デジタル広告業界は長い間、広告における偽証行為に対して、モグラ叩きを続けてきた。それは2019年も変わらないだろう。ads.txtといった種々の取り組みによってドメイン・スプーフィングや未承認在庫の再販売といった行いを減らす努力が行われてきたが、まだ道のりは長い。現状を理解するためのキーとなる要素をまとめた。
デジタル広告業界は長い間、広告における偽証行為に対して、モグラ叩きを続けてきた。それは2019年も変わらないだろう。昨年10月に日の目を見たモバイルアプリ内における巨大な偽証行為に関するスキャンダルは、偽証行為を行うグループがいかに洗練された技術を持ち、忍耐強いかを業界人たちにあらためて思い知らせた。
ads.txtといった種々の取り組みによってドメイン・スプーフィングや未承認在庫の再販売といった行いを減らす努力が行われてきたが、まだ道のりは長い。業界のエグゼクティブのなかには広告偽証は以前よりも悪化していると考える者も多い。「毎日、いや毎時間の戦いだ」と語ったのは、アイポンウェブ(IponWeb)の戦略開発部門でシニア・バイスプレジデントを務めるシェーン・シェブリン氏だ。
現状を理解するためのキーとなる要素を以下にまとめた。
Advertisement
OTT広告偽証が台頭しつつある
アドテクのベンダーたちは、台頭するOTT動画配信と、そこに付随する機会を飢えた目で狙っている。既存の動画広告スタックは薄く、FacebookとGoogleのデュオポリー(複占)はディスプレイ広告を消化しているほどには、動画広告マーケットを飲み込めてはいないという状況がある。
テレビの世界はデジタルの世界と比べて偽証は問題になってこなかった。しかし、動画コンテンツがOTTで配信され、コネクテッドTVやその他のデバイス経由で届くようになるにつれて、その状況も変わりつつある。動画にお金が集まるなかで、偽証行為を行う業者たちも動画にフォーカスを据えつつあるのだ。アドテク企業のピクサレート(Pixalate)は、OTTデバイスIDを月間で5500万台、計測している。彼らによる最近の報告によると、OTT偽証率はグローバルで19%とのことだ。この数字を基に、ピクサレートは2020年におけるOTT支出のうち、最大で年間100億ドル(約1.1兆円)が偽証行為に失われてしまう可能性があると指摘している。
「数年前は、インバナー動画が問題の集まりとなった。OTTに予算が集まるなか、偽証を検知する仕組みはまだ高度になっていない、そのためOTTは同じ状況を迎えてしまうだろう。もし良過ぎる話に出会ったら、おそらく実際に嘘である可能性が高いという『買い手はご用心』の状況となるだろう」と、ロンドン・メディア・エクスチェンジ(London Media Exchange)のCEOであるダン・ウィルソン氏は言う。
偽証行為を根絶するためには、古い測定慣習を排除
偽証業者たちの技術は非常に速いスピードで向上している。それを考慮すると、広告市場から今後、偽証行為がまったくなくなるとは考えづらい。偽証業者たちに打ち勝とうとするのであれば、いま使われている指標をデジタル業界から完全に排除する必要があると考えるエグゼクティブたちもいる。1年につき偽証広告に失われる金額は約200億ドル(約2.1兆円)。当然、最高マーケティング責任者たちも注意を払っている。しかし、偽証行為を根本から対処するためには、ブランドのマーケターたちはエージェンシーに働きかけて、偽証業者たちが偽証に利用しやすいクリックスルー率といった指標を廃止しなければいけない。
「最高マーケティング責任者たちは、偽証ができるクリック数やコンバージョンを伸ばすことは忘れるよう、チームに指示する必要がある。このような状況に業界を追い込んでしまったメディアバイイングの慣習について、エージェンシーたちと会話を持つ必要もある。それは非常に話しづらい内容になると思えるが、必要性は非常に高い」と、シェブリン氏は言う。
サプライパス最適化は助けとなる
オンラインにおけるオークション入札の効率化を改善するサプライパス最適化(SPO)は、サプライサイドのプラットフォーム(SSP)における怪しい行為を浮き彫りにする効果もある。デジタル広告サプライチェーンにおける透明性を高めるためのマーケット規模の取り組みのおかげもあり、SPOはバイヤー戦略でよく見かけるものとなった。デマンドサイドのプラットフォームもそのテクニックを取り込んだ。SSPのインセンティブ構造は長年、大量の在庫を通過させることを推奨する構造になっているため批判されてきた。その結果、偽証トラフィックが紛れ込むことに対するチェックも甘くなりがちだ。
「セラー側にこれを直す責任が課せられている。この現象をチェックするためのより良いインセンティブ構造が必要だ。タグベースの統合に頼ってしまうことも止める必要がある。タグベースであることで、ほぼ何でもありの状況が生まれてしまっている」と、匿名希望のアドテクエグゼクティブは語った。しかし、SPOの台頭によって、悪い慣習を排除することができるかもしれないと、同じ人物は言う。「SPOの台頭によって、怪しげな行いが明るみに出ることになるだろう。その結果、SSPがサプライの大部分を排除することになる」。
マーケットの分断化は偽証業者の術中にハマってしまう
ヨーロッパのマーケットは高度に分断化されている。これは偽証業者にとっては利点となっている。「特定のコンテンツを国境を越えてパッケージを変えて届けることは、理論上コンテンツを届けるためのベンダーが多いことになる。そのため、コンテンツプロデューサーと広告主のあいだに仲介者が増えることになり、そこに偽証業者たちはターゲットを当ててくる」と、シェブリン氏は言う。
トラストワージー・アカウンタビリティ・グループ(TAG:The Trustworthy Accountability Group)は、ヨーロッパ市場に関する最初のレポートをリリースしたが、それによると、TAGの認証評価を導入した会社にとって状況は、ほかと比べると良いということが分かった。彼らの認証評価とは、TAG準拠専任のスタッフを持つこと、ads.txtを導入することといった条件のチェックリストを満たすことだ。業界平均の偽証率が8.99%であるのに対して、認証評価を受けた会社では0.53%と、なんと94%の減少を見せている。
2018年前半に関して、デスクトップ・ディスプレイの広告偽証は英国のデジタル・インプレッションの10%に影響を与えていると、インテグラルアド・サイエンス(Integral Ad Science)のメディアクオリティレポート(Media Quality Report)は述べている。TAGのレポートで明らかになったことと似ているのは、ブランドが広告偽証から自らを守るためのツールや戦略を活用した場合には、この数字が平均で0.7%まで落ちたことだと、インテグラルアド・サイエンスのヨーロッパ、中東、アフリカのシニア・マーケティングディレクターであるヴィクトリア・チャッペル氏は付け加えた。
「新しい在庫ソースから広告偽証を特定し、排除するための、一貫した測定方法をメディアプラン全体において導入するには、業界全体での大きな努力が必要となるだろう」と、彼女は締めくくった。
Jessica Davies(原文 / 訳:塚本 紺)