「信頼の危機」:米・民主党議員、 Facebook 広告へ新たな一石を投じる

2020年の米大統領選挙が、政治広告におけるFacebookの役割を巡る新たな論争を巻き起こしている。

10月12日、民主党の大統領候補エリザベス・ウォーレン氏がFacebookに新たな有料広告を掲載したと明かした。FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏がドナルド・トランプ大統領の再選を支持しているという偽情報を盛り込んだ広告だ。

ウォーレン氏がこの広告を出したきっかけは、Facebookが下したある判断にある。Facebookは10月に入ってから、トランプ政権が掲載した広告の削除を拒否していたのだ。それは民主党の大統領候補である前副大統領ジョー・バイデン氏がウクライナの検事の解任に一枚かんでいたという未確認の主張を盛り込んだ広告である。バイデン氏は広告の削除を求めたが、Facebookは要求に応じず、この広告はポリシー違反にあたらないと回答した。Facebookは9月、政治家が出した広告の事実確認は行わないと述べていた

簡単に言えば、ウォーレン氏はFacebookの広告を使い、Facebookの広告ポリシーを民衆の裁きにかけようとしている。Facebookそのもののポリシーに疑問を投げ掛ける広告で、広告コンテンツを管理、審査するプラットフォームの責任について議論を促そうとしているのだ。ウォーレン氏はFacebookの方針転換をただ指摘する代わりに、有料広告を利用し、政治広告がFacebookでどのような効果を発揮するか、Facebookの判断はFacebook自身に影響を及ぼすだけでなく、政治広告全般に影響を及ぼし得ることを示そうとしている。ヒュージ(Huge)の最高データ責任者マイケル・ホーン氏は、Facebookは紛らわしい情報や誤った情報を含む政治広告を容認することで、「容認可能な言論の概念を紛らわしいメッセージ、つまり、誤ったメッセージにまで拡大」してしまう恐れがあると指摘する。

同時に、この新たな論争は再び、Facebookをどう定義すべきかという疑問を投げかけている。Facebookはメディア企業なのかどうか、テクノロジー企業なのかどうかという論争は、Facebookの歴史を通じて何度も繰り返されてきた。

Facebookにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

信頼性に関する説明責任

ブランドウォッチ(Brandwatch)によれば、ウォーレン氏は過去30日間にTwitterで400万回近く言及されている。その一部はFacebookへの姿勢に関するものだ。ウォーレン氏に言及したツイートでは、Facebookが21万7000回登場する。そのうち4万8000回は、ウォーレン氏が新しい広告について投稿した12日に積み上がったものだ。

政治広告はブランド広告とは違う役割を持つと広く理解されているが、プラットフォームは投稿されたコンテンツに対する責任を負わないと言われても、消費者はもはや納得しないかもしれない。とりわけ広告に関しては。

メディアキッチン(Media Kitchen)のプレジデント、バリー・ロウェンサル氏は「我々は当然のように、ソーシャルメディアを運営する人々はコンテンツの信頼性に関する説明責任を負うと考えている」と話す。「しかし同時に、それは事実でないと気付いている。(プラットフォームが)説明責任を負っていないため、いま、信頼の危機が存在するのだ」。

消費者行動は変わらない

近年、広告の信頼性は何度も疑問視されている。特に、2016年の米大統領選挙に続くケンブリッジ・ アナリティカ(Cambridge Analytica)のスキャンダルでは、消費者データが選挙でどのように悪用されるかが明らかになった。この出来事をきっかけに、プラットフォームが消費者データをどれくらい持っているかだけでなく、そのデータがどのように広告ターゲティングに利用されるかも浮き彫りになった。消費者はこの数年で、広告ターゲティングという概念への理解を深めたが、必ずしも消費者行動の変化につながっていない。今回の出来事も変化にはつながらないだろうと、メディアバイヤーは口をそろえる。ウォーレン氏とFacebookの騒動は議論を促すが、消費者行動は変わらないというのがメディアバイヤーたちの予想だ。

「(広告ターゲティングとデータに関する)意識は高まったが、意識の高さと行動を起こす動機は別物だ」と、ホーン氏は話す。「明らかな信頼の悪用に対し、消費者はこのように反応するという期待があるかもしれないが、意識の高さがそのような行動につながったことはない。行動パターンや人口統計に基づき、自分がターゲットにされていると知っただけで、『Facebookはもうやめる。このデバイスはもう使わない』と言い出すわけではない」。

自分のデータが利用され、特定の広告を見せられているとわかっても、消費者が行動を変えないのは、おそらくオプトアウトが難しいためだろう。日常会話をデジタルプラットフォーム上で交わす機会が増えたことで、消費者にとっては、プラットフォームを使わないと決断することが難しくなっている。プライバシー設定を変更し、プラットフォームが保持する情報の量を抑制することも可能だが、時間がかかるうえ、まだ標準化されていない。一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)や施行が迫るカリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)の目的は、データプライバシーの標準を定めることだ。しかし、メディアバイヤーたちは、まだ標準が存在しないいま、消費者は広告ターゲティングに自身のデータが使われているのを知りながら、それを受け入れていると分析している。

「もし唯一の選択肢が完全にオプトアウトすることだったら、喜んで実行に移す消費者はほとんどいない」と、ホーン氏は話す。

前の選挙からの議論の続き

メカニズム(Mekanism)のメディアディレクター、キャリー・ディノ氏も、今回の新たな議論は「重要な問題に焦点を当てているが、もし歴史が結末を教えてくれるとしたら、おそらくあまり進展はないだろう」と述べている。「今回の議論をきっかけに、劇的な変化が起きたら驚きだが、エージェンシーはターゲティング関連法、ベストプラクティス、(Facebookの)ターゲティング機能の変更を絶えず注視すべきだ」。

広告ターゲティングに関する消費者の知識は、少なくとも一見したところ、Facebookのようなプラットフォーム上での行動を大きく変化させるまでには至っていない。しかし、2020年の大統領選挙では、消費者はプラットフォームや大統領候補によるデータの利用をこれまでより注意深く見守る可能性がある。とはいえ、たとえ消費者自身が広告ターゲティングを理解していると信じていても、そのニュアンスまでは理解していない恐れがある。

ウェイブメーカー(Wavemaker)の体験責任者ノア・マリン氏は「(ニュアンスを理解するとは)入札可能な広告プラットフォームにおけるアルゴリズムの役割を理解することだ」と説明する。「ウォーレン氏のキャンペーンのポイントは、誤解を招く扇情的な主張がユーザーの反応を増幅させ、アルゴリズムはそれを『良い』と見なすということだ。結果的に、その広告は同じ予算でより多くの人にリーチできる。人々がそのニュアンスを理解しているかどうかはわからないが、人々の暮らしのなかで大きな情報プラットフォームが果たす役割について、人々が話し合いを持つのは良いことだ。そういう意味では、2016年の選挙からはじまった議論の続きに近いと思う」。

とはいえ、ウォーレン氏とFacebookの議論は、2016年の選挙後、Facebookで生じた議論の単なる焼き直しではない。広告の中身と信頼性に焦点が当てられていることを考えると、広告に含まれる情報とそれを管理するプラットフォームの責任についての議論が促される可能性がある。消費者はいま、信頼性という観点から、デジタルプラットフォームの広告をテレビ広告と比較しはじめている。

メカニズムのメディア責任者ロリー・オフラハティー氏は「信条に基づく政治広告に関しては、米連邦通信委員会(FCC)が『広告の真実性(Truth in Advertising)』と総称するルールや規則に近い何かをプラットフォームに義務づけてほしい」と話す。

クライアントに変化はない

今回、コンテンツ管理におけるプラットフォームの役割に疑問が投げ掛けられたわけだが、バイヤーたちによれば、クライアントのFacebook予算に変化はないという。

メディアキッチンのロウェンサル氏は次のように述べている。「いま、Facebookが直面しているのは、不正確なコンテンツを拡散しているという問題だ。そのため、真実だと信じる人はいないだろう。クライアントはさまざまなソーシャルチャンネルを全体として見ている。多くのクライアントはコンバージョン、エンゲージメントといったパフォーマンスの最適化を目指している。私たちのクライアントが信頼できないコンテンツを拡散する心配はない。これはまったく違う問題だ」。

Kristina Monllos(原文 / 訳:ガリレオ)