共和党のテッド・クルーズ上院議員は、2020年にFacebook、Twitter、Google、YouTubeがその「力」を利用して「保守派を黙らせ、過激な左翼的アジェンダを推進している」と批判した。しかし、同議員は2021年に入ってFacebookに数十万ドルを投じ、支持基盤拡大と資金集めに奔走している。
共和党のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)は、2020年6月に非主流のSNS「パーラー(Parler)」に参加した際、Facebook、Twitter、Google、YouTubeがその「力」を利用して「保守派を黙らせ、過激な左翼的アジェンダを推進している」と批判した。
しかし、「ウォーク(社会の不公正に対する意識が高い)」な企業やシリコンバレーのビリオネアが、そのプラットフォームで言論を「独占」していることに不満をあらわにするクルーズ議員も、自身のデジタル広告に関しては別問題のようだ。同議員は2021年に入ってFacebookに数十万ドルを投じ、再選あるいは2024年の次なる大統領選出馬を見据えて、長く地道な資金集めと名簿集めに励むことで支持者層を強化している。
「Facebookは多くの目が集まる場所」
「テッド・クルーズ議員のFacebookへの支出が、昨年よりも大幅に増えていることは間違いない」と、クルーズ議員のデジタル広告を担当し、共和党員向けのデジタル広告サービスを専門に手がけるプロスパー・グループ(The Prosper Group)のバイスプレジデントで創業者のカート・ルイドハート氏は話す。「Facebookは多くの目が集まる場所だ」。
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ルイドハート氏とクルーズ陣営は、Facebookへの支出の詳細については明らかにしなかったが、同陣営の連邦選挙委員会への報告から、通常は政治のオフシーズンにあたる現在も、デジタルメディアおよび広告の活用に引き続き力を入れていることがうかがえる。クルーズ陣営は2021年に入って、プロスパー・グループに68万1000ドル(約7460万円)あまりを支出している。
クルーズ議員は4月、いかなる企業のPAC(政治活動委員会)からも「ウォークな金」を受け取らないと宣言し、コカ・コーラ(Coca-Cola)やボーイング(Boeing)などの企業を「左翼的価値観を広めている」と非難した。しかし皮肉なことに、クルーズ議員が「ウォークな企業」からの寄付を拒否すると自らに課したことが、デジタル広告チームがFacebookへの支出を増やす理由のひとつとなっている。
そのねらいは、「普通の米国人から、一度に25ドル(約2700円)ずつ」寄付してもらうことだとルイドハート氏はいう。「クルーズ議員はアグレッシブな選挙活動家だ。常に自分の基盤を広げようとしている」。
「測定を重視する」クルーズ議員はFacebookの結果に注目
パスマティクス(Pathmatics)のデータによると、上院議員選挙に向けたクルーズ陣営のFacebookへの広告支出は、3月に同プラットフォームが政治的広告主による選挙関連広告の一時停止を解除してから増え始め、5月に入ってさらに急伸した。パスマティクスは、ウェブ広告全般に加え、Facebookやモバイルアプリなどのクローズドな環境で配信された広告を、数十万人のパネルを対象に追跡調査している。
パスマティクスのデータによると、クルーズ議員は5月に推定14万7000ドル(約1610万円)をFacebookに費やしており、4月の9万1000ドル(約1000万円)、3月の6万8000ドル(約745万円)から続伸している。6月の支出は9万1000ドルに落ち着いた。パスマティクスは、クルーズ議員が2021年に入り、Facebookに合計44万9000ドル(約4915万円)を費やしたと推定している。
パスマティクスでは、2021年に入ってから、クルーズ議員の広告をFacebook上でしか見ていない。「他ではテッド・クルーズ議員の広告支出は確認されていない」と、同社のデジタルマーケティング担当ディレクター、サラ・フライシュマン氏は話す。Facebookとパスマティクスのデータによると、クルーズ議員の広告の大半は、主に共和党支持層が多いテキサス州、フロリダ州、カリフォルニア州の人々に向けて提供されているが、オハイオ州などスイングステート(両党の支持数が拮抗している地域)を含むほかの州でも表示されている。
「Facebookは、依然として資金集めや名簿集めに優れたソースであり、我々はそこで多くの成功を収めている」と語るルイドハート氏によると、クルーズ議員自身がFacebook広告のパフォーマンスに注意を払っているという。「彼は非常に測定を重視している」とルイドハート氏は議員を評する。
「倫理的な板挟みの状態にある」
ドナルド・トランプ元米大統領のFacebookアカウントが停止されてからというもの、保守派議員とその支持者の多くは、Facebookやその「ビッグ・テック」の仲間たちをよく思っていない。しかしだからといって、クルーズ議員のような政治家の支持者たちが、このプラットフォームを離れていく様子もない。そのため、保守派の広告費はFacebookに流れ続けている。「我々はいわば、倫理的な板挟みのような状態に置かれている」とルイドハート氏は話す。また、Facebookは「ソーシャルメディアの世界全体に大きな支配力を持つため、ほかに行くところがない」のだという。
なお、2020年6月にクルーズ議員がパーラーへの参加を表明した際にリンクしていた同氏のパーラーアカウントはすでに存在しない。
寄付を呼びかけるデジタル広告への支出は、集まる資金の額に直結することが多いため、広告費をかければかけるほど、多くの寄付が集まる傾向にある。パスマティクスの調査によると2021年にFacebookで最も多く見られたクルーズ議員の広告は、ウォークな企業に敵対する同議員のスタンスが、支持者からの寄付や署名を集めるのに役立っている可能性を示唆している。「ウォークな企業たちとはおさらばだ。もう彼らの金を受け取ることはない」と訴える動画広告は5月に登場し、現在も流れている。「しかし、私が勝つためには、彼らを打ち負かすためには、皆さんのような愛国者に今すぐ寄付をしていただく必要がある」。
そのほか、「ジョー・バイデン米大統領が最高裁を過激な左派判事だらけにするのを阻止するために、クリックしてTedCruz.orgの請願書に署名してください」と訴える広告メッセージも多くの人に視聴されている。
それでもFacebook離れは進む?
クルーズ議員がFacebook広告に全力を注ぐ一方、保守派を顧客とするデジタルコンサルタントのなかにはFacebookから離れようとする向きもある。Facebookが保守派の口を封じようとしていると考えているからだ。
「Facebookにかける費用はどんどん減ってきている」と、リンゼー・グラム上院議員や共和党司法長官協会(共和党員を各州の司法長官にする活動を行なっている団体)などを顧客に持つプッシュ・デジタル(Push Digital)のCEO、ウェズリー・ドネヒュー氏は話す。「この10年間、Facebookは政治キャンペーンのための主要なツールだったが、今回(2022年の中間選挙)は、我々のツールボックスのトップ3にも入らないだろう」とドネヒュー氏は述べている。
KATE KAYE(翻訳:高橋朋子/ガリレオ、編集:分島 翔平)