ロク が DSP を買収、広告への「大きな野望」が明らかに

デマンドサイド・プラットフォーム(DSP)であるデータシュー(Dataxu)を買収したことで、ロク(Roku)は彼らのコネクテッドTVプラットフォーム上で広告を購入する広告主の数を増やせると期待している。プラットフォームのデータシューを所有することで、自身の広告ビジネスを、自社のプラットフォームを越えた規模にまで成長させることが可能になったわけだが、この点に関するロクの狙いはまだ不明瞭だ。

データシューはコネクテッドTV、アドレッサブルTV、そしてオンラインにおいて横断的に広告をプログラマティック形式で購入することができるツールとなっている。先日ロクは、このデータシューを現金及び株式で1億5000万ドル(約164億円)で買収すると発表した。データシューはまた、広告主とサードパーティからのデータを統合し、個々人が異なるプラットフォーム間でどのように広告に露出されているかを追跡できるデバイスグラフを構築するIDとデータ管理プラットフォームを運営している。

短期的には、データシューのプログラマティックバイイング用のツールが導入されることで、ロクのコネクテッドTVプラットフォームで広告を購入することがより簡単になると期待される。しかし、データシューのプログラマティックバイイングツールとデータプラットフォームを手にしたことで、自社プラットフォームにおける広告運営をコントロールできるようになっただけでなく、ほかのプラットフォームにおける広告運営にも参加できるチャンスを得たことになると、業界関係者たちは注目している。本稿執筆のために役員たちにインタビューを申し込んだが、ロクは断った。

ポジンションを堅持するため

ロクはすでに、コネクテッドTV広告のセラーとして最大手の1社である。ロクは広告収益がいくらであるか開示しないが、2019年の第2四半期において、広告収益を含んだプラットフォーム収益は年比較で86%の増加を見せ、1億6770万ドル(約183億円)という金額を見せた。コネクテッドTV市場において大きな存在感があるロクだが、彼らの競合他社たちはテレビ業界をはるかに越える大きなマーケットに展開している。Googleや、特にAmazonのような企業が広告ビジネスのなかでもコネクテッドTV分野で成長すべく取り組むなか、ロクは市場におけるポジションを堅持する必要がある。これはほかのマーケットにも進出する必要性を意味しているかもしれないわけだ。

もっとも基礎的な側面を見てみると、データシューを買収したことで、セルフサービスのバイイングツールを通してロクの在庫を購入するために、広告主たちの参入障壁が下がったことになるだろう。ロクがすでに抱えている大手広告主を越えて、広告主ベースを中規模の広告主まで拡大する助けとなる可能性は高い。動画広告テック企業イノヴィド(Innovid)のCTOであり共同ファウンダーであるタル・シャロジン氏よると、中規模の広告主にとってコネクテッドTVの広告を購入することは現状ではプロセスが複雜過ぎる、とのことだ。

しかし、ロクの在庫を容易にプログラマティックに購入してもらうためには、データシューのツールには改良が必要だと思われる。

「パワフルなツールになる可能性はあるが、アドビ(Adobe)のチューブモーグル(TubeMogul)ほど、すぐに使えるような状態ではない。チューブモーグルは非常にユーザーフレンドリーなプラットフォームとして売り込んでいる」と、独立系エージェンシーのザ・リチャーズ・グループ(The Richards Group)のプログラマティック責任者であるデーヴィッド・リー氏は言う。

Amazon、アドビとの今後の関係

その一方で、多くの業界専門家たちはロクが自社データを使ってデータシュー上で広告のターゲティングをできるようにすると予測している。これが可能になるのであれば、広告主やエージェンシーたちは多少の使いにくさには目をつむるかもしれない。それが起きれば、ロクはコネクテッドTVにおけるメインのライバルであるAmazonと同じ方向性を進むことになる。

Amazonは自社のファイヤーTV(Fire TV)プラットフォームでの広告購入において、ほかのDSPの利用を許している。これはデータシューも含まれる。データシューが今後も在庫へのアクセスをキープできるかどうかについて、Amazonの広報担当はコメントを控えた。しかし、Amazonの顧客データを使って広告のターゲティングをしたい場合、AmazonによるDSPしか使えない。自社データに関してこれまでも慎重になってきたロクも、同様の手法を取る可能性が高いだろう。

「マーケットプレイスからはデータを解放するように、常にプレッシャーが加えられているが、彼らはそれをしたくない」と、アドテックの役員のひとりは語った。

とはいえ、この発言は完全には、真実ではない。3月には、ロクの自社データを使ったターゲティングで、アドビのプラットフォーム経由でロク上の広告を購入できるようになるパートナー取引を発表している。今後、アドビのプラットフォーム上で、ロクの自社データを使ったプログラマティック・バイイングが継続されるかどうか尋ねたところ、広報担当者はロクはアドビを含めた複数企業と継続して協働していく、と回答した。

データをめぐる新しい戦略

アドテクやエージェンシーのエグゼクティブたちは、自社データの一部をアドビに対しては解放していないと推測していた。このデータはデータシューではアクセスできるようになるだろう、とも考えている。たとえば、ロクは彼らのOSによる、スマートTV視聴トラッキングのためのコンテンツ自動認識テクノロジーを使っている。この認知技術は今年のCESにおいて広告主とエージェンシーに対するロクの売り込みの中心的存在であった。この技術によって、ロクのプラットフォームだけでなくテレビとつながっているどのようなデバイスでも、そこで人々が何を見ているかをトラッキングできる。これにはケーブルのセットトップボックスも含まれる。6月の段階で3050万のアクティブアカウント数をロクは抱えている。それを考慮すると、「自動コンテンツ認識技術に使える、非常にスケーラブルなアクティブユーザー母体をロクは抱えている。このことは忘れられがちだ」。

データシューにロクが提供できるデータと在庫とは別に、データシューがロクに提供できるデータと在庫が存在する。前述のデータシューのデバイスグラフを活用することで、ただロクのプラットフォーム上と外で提供されている広告をトラッキングできるだけでなく、このトラッキングデータに基づいたターゲティングも可能になる。「このエクスペリアン(Experian)タイプのデータをロクに提供することができ、外に向けて広がっていくことができる。まず最初にスマートTV、それから外に向かってプログラマティックで展開、といった具合だ」とデジタル・エージェンシーPMGのエグゼクティブ・バイスプレジデントであるプライス・グロムスキー氏は言う。

このデータを用いることで、複数のプラットフォームにおいてユーザーがどの頻度で広告を目にしているかを管理する機能を広告主に売り込むことができる。これが出来ないことは広告主たちにとって大きな悩みのタネであった。またデータシューを活用してキャンペーンの流れを決めることもできると、動画広告テック企業であるエクストリーム・リーチ(Extreme Reach)の高度広告バイスプレジデントであるジェームズ・シアーズ氏は言う。たとえば、ロクは自社プラットフォームにおける広告を世帯レベルでターゲティングするため、ロクで広告を見たユーザーを対象にプログラマティック形式でオンラインとソーシャルネットワーク上でリターゲットする、ということができるわけだ。

より正確なターゲティングを

誤解がないよう加えると、ほかのDSPではすでに、コネクテッドTV広告とその他一部のプラットフォームにおける広告を連動させる機能を広告主たちに売り込んでいる。しかし、クッキーが存在しないコネクテッドTV環境において、こういったDSPたちはコネクテッドTVでの広告とコンピュータやスマートフォンでの広告を連動させることが困難となる。しかし、ロクはこの両方を所有しているため、彼らが抱える3050万のアクティブアカウントに関する決定的なデータを通じて、より正確にターゲティングを行うことができるだろうと、業界の専門家たちは見ている。

「データシュー環境では80%のマッチで、残りのパートナー環境では30%のマッチ、という具合かもしれない」とグロムスキ氏は言う。

Tim Peterson(原文 / 訳:塚本 紺)