サイバーエージェントのグループ企業としてアドテクノロジー事業を行う株式会社AJAは5月18日、プライベートマーケットプレイス(以下、PMP)製品「AJA PMP」の提供を開始した。メディア事業を主管とする企業が手がけたPMP製品の真価について、同社取締役の小越崇広氏、野屋敷健太氏に話を伺った。
加熱するPMP市場に、またひとつ有力かつユニークなプレイヤーが加わった。
サイバーエージェントのグループ企業としてアドテクノロジー事業を行う株式会社AJAは5月18日、プライベートマーケットプレイス(PMP)製品「AJA PMP」の提供を開始。PMPは、エクスクルーシブな広告主とメディアをプログラマティックにつなぐ仕組みで、昨年以降、大手代理店を中心に製品のリリースが相次いだ。なにかと透明性が問題視される業界のなか、新しいソリューションとして期待されている。
「AJA PMPの強みは、Amebaブログなどを運営するメディア企業発であること」と、AJA取締役で同製品の開発部門の責任者を努める小越崇広氏(TOP画像左)は語る。「メディアだからこそ、ユーザーデータを豊富に保有しているし、把握できているノウハウがある」。
また、同じくAJA取締役でビジネス部門の責任者を務める野屋敷健太氏(TOP画像右)は、「メディア側で解決できる課題は多い。リスクがある配信面には広告を出さないようにしたり、見られていないインプレッションを課金対象外にしたりすることが可能だ」と述べる。
AJA設立の背景とAJA PMPを開発・提供する狙いについて、両取締役に伺った。
――まずは、AJAの概要と設立された経緯について教えてください。
小越崇広氏(以下、小越):AJAは、AmebaブログやAbemaTVなどを管轄しているサイバーエージェントのメディア事業部を母体とするメディア発のアドテクノロジー会社です。
サイバーエージェントのメディアでは、社外の広告ツールではチューニングやロジック改良を十分にできないという理由で、3年ほど前から広告周りのシステムを内製化しています。その結果、運用型広告の成長をうまく取り込みながらメディアの収益も上げることに成功しました。そこで培ったノウハウやツールを社外にも提供するために設立されたのがAJAです。
AJAは2016年11月に設立し、現在は社員の半数がエンジニア。弊社の製品となるAJA SSPやAJA Recommend Engineは社内で開発していますが、DMPやアドサーバー関連は、サイバーエージェントのメディア事業部のアドテクノロジー部と協業しながら使っています。

「AJA PMPの強みは、メディア企業発であること」と小越氏
――AJA PMPを提供する目的は?
小越:現在のプログラマティック広告では、広告主にはどこのメディアに配信されるかわからないという不安があります。またメディア側にもどんな広告が配信されるかわからないケースがあるという怖さがあります。このふたつの課題を解決することがAJA PMPを提供する目的です。
広告ツールを内製するようになってから自社で広告配信も管理してきましたが、サイバーエージェントのメディアは掲載基準が厳しいので、比較的安全な広告しか出ませんでした。ところが、半年ほど前からより多くのインベントリー(在庫)をアドネットワークにも開放するようになって、「こんな広告も出てしまうのか」と率直に言って驚きました。
薬機法や景品表示法違反、性的表現など、不適切だと思われる広告が、知らないうちに自分たちが掲載責任を持っている広告枠に出てしまうわけです。メディア側にとっては怖いと感じますし、我々が審査して出稿いただいている広告主も、そのような広告と並ぶのは避けたいはずです。
クリック率(CTR)の高い広告が価値の高いインベントリーを獲得できるのは、指標だけで考えれば正しいかもしれません。しかし、生い立ちがメディアである我々からすると、掲載する広告もコンテンツの一部なので、不適切な広告の掲載は避けたいです。また、インベントリーを預かる立場としても、健全性の向上が必要だと考えたのです。
野屋敷健太氏(以下、野屋敷):ビジネス面から見ると、デジタル広告市場は運用型広告が市場を牽引してきましたが、低単価でどれだけ効率よくターゲットユーザーを送客できるかや、指標としてクリック単価(CPC)とコンバージョン率(CVR)を重視してきたせいで、インプレッションなどに目が行かず、内容のチェックがおろそかになっていた部分があります。そのため、顧客獲得単価(CPA)重視ではない広告主やブランド企業、ナショナルクライアントにとっては出稿しづらい状況を招きました。
また、どこで見られているかわからないとか、実際に見られているかわからないけど課金対象になってしまっているなど、いわゆるアドフラウド(広告詐欺)の問題もあります。さらに、2016年にはフェイクニュース(偽ニュース)やコンテンツを盗用する悪質なメディアが世間的にも話題となり、メディアの信頼性が議論されました。
インターネットのメディアや広告に対する責任は、ますます大きくなっていると感じます。実際、弊社のお客様からも、アドベリフィケーションやアドフラウド対策のためにツールを使いたい、第三者機関の検証ツールを導入したいという声もよく聞くようになりました。
――AJAやサイバーエージェントグループとしての強みは?
小越:メディア発という点が強みだと考えています。ユーザーデータを豊富に持っていますし、コンテンツと広告のCTRがどれぐらい違うか、広告枠の最適な位置はどこかなど、メディアだからこそ把握できているノウハウは多いです。
野屋敷:新しい機能を出す際に、自社メディアで実績が出たものを提供できることも大きな強みです。新しい機能がすべて成功するわけではありませんが、事前にAmebaブログをはじめとした自社のメディアで試したうえで成功したものだけを提供できます。その点は、同じサービスを提供する競合に対するアドバンテージになります。
小越:その際に重要なのは、広告収益を上げるためだけにメディアをやっているわけではないということです。AJAが提供するツールは回遊性や収益性を上げたりするためのものですが、決してユーザーを犠牲にしません。もちろん広告も、まずオーディエンスありきで取り組んでいます。メディアとして成長することと収益を上げることを両立する視点でやっているところも、他社にはない特徴だと思います。
野屋敷:アドベリフィケーションやアドフラウド対策にもつながりますが、メディア側で解決できる課題は多いです。リスクがある配信面には広告を出さないようにしたり、見られていないインプレッションを課金対象外にしたり、そのあたりをAJAならではのソリューションとして積極的に提供していきたいです。
――どのような広告主にAJA PMPを利用していただきたいですか?
野屋敷:これまでサイバーエージェントが運営するメディアの広告主は、化粧品やアパレルのECなど、物販をされている企業が比較的多かったです。今回、AJA PMPができたことで、リテールだけでなく直接メーカーにも、CPA重視ではなくブランディング目的で使っていただきたいですね。
特にAmebaブログのユーザーは20-30代の女性が中心なので、日用品、消費財、化粧品メーカーなど、親和性の高いブランドは多いと考えています。そのためにも、ブランドイメージを損なわない安全な配信面と広告枠を用意することが必要です。

「メディア側で解決できる課題は多い」と野屋敷氏
小越:ブランディング目的の場合、ブランドセーフティの担保が重要ですが、そのうえでCPAではない独自の指標づくりが求められます。サイバーエージェントのメディアのデータを活用することで、独自のマーケティングデータやブランドリフトの一歩手前の指標などを確立していこうとしています。
――AJA PMPではインビュー課金型にしていますが、その狙いは?
小越:ひとつは市場でも言われている、純粋に見られていないインプレッションに課金するのは、果たして妥当なのかという話です。それから、価値のある枠をしっかり評価して販売できるというメディア側のメリットもあります。
たとえば、ヘッダーにある広告とコンテンツが終わった直後にある広告は、後者の方がインビュー率は低いですが、ユーザーが自然に見られる枠で効果も高いことがあります。見られづらい枠だからといって広告価値は低いわけではなく、ユーザーにとって受け入れられやすい分、むしろ価値は高いはず。CPM課金のままだとインビュー率の低い、無駄な枠になりますが、インビュー課金にするとユーザーに受け入れられやすい広告枠としてマネタイズできます。
広告価値の話で言えば、たとえば何かの一覧ページは、ユーザーはコンテンツではなく次に見るものを探す目的で来ているので、ヘッダーにあってもコンバージョン率が高いといったこともあります。コンテンツを読むときの1PV、何かを探しているときの1PV、ログインのための1PV、何かアクションが終わったあとの1PVは、まったく別のものです。メディア側の立場として、そのような枠を適正に値付けしていければと考えています。
野屋敷:関連する話として、ブランドリフトの二歩くらい手前になるかもしれませんが、たとえばバナー広告と動画広告5秒間の視聴は、どちらも同じ1インプレッションですがその価値は違います。ただ、まだ定量的に出せていませんが、その足がかりを作っていきたいです。
――ブランドセーフティの取り組みとして、コンテンツの24時間有人監視や自動スパム判定、広告クリエイティブの審査も予定されているようで。
小越:コンテンツの監視は、サイバーエージェントのメディアでも長年取り組んできたインターネットメディア健全化の取り組みです。今回、AJA PMPを提供するにあたって、パートナーとなるメディアにも提供できるのではないかと考えています。
現状は、公序良俗や法令に反するかどうかを判断していますが、今後はDSPと協力して「この広告枠はこの業種に対してリスクがある」という情報を入札リクエストに載せるような拡張仕様を作ろうとしています。
――AJA PMPの展開目標やAJAとして広告市場で目指すものは?
野屋敷:2018年中に導入メディア数を100社ぐらいまで広げていきたいと考えています。現在、AJA Recommend Engineは、パートナーを中心に約80社にご利用いただいています。パートナーメディアのもつ回遊データとサイバーエージェントのメディアのもつデータを組み合わせたり、メディア内で独自商品を開発できたりするというメリットを訴求していきたいです。
結局、優良なコンテンツを提供するメディアがマネタイズできる仕組みがないと、広告主も配信先が枯渇し、デジタル広告市場自体がスケールしなくなってしまうため、メディアのグロースと健全なマネタイズを支えられるソリューションにしていきたいと思います。
小越:開発側の立場としては、メディア発だからこそ作ることができる、成長と収益の向上を両立させられるプロダクトを開発すること。そして、健全性もそうですが、真面目にコンテンツを作っているメディアがちゃんと儲かる環境を、AJA PMPやAJA Recommend Engineを通じて作っていければと考えています。
▼小越崇広(左)
AJA取締役
2005年にサイバーエージェントに新卒入社し、自社媒体の営業を担当。2008年に株式会社CAテクノロジーにてシニアマネージャー、2011年に株式会社シーエー・アドバンスにて取締役に就任。2014年よりサイバーエージェント メディアディベロップメント事業本部(MDH) アドテクノロジー局 局長を務める。2017年、株式会社AJA取締役に就任。
▼野屋敷健太(右)
AJA取締役
2008年にサイバーエージェントに新卒入社し、北海道支社にてセールスに従事。2011年に株式会社CyberZにて取締役に就任。2013年よりサイバーエージェントインターネット広告事業本部第二本部局長、2014年よりサイバーエージェント メディアディベロップメント事業本部(MDH)ネイティブアド局 局長を務める。2017年、株式会社AJA取締役に就任。
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Written by 仲里淳
Photo by 渡部幸和