デジタル広告のサプライチェーンはいまだに、偽物の殺菌剤やもっともらしい新型コロナウイルス対策を宣伝する広告、高額なマスクを販売する怪しいウェブサイトにリンクされている広告でいっぱいだという。さらに新たな問題として、これらを監視するシステムが重要な公衆衛生情報を伝える広告まで妨害してしまう可能性がある。
プログラマティック広告企業の広告クリエイティブを監視している企業によれば、デジタル広告のサプライチェーンはいまだに、偽物の殺菌剤やもっともらしい新型コロナウイルス対策を宣伝する広告、高額なマスクを販売する怪しいウェブサイトにリンクされている広告でいっぱいだという。
新型コロナウイルス感染症関連の疑わしいメッセージを伝える広告の割合は減少しているものの、消え去ったわけではない。そして、それらを監視するシステムは、ワクチンへの懐疑論に対抗するための重要な公衆衛生情報を伝える広告まで妨害してしまう可能性がある。
自動モニタリングと人の目を組み合わせ、プログラマティック広告企業の広告クリエイティブを監視しているメディア・トラスト(Media Trust)によれば、同社が2月に評価した新型コロナウイルス関連広告のうち、「疑わしい」と判定されたものは約31%で、2020年7~11月の62%から半減している。新型コロナウイルスをほぼ100%殺すと主張する清掃サービスや殺菌剤の広告、N95マスクのような人気商品を法外な高値で販売する広告などが疑わしい新型コロナウイルス関連広告に分類されている。
Advertisement
新型コロナウイルス関連の詐欺メッセージの監視はまったく新しい情報分野であり、技術者が問題のある広告を検出する方法を開発し、継続的に更新しなければならない発展途上の科学だ。メディア・トラストはこの1年、米疾病予防管理センターをはじめとする公式の情報源を参考に、「covid-aid tincture(新型コロナウイルス感染症に効くチンキ剤)」、「corona destroyer tea(新型コロナウイルスを破壊するお茶)」、「hydroxychloroquine(ヒドロキシクロロキン)」など、新型コロナウイルス感染症の治療に不適切と思われる偽の治療法や商品を宣伝する広告を監視するためのキーワードリストを作成してきた。
悪いコンテンツと悪い広告の共生関係
ブランドセーフティの観点から広告やコンテンツを監視しているアドベリファイ(Adverif.ai)は、偽の新型コロナウイルス対策を宣伝する広告の特定を続けている。同社CEOで共同創業者のオー・リーバイ氏によれば、画像とテキストを識別する自社技術で、新型コロナウイルス感染症に効果があると謳う偽のミネラル剤や抗体検査の広告を検出しているという。ただし最近、偽の広告インプレッションの量は比較的少なくなっているようだ。アドベリファイは3月、米国に拠点を置く約1000のサイトで、3500の不正と思われる広告インプレッションを検出した。
一方、プログラマティックマーケットプレイスから配信される広告の監視サービスを利用しているパブリッシャーは、必ずしも広告メッセージの内容について心配しているわけではない。リベラル系ニュースメディアであるサロン(Salon)のCRO、ジャスティン・ウォール氏は、むしろサイトのページ読み込み速度を低下させる動画などが入った「重い」広告の管理を気に掛けていると述べている。サロンは好ましくない広告に対する自然な防御策として、広告インベントリーの最低価格を設定するという方法をとっている。「価格競争を導入することで、少なくともかなりの数の悪徳業者をブロックできると我々は考えている」。
それでも、パンデミックの到来後、多くの広告主が新型コロナウイルス関連の正当なコンテンツを敬遠しているため、あまり好ましくない広告が染み込む隙間ができているというのが現状だ。メディア・トラストのマーケットプレイスイノベーション責任者を務めるコリー・シュヌール氏は「詐欺サイトに人を集めるには安価なプログラマティック広告が最適だ。2020年前半は本当に豊富だったが、今も高い水準を維持している」と話す。「(DSPや)バイイングプラットフォームが詐欺に気付いたら、次のドメインやプラットフォームに移り、同じことを繰り返すだけだ」。
最大のリスク:正当な公共広告
パンデミックの時代が終わり、ワクチン配布の段階に入った今、偽のワクチンの広告やサービスが目に付くようになった。シュヌール氏によれば、アドテク業界の顧客は当初、偽のワクチンを勧める広告や社会保障番号のフィッシングを目的としたサービス、ワクチン接種を予約するための支払いを要求するサービスの襲来を恐れていたという。ところが、「偽のワクチン広告の量は、我々や我々の顧客が予想していたより少ない」。なぜなら、偽の空気清浄サービスや高額なマスクを売り込む新型コロナウイルス関連詐欺の方が「単純に簡単で、おそらく利益も大きい」ためだ。
おそらく最も警戒すべきリスクは新型コロナウイルス関連詐欺ではなく、公衆衛生に関わる重要なメッセージを発信したり、ワクチン接種の予約を推奨したりする地方の保健当局の広告が監視システムによって、意図せずにブロックされたり、フラグを立てられたりすることだ。シュヌール氏によれば、メディア・トラストは公共広告のAIによる検出を最小限に抑えるため、カテゴリー化の戦略と分類法を更新し、広告クリエイティブをブロックするのではなく、広告を配信するパートナーが確認できるようラベルを付けるようにしているという。
しかし、パブリッシャーにとっては不十分かもしれない。ウォール氏は広告システムによってフラグを立てられたクリエイティブを承認する方法がほしいと述べている。「誤って善良な人々を罠で捕らえないようにしたい」とウォール氏は語った。
[原文:COVID-19 scam ads decline, but AI systems risk catching legitimate vaccine messages in their traps]
KATE KAYE(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:分島 翔平)