「マイベストチーム」は、いかに作られたか?:アドビ株式会社 バイスプレジデント 秋田夏実氏

来る11月6日にザ・リッツ・カールトン東京で開催される「DIGIDAY BRAND LEADERS」では、アドビ株式会社 バイスプレジデント 秋田夏実氏のセッションが行われる予定だ。参加希望およびスポンサードのご相談は、こちらのリンクにて。

リモートワーク時代のチーム編成は、まさにニューノーマルな思考が試される。そこにダイバーシティやインクルージョンなども加味されれば、どこから手をつければよいのか皆目検討もつかいない担当者も多いだろう。

アドビ株式会社における日本のマーケティングチームは今年2月中旬、約100名に及ぶメンバーすべてが、どこよりも早くリモート体制に突入した。現在、均等な男女比を維持し、年齢、社歴、バックグラウンド、国籍も多様化しているこのチームは、そんな状況および環境のなかでも、次々と新たなキャンペーンを繰り出し、多くの成果を生んでいる。

「ダイヤモンド・プリンセス号の話題が取り沙汰され始めた段階で、『これはマズいかも』と思い、米国本社にかけあって、まずは直轄の部署の在宅勤務をスタートさせた」と、アドビ株式会社で日本のマーケティングと広報を統括する秋田夏実氏は語る。「本社に相談したのは日曜日で、週明けの月曜からの実施という、まさに見切り発車の状態だった。そんな形でも、比較的問題なく移行できたというのは、以前から多様な働き方を導入していたことが大きな要因だと思う」。

三菱銀行、シティバンク、マスターカード、HSBCなど、国内外の有名金融機関で「傭兵的」にキャリアを重ねてきたと自身の経歴を表現する秋田氏は、はじめてIT業界に踏み入れたアドビ株式会社においてアジアで初の女性バイスプレジデントとなった人物だ。そんな彼女は、現在の自らのチームを「これまでの人生でベストなチーム」と評している。コロナ禍を物ともしない「マイベストチーム」は、いかに作られたのか?

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――約100名にもおよぶ大所帯、なのに、なぜ2月段階からリモートワークを導入できたのですか?

どこのチームも同じだとは思いますが、私のチームには小さなお子さんを持つパパやママもいますし、介護が必要な親御さんを持つメンバーも、自身が何らかの治療を受けているメンバーもいます。それぞれが多様な事情を抱えているので、コロナ禍の初期段階から「みんな不安に感じているだろうな」と考えたのです。そこで、見切り発車の状態でしたが、2月という早い段階から、上司にかけあって、まずは直轄の部署のリモートワークを実施しました。でも、それが比較的スムーズにできたのは、そもそも以前から多様な働き方を実践していたからだと思います。

――コロナ禍以前から実践していた、多様な働き方とは?

私のチームには、ロンドンや香港から日本のマーケティングの仕事をしているメンバーがいます。海外の大学院に通うため、パートナーの転勤に同行するためなど、それぞれの理由で海外生活を行っているのですが、仕事を続けたいという意思がある仲間に対して、アドビにはその希望を尊重し、サポートするカルチャーがあるのです。コロナ禍以前から、こうした多様な働き方を認める素地があったというのは、一般的な日本企業と違うところかもしれませんね。

私は、チームが多様なメンバーで構成されることは非常に重要だと思っています。現在のチームの男女比は1:1ですが、それだけでなく、年齢や国籍、バックグラウンド、専門分野、スキルなども多様です。チームのなかにいろいろな視点や経験を持った仲間がいて、それぞれが独自のクリエイティブなアイデアを出し合い、「それ、すごくいいね!」と言い合えることが大事。それが成果にも繋がるのだと思うのです。

――どのようにそのようなチーム構成を実現したのですか?

アドビには「Creativity for All – すべての人につくる力を」というミッションがあります。そのミッションに共鳴するメンバーが集まったら、結果として多様な構成になっていました。なので、チームには社歴15年、20年といった、会社のことを熟知している仲間もいれば、ほかの部署から合流したメンバー、社外から加わったメンバーもいます。それぞれが、異なる視点や経験を持ったプロフェッショナル集団なわけです。そうした人材が集まっていることが、いまのチームの強みになっていると思います。

――そういう専門家を、どのように社外から探してくるのですか?

採用中のポジションについては、Webサイトにジョブディスクリプション(職務記述書)を掲載していますので、それを見て応募してきてくれる人も多いです。それ以外にリファーラルというケースもあります。外資系企業全般にいえることかもしれませんが、私のように「傭兵的」な生き方をしてきた人も少なくありません。傭兵はさまざまな現場でいろいろな仲間と一緒に戦ってきているので、「以前、あそこの戦場で一緒に戦った、あの人はよかったな」と思うと、たとえ10年前のつながりであっても連絡をとってみようとするわけですよ。「また一緒に働かない?」と。

――面白いですね…でも、それを実際にまとめるのは、大変そうですね。

そこで大事なのは、心理的安全性だと思っています。社歴や役職の上下など関係なく、自由闊達にものが言えるカルチャーを徹底して促進しています。異なるバックグラウンドや経験をもっている人が、チームのなかにいることを、みんなが歓迎する風土を意識的に作っているのです。

たとえば「スイング・ザ・バット・アワード」といって、結果はともかくバットを振った人、つまり新しいアイデアを実践した人を表彰するような制度もあります。それ以外にも、毎月社外の一流のマーケターを講師に招いて、私を含めて全員で勉強会を行ったり、コーヒーブレイクやエクササイズなどもオンラインで行っています。そういう取り組みの結果、いまのチームの非常にオープンな雰囲気と、お互いがお互いを表彰しよう・感謝しようという空気が醸成され、ビジネスのスピード感にもつながっていると思います。だからこそコロナ禍にありながらも、プラスのループを描けているのでしょう。

――そのようなチームで生み出した成果とは、どんなものが?

紹介しきれないくらい、いろいろあります。たとえば、花き業界のデジタル格差を解決すべく、全国の花屋さんを「デジタルレスキュー」するオンラインセミナーを開催したり、台風の被災写真をデジタルの力で復活させる「希望の写真復活プロジェクト」を始めたり。吉本興業さんが「自宅にいながら人々のもとに『笑顔』を届ける」をコンセプトに開設した「#吉本自宅劇場」とコラボレーションしたり、サンリオさんやMLBさんとも取り組みをご一緒させていただいています。今夏は、見送られることの多かった花火大会に代わって、アドビの『Photoshop Camera』というアプリを使って画像の加工を楽しむ「あどびはなびフォトチャレンジ」という企画を開催したりもしましたね。

チームのみんなが素晴らしいアイデアを無数に持っているので、とにかくどんどんやってみることを推奨しています。なにより、仲間のアイデアを一緒になって育てよう、大きく花を咲かせようと、当たり前のようにみんなが考え、実際に行動しているのが素晴らしいと思います。どんどんバットを振ることで、結果はどうあれ、そこからの学びも多いですし、その積み重ねが会社全体に活気をもたらし、引いては日本の社会に貢献することにも繋がりますから。

私は来年50歳となります。いま、ここまでやってきて、ようやく「これまでの人生で一番良いチーム」ができたと、実感しています。

Written by 長田真