)から2016年の51%(左)まで急上昇した。

図2 : デジタル広告収益の内訳 Via ” 2016 Internet Advertising Revenue Full-Year Report “
検索広告でも明確なモバイル移転が起きている。チャートの右下にある小さな図はモバイル内のフォーマット別シェアを示しており、2016年のモバイルにおいて検索は47%を占めている。
レポートによると、デスクトップ検索が前年比13%減の178億ドルだったが、モバイル検索を含んだ検索全体は19%増の350億ドル。Googleがこのパイのほとんどを占めているだろう。Alphabetの決算によると、2016年通期でGoogleセグメントは896億ドルを稼いだが、検索だけでその4割近くを稼いでいる計算。今後はモバイル検索が主役になっていきそうだ。
以下はプレスリリースのハイライト。モバイル動画の伸びが凄まじい。
*デジタル動画広告は2016年に91億ドルに達した。昨年の59億ドルから前年比53%の成長
*モバイルデバイスでは、ビデオ(動画)収益が急激に成長。145%成長で42億ドル、2倍以上の伸び
*ソーシャルメディア広告は2016年163億ドルを生み出した。2015年の109億ドルから50%増
*検索収益は2016年に350億ドルに達した。2015年の295億ドルから19%増
*初集計のデジタルオーディオ収益は11億ドル
*インターネットの広告費の内訳では、小売21.3%、金融サービス13.3%、自動車12.5%が主要カテゴリー。メディアが5.2%。広告費は前年比13%増
(3)GF支配
最後にGFのデュオポリー(複占)はどれくらいなのか、だ。IAB-PwCレポートはこの業界の主要な論点に触れることを避けたが、GFはデジタル広告収益成長の80〜100%を取り込んでいると推測されている。
デジタルコンテンツネクスト CEOのジェイソン・キントはGFが2016年のデジタル広告収益の成長の89%を占めたと主張した。
so @IAB just dropped 2016 #s. Duopoly in full force -> takes 89% of growth. “Everyone Else” loses more share courtesy of Facebook. @dcnorg pic.twitter.com/urglxDrooM
— Jason Kint (@jason_kint) April 26, 2017
BUSINESS INSIDERのアレックス・ヒース記者は、リサーチ企業ピボタルリサーチのブライアン・ウィーザー氏が顧客に示した情報をもとに、2016年のデジタル広告収益の成長の99%をGFが得たとしている。両者で総デジタル広告費の77%を得たとしている。
キント氏とウィーザー氏は昨年冬の段階で、収益成長シェアがGoogle6割、Facebook4割、その他はマイナスだと指摘していたので、少しだけ状況は過激ではなかったと言える。
IAB CMOのデイビッド・ドティ氏はWSJやAdageでデュオポリー議論を押さえようとしているが、キント氏やウィーザー氏は「誰もが知っていること」を会えて語っている面がある。
以下、その他の今週トピック。
▼Twitterが24時間放送のテレビをローンチ予定
Twitterはアプリ内やデスクトップサイト内でライブ動画をストリーミングすることを予定している。Twitter COO、CFOのアンソニー・ノトが米BuzzfeedのAlex Kantrowitzに明らかにした。
▼インスタグラム、MAU7億
インスタグラムはブログで月間アクティブユーザー数(MAU)が7億に達したと明らかにした。直近の4カ月で1億人増えた。
▼リンクトイン
リンクトインは会員数が5億人に達したと発表した。プラットフォーム上で紹介されている求職数は1000万件、登録企業数は900万社。
▼ロケット巨額損失、アジアテックシーンに影響か
ドイツの「スタートアップ工場」ロケットインターネットは2016年通期で7億4100ユーロ(約900億円)の損失を計上した。同社は中国を除くアジア各国にECスタートアップを設立・ファンディングしているが、金融大手バークレイは「数社のIPOが必要になる」と指摘している。
Written by 吉田拓史
Photograph by GettyImage