中国のソーシャルメディアユーザーにリーチしたい広告主に選択肢はほとんどない。同国ではFacebookなどのプラットフォームを使えないからだ。そのためWeChat(微信)は、中国の消費者を獲得しようと努力するブランドにとって、欠かせない存在となっている。【DIGIDAY+ 会員記事】
中国のソーシャルメディアユーザーにリーチしたいと思っている広告主に、選択肢はほとんどない。同国では、FacebookやSnapchat(スナップチャット)などのプラットフォームは使うことができないからだ。そのため、テンセント(Tencent)が所有するWeChat(微信)は、中国の消費者を獲得しようと努力するブランドにとって、欠かせない存在となっている。
「WeChatに対する広告需要は確実に増加しつつある。中国では2年前からすでに人気だったが、欧米の広告主がWeChatはFacebookのまがいものなどではなく、独自の存在であることを理解するまでにはしばらく時間がかかった」と語るのは、WeChatを専門に扱うマーケティングエージェンシー、ウォークザチャット(WalktheChat)の共同設立者であるトーマス・グラジアーニ氏だ。「テンセントは、WeChatブランドの知名度を高めるために、国外に向けたPRも行ってきた。それもこの需要の高まりを後押ししている」。
Facebookやインスタグラム、Snapchatなどのソーシャルプラットフォームと同じく、企業は有料・無料のプロモーションをWeChat上で展開できる。有料広告(中国版のWeChatアプリのみ。他国版では利用できない)には、「モーメンツ(朋友圏:WeChat版のニュースフィード)」に表示される動画や画像、そして「オフィシャルアカウンツ(Official Accounts:WeChatにおけるFacebookページ)」に表示されるバナーがある。
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「ここのところWeChatはフォーマットを増やし、広告事業をスケールさせようとしている。現状、テンセント全体の売上に対し、広告事業が占める割合はまだ低いからだ」と語るのは、米デジタル調査会社L2(エルツー)で、アジア太平洋地域のリサーチを担当するエディターのリズ・フローラ氏だ。「テンセントは広告を増やそうとしている。WeChatはオープンプラットフォームではなく、1対1のソーシャルプラットフォームであり、有料メディアなしではWeChatでバイラルを起こすことは難しいからだ」。
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WeChatはクローズドなサービスとして知られている。そこでは、Snapchatと同じように、ユーザーのアップデートをモーメンツで閲覧できるのは認証された友達だけで、友達の友達はそのユーザーの投稿を閲覧できない。WeChatがモーメンツへの広告配信を開始したのは2015年で、それ以来、ロレアル(L’Oréal)やディオール(Dior)、BMW、KFCなどのブランドがこの広告フォーマットをテストしてきた。
エージェンシーの幹部陣によると、モーメンツ広告の形式にはキャプションつきの静止画像や動画を用いたもののほか、閲覧者をフルスクリーン広告や製品ページに誘導する「カード・アド(Card Ads)」があるという。グラジアーニ氏によれば、広告主はCPMベースで自動的にモーメンツ広告を購入でき、1000インプレッションあたりの単価は80~150元(約1300〜2500円)が一般的だという。一方Snapchatのプログラマティック広告は、18~50元(約320〜850円)だ。
「モーメンツ広告はWeChatでもっともポピュラーなフォーマットだ。同プラットフォームのエコシステムのなかでは、バナーのそれよりも見え方が自然だからだ」とグラジアーニ氏は語る。「我々のところでも、海外に行く中国人旅行者を狙って、モーメンツ広告を活用したがるクライアントが増えている」。
良し悪しのKOL施策
モーメンツ広告のほかにも、ブランドはWeChatでインフルエンサー(中国では「キー・オピニオン・リーダー(以下、KOL)」と呼ばれている)と協働することもできる。たとえば、インフルエンサーのWeChatアカウントでロングターム(長期)コンテンツのスポンサーになったり、彼らの投稿の下に表示されるバナー広告枠も購入可能だ。通常のスポンサード投稿はインフルエンサーから直接購入することになるが、バナー広告の場合、広告主はテンセントからCPC(クリック単価)またはCPMベースで広告枠を購入することになる。そう語るのは、北京に拠点を置く独立系デジタル企業ハイリンクデジタルソリューション(Hylink Digital Solution)のロサンゼルス支店でマネージングディレクターを務めるハンフリー・ホー氏だ。
「バナー広告枠を購入する方が、KOLと直接協働するよりもずっと安上がりだ。広告主が特定のKOL――たとえば、ライフスタイルや旅行を専門とするKOLなど――をターゲティングし、それに応じて彼らのアカウントにバナーを貼るというテンセントのやり方はスマートだ」と、ホー氏は語る。「テンセントはKOLが抱えるフォロワーのクオリティを測定するアルゴリズムもすでに開発しており、我々もボットを監査している。WeChatは本物のエンゲージメントをクライアントに提供している」。
インフルエンサーのアカウントにターゲットを絞ったバナーに関する問題のひとつは、ターゲティングを行うには彼らWeChatのKOLがテンセント側の条件に同意することが必要になる点だと、グラジアーニ氏はいう。トップクラスのインフルエンサーはそうすることを嫌がっている。バナーよりもスポンサーシップの方が金になるからだ。通常のバナーの場合、CPCはおよそ3元(約53円)だという。「価格とインプレッションのみを気にするブランドには、バナーは最良の選択肢かもしれない」と同氏。「だが、WeChatのバナーのCTR(クリックスルー率)はかなり低い。バナーに反応するWeChatユーザーはほとんどいない」。
eコマース機能にも注目
WeChatは中国国内で人気のマーケティングチャネルである反面、ターゲティングのきめ細かさではFacebookには及ばない。そのため多くの場合、ブランドはWeChatのeコマース機能も併用しているとグラジアーニ氏はいう。カバンや腕時計、革製品など、返品率が低い商品を取り扱っているブランドは、WeChatでストアを開設するのが一般的だと同氏は語る。
ラグジュアリーブランド89社を対象に実施した調査の結果をまとめたL2のレポート「2017 Digital IQ Index」によると、8%がDTC(消費者直販)型eコマースの代替としてWeChatを活用。その大半が単発の期間限定販売を目的としているという。たとえばディオールやジバンシィ(Givenchy)などのブランドは、チャイニーズバレンタインデー(七夕節)のようなイベントには、ハンドバッグの限定販売を実施してきた。
L2のフローラ氏によると、WeChatで販売される商品は大抵すぐに売り切れてしまうため、ブランド各社は購入希望者を実店舗へも誘導しているという。「ファッションリテーラーがWeChatで単発のキャンペーンを打つもうひとつの理由は、WeChatが生み出す売上はまだ少なく、いまはまだ様子見の段階だからだ」と、同氏はいう。
また、グラジアーニ氏によれば、WeChatへのデジタルストアの出店は無料だが、小売業者は中国国内での各商取引に対しては売上の0.6%、国境をまたいだ場合は2%に相当する支払処理手数料をテンセントに支払わなければならないという。
Yuyu Chen (原文 / 訳:ガリレオ)