3Dバーチャル空間で体験・表現し、コミュニケーションを取りあう時代へ。 その大きな節目が来ると予感させる躍進を、世界中から毎日6,550万人以上のユーザーが訪れ、累計ワールド数は3,200万と圧倒的な数を誇る没入型プラッ […]
3Dバーチャル空間で体験・表現し、コミュニケーションを取りあう時代へ。
その大きな節目が来ると予感させる躍進を、世界中から毎日6,550万人以上のユーザーが訪れ、累計ワールド数は3,200万と圧倒的な数を誇る没入型プラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」は見せている。
バーチャルワールドが未来のソーシャル・ハブになったとき、企業やブランドはどのようにメッセージを伝え、コミュニケーションをとっていけばよいのか。そのヒントを探るイベント「DIGIDAY Roblox FORUM presented by dentsu」が、9月20日にRED゜TOKYO TOWERで開催された。
DIGIDAY[日本版]と電通グループの共催となるこのフォーラムでは、プラットフォームを運営するRobloxをはじめ、同社とパートナーシップ契約を結んだ電通グループ、エクスペリエンス開発を支援するGeekOut、そしてRobloxを活用しているTBSテレビ、吉本興業100%子会社のFANYから担当者を迎えて意見が交わされた。
日本市場におけるRobloxの可能性や具体的な参入方法など、主にビジネス活用の視点で語られたフォーラムの内容をレポートする。
◆ ◆ ◆
4つの参入方法に加え、新たに「没入型広告」が誕生
Session01 没入型ソーシャルプラットフォームRobloxとは
ゲームに限らずコンサートやファッションショー、遊園地などのさまざまな空間を友だちとチャットしながら回れるRoblox。この「非常にソーシャルで巨大なUGC(User Generated Contents)プラットフォーム」では空間からアイテムに至るまで、アイデアを形にするのはユーザーであるクリエイターで、Robloxはあくまでプラットフォームと制作ツール(Robloxスタジオ)を提供するだけだ。Roblox Developer Program Lead 辻潤一郎氏はこう語る。
「クリエイターはRobloxスタジオで制作したら、モバイル、コンソール、PCとクロスプラットフォームでリリースすることが可能で、10月10日からはプレイステーションでもRobloxを楽しめる」。
Roblox Developer Program Lead 辻潤一郎氏
簡単に全世界へ向けて発表する仕組みが整っているので、多様性のあるワールドが次々と生み出される。なかでも企業にとっての最大の魅力は、その巨大な規模感だろう。
電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー 森岡秀輔氏は、「プラットフォームはMAU(Monthly Active User)で語られることが多いが、RobloxはDAU(Daily Active User)が6,550万人以上。リーチの数だけでなく、1日の平均滞在時間が2.3時間というエンゲージメントの時間・深さも圧倒的」と驚きの声をあげる。
電通イノベーションイニシアティブ シニア・マネージャー 森岡秀輔氏
では、なぜこれほど多くの人がRobloxで時間を費やすのか。
それは「自分自身を表現するのに適したプラットフォーム」だからだ、と辻氏は考えている。以前のアバターはブロッキーなデザインのものだったが、いまはヒューマノイド、メカ、クリーチャーとバリエーションも豊富になり、昨年は米ニューヨークのトップファッションスクールであるパーソンズと共同で、デジタルファッションコースも開設された。平均で1ユーザーあたり35ものアバターを所有し、5人に1人が毎日アバターを更新するというが、もちろん進化したのはアバターだけでなく、エクスペリエンス自体もどんどんリッチになっている。
このようにより没入感を増したRobloxには、2022年だけで200以上のブランド / IPが参入した。「NIKEやVANS、PUMAといったブランドに加え、FIFA、NHL、NFLなどのスポーツ協会や団体、それに時間を奪いあう競合ともいえるSpotifyやNetflixまでもが入っていることが特徴的」だと森岡氏は指摘する。ガールズグループのTWICEやBLACK PINKも、世界中のファンが集まり交流する場をRoblox上に設けているのだ。
Robloxの参入方法は、「バーチャルUGCアイテム」の制作、「既存のワールドとのタイアップ」、単発イベントに適した「期間限定ミニワールド」、ファンとの繋がりを醸成できる「恒常的なフルワールド」と大きく分けて4つある。これらに加え、最近「没入型広告」が誕生した。この仕組みづくりこそ、電通がパートナーシップを組むことになった由縁である。
没入型広告には、ほかのワールドにゲートを設置して自分たちのワールドにテレポートさせる「ポータル型」とOOHのような「ビルボード型」があり、森岡氏がとくに可能性を感じているのはポータル型だ。今後はビルボード型も、インタラクティブになったりポップアップしたりと仕様がアップグレードされる予定だという。
「昨年もっとも急成長したマーケットが日本で、日本が最重要マーケット」ーーこれは9月8日に米サンフランシスコで開催されたRobloxの開発者会議「RDC 2023」(Roblox Developer Conference)の冒頭で、CEO デイヴィッド・バズッキ(David Baszucki)氏が語った言葉だ。Session01の終わりに、バズッキ氏も日本に注目していることを伝えた辻氏は、「Robloxを日本から盛り上げていきたい」と意気込みを述べた。
“ブランドと遊ぶ” もしくは “ブランドで遊ぶ” という体験を提供する
Keynote ゲームの領域を超えて:日本市場における Roblox の可能性
Robloxを「新しいデジタルメディアではなく、これまでとはまったく違うメディアインターフェイス」と捉える電通イノベーションイニシアティブ エグゼクティブ・ディレクター 青木圭吾氏は、「インプレッション数、コンバージョンレートという考えから離れ、圧倒的な “深さ” をどう獲得するかという視点が大事」だと語る。
電通イノベーションイニシアティブ エグゼクティブ・ディレクター 青木圭吾氏
ではRobloxは従来のメディアやプラットフォームと比べて、何がどう違うのか。
Roblox Head of Internationalのジェン・ファン(Zhen Fang)氏は「あらゆる面がユニーク」としながらも、大きく異なる点として「若年層にリーチできるプラットフォーム」であることを挙げた。ユーザーの50%以上が13歳以上で、急成長している層は17歳~24歳だという。「Z世代にとってデジタルアイデンティティは、現実のアイデンティティと同等かそれ以上に重要で、Z世代ユーザーの70%がアバターの表現は実生活に影響するという声もある」とファン氏が言うように、彼ら彼女たちにとってRoblox上の共有体験は、現実の世界に作用するほど大きなものになっている。続けてファン氏は、「リアルタイムフィードバックも差別化の要素になる」ことにも触れた。
Roblox Head of International ジェン・ファン(Zhen Fang)氏
このように非常にユニークな存在であるRobloxで、企業やブランドはどのようにコミュニケーションをとればよいのか。
その心構えとして、青木氏は「主役はユーザー」という認識を持つことが大切だという。“ブランドと遊ぶ” もしくは “ブランドで遊ぶ” という環境・体験を提供するため、ブランドの世界観を体現したワールドやエクスペリエンスを作り、そこにユーザーを招き入れる。このような「ユーザーと対話するようなアプローチ」を実現するには、クリエイティブの作り方・データ・指標も抜本的に変える必要がある。
「一般的にプラットフォームはユーザーやデータを囲い込む『ウォールドガーデン(Walled Garden)』のイメージがあるが、Robloxには開かれた世界で一緒にエコシステムを作っていこうという姿勢が見える」。
こう語ったDIGIDAY[日本版]編集長の分島がRobloxの未来像をたずねると、ファン氏は「マーケティング戦略の重要な部分として、ソーシャルメディアやインフルエンサー戦略と同じようなイメージになる」と返答。青木氏は「重要なソーシャル・ハブの役割を果たす」という見方に加え、実店舗と繋げる取り組みや、友だちと話しながら購買できる3Dソーシャルコマースにも言及した。
キーワードは「ノンバーバル」
Session02 日本のエンタメはRobloxでどうチャレンジするか
Session02では、Robloxに参入しているTBSテレビから総合編成本部 新規IP開発部 西川直樹氏、吉本興業100%子会社のFANYからは代表取締役社長 梁弘一氏を迎え、最新事例を紹介。Robloxの日本における事業開発パートナーであり、RobloxコンテンツパブリッシャーでもあるGeekOut 代表取締役 田中創一朗氏がモデレーター、電通 事業共創局 XR・メタバース開発部 XRX STUDIOの金林真氏がコメンテイターを務め、4名でパネルディスカッションが行われた。
(写真左から)GeekOut 代表取締役 田中創一朗氏、TBSテレビ 総合編成本部 新規IP開発部 西川直樹氏、FANY代表取締役社長 梁弘一氏、電通 事業共創局 XR・メタバース開発部 XRX STUDIOの金林真氏
TBSテレビで1980年代後半に放送され、人気を博した番組「風雲! たけし城」。(「Takeshi’s Castle」などの名で全世界で放送されてきたコンテンツだが)最近では、4月からAmazon Original番組「風雲!たけし城」がPrime Videoで全世界に向けて配信が開始され、世界的にプロモーションできる場を求めていたことが、Roblox参入のきっかけになった。また近年、TBS内で掲げている成長キーワードのひとつ「EDGE戦略」に合致することも決め手になったようだ。
TBSテレビ 総合編成本部 新規IP開発部 西川直樹氏
「EDGE戦略の最初のEはエクスパンドで、どこで拡張するかというとD(デジタル)、G(グローバル)、E(エクスペリエンス)。すべての要素がRobloxにあり、やらない手はないと思った」。こう振り返る西川氏は、今年9月にRobloxでオフィシャルローンチされた「風雲! たけし城」に期待を寄せる。アクセス数はいまのところ日本が多いものの、海外の若い人たちからのアクセスも徐々に増えている。テレビは誰が見ているか詳細なデータを取れないが、Robloxはユーザーの反応を見ながら次の展開を考えられることが、新鮮で面白さを感じているそうだ。
FANYの場合は自社でタレントのアバターを作成し、メタバース「月面劇場」をアプリベースで始めていたが、肝心の集客に苦労していたという。そんなときにRobloxを知り、自社アプリから急ピッチで移設。5月に「ダイアン落とし」、7月に「無限ジョイマン」と2つのエクスペリエンスをリリースし、9月21~24日の東京ゲームショウ2023でパワーアップした「月面劇場」が発表された。梁氏は今後の展望について、こう語る。
FANY代表取締役社長 梁弘一氏
「ライブ配信だけでなく、芸人がアバターになって参加するファンクラブのオフ会や、アバターがネタをするライブでインタラクティブにクイズゲームなどができたら。ゆくゆくはグローバルに出ていくようなゲームやイベントもやってみたい」
グローバルという言葉から、金林氏に「とにかく(明るい安村)さんは?」と振られると、「だるんだるんの裸とビキニパンツ、モーションをセットにしたら海外で売れるかも」と前向きな梁氏。すでに野田ゲーをヒットさせているゲームクリエイターの野田クリスタルをはじめ、実況系ユーチューバーなどゲーム好きな芸人も多いので、彼らの仕事をたくさん生み出せるのも魅力だという。
TBSは番組コンテンツのゲーム化、FANYはゲームだけでなく、新しいメディアとしても活用しているが、どちらにも共通するのがグローバルな集客をしたいとの思い。前述のRDC 2023で、Robloxが国境のない場であることを実感した金林氏は、「ノンバーバルで勝負できるコンテンツは海外に輸出しやすく、円が安い今は外貨とファンを獲得できるチャンスでもある」と語る。
「風雲! たけし城」に制作・パブリッシングで関わった田中氏も「ノンバーバル」がキーワードと同意しつつ、マレーシアのユーチューバーが(たけし城の)動画をアップした翌日から、マレーシアのアクセスが増えた例を紹介した。RobloxのエクスペリエンスがTikTokやYouTubeのコンテンツになって広がることで、それを見た人がRobloxにやってくる。そんな流れがすでに起きているようだ。
Robloxならショッピングも、エンタメコンテンツに
Session03 日本市場でのアクティベーションの可能性を探る:ブランドとメディアの活用方法とは
電通 事業共創局 XR・メタバース開発部長の三邊立彦氏は、「ここ2年ほどのあいだにメタバースを手段ではなく、目的とする要望が何度も寄せられた」と振り返る。しかし、メタバースを作ったからといって人が集まるわけでなく、思うような結果が得られない企業も少なくなかったようだ。
電通 事業共創局 XR・メタバース開発部長 三邊立彦氏
メタバースをビジネスで活用する際の課題は大きく分けて2点ある、と三邊氏は考えている。ひとつはアクティブユーザーが少ないこと。単発でメタバースを作ってもコンテンツが少なければ飽きられてしまうし、そもそも人を集めるために広告費が必要になる。だが、この課題は圧倒的なDAU、ワールド数、平均利用時間を誇るRobloxならすべて解決する。
そしてもうひとつの課題は、メタバース展開をしたらどのような価値が企業にもたらされるかがきちんと整理されていないことだ。これが明確にならない限り、メタバースを予算化し、効果的に活用することは難しい。
これまではメディアであれば「リーチ」、マーケティングROIでは「結果」に対する投資対効果で価値が測られてきたが、Robloxのような3D没入型メディアをプランに組み込むには、前者はリーチではなく「体験の質」、後者は結果ではなくプロセスの「中間指標」を確立させて、そこに到達できれば結果が上がっていくというロジックが求められる。
既存媒体と3D没入型メディアが大きく異なるのは「違う場所にいる人が、タイムゾーンを超えた同じ空間で、同じ時間を過ごす」という概念にあるが、この革命的な変化を念頭に置き、いかに興味関心を引くかではなく、どれだけ関係性を深める場所を用意できるかが鍵を握る。3D空間で友だちとチャットしながら買い物ができるなら、ショッピングという行為もエンタメのコンテンツになりうるのだ。
しかし残念ながら、3D没入型メディアを導入するための新たなロジックを確立できている企業や広告代理店はまだ少ない。そこで電通では、企業のニーズごとにこれまでの対策とその課題、3D没入型メディアを活用すればどう解決するかという活用価値を整理することで、具体的な中間指標を設け、定量的な投資対効果を示す試みを開始した。と同時に、メタバース空間のなかでアバターの位置や視点はどこに集まっているのかをヒートマップで分析し、認知・興味関心・購入・継続・発信という一連の行動のなかで、Robloxを活用するとどのような効果をもたらすのかを解き明かそうとしている。
「継続的にユーザーとコミュニケーションできる場が、技術革新によって可能になった。このチャンスをどう活かしていくか、どんな投資対効果が見込めるのかを企業・ブランドのみなさんと議論しながら進めていきたい」と三邊氏は抱負を語った。
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「ブランドの完成された世界観をフォローしてもらうのではなく、いかにユーザーの世界観やアイデンティティのなかに、ブランドを包摂してもらうか」。
青木氏が語ったこの言葉を真に理解し、体現できる企業こそがRobloxでユーザーと良好な関係を築けるのではないだろうか。ゲームやイベントにはじまり、実店舗との連携、3Dコマースにソーシャル・ハブと、ビジネスにおいてもあらゆる可能性を秘めたRoblox。このバーチャルワールドから目が離せない。
Sponsored by Dentsu
Written by 山本千尋
Photo by 渡部幸和