YouTubeと欧州の政策立案者たちの、欧州における著作権法変更にまつわる争いは激しさを一層増している。情報が錯綜するなかで、多くの大胆な主張や予測が飛び出している。インターネットにおけるミーム(meme)の終焉を主張する声、さらには自らの自殺を宣言してロビイングを行うユーザーまで現れている。
YouTubeと欧州の政策立案者たちの、欧州における著作権法変更にまつわる争いは激しさを一層増している。情報が錯綜するなかで、多くの大胆な主張や予測が飛び出している。インターネットにおけるミーム(meme)の終焉を主張する声、さらには自らの自殺を宣言してロビイングを行うユーザーまで現れている。
この夏、欧州議会は欧州著作権指令を更新するための投票を行った。そこに含まれるひとつである条項13は大きな議論を呼んでいる。条項13が施行されると、YouTubeといったコンテンツシェアを行うプラットフォームは、そこにアップロードされる著作権侵害コンテンツに対して、法的な責任を追うことになるからだ。
欧州議会、欧州委員会、欧州連合理事会による非公開の三者交渉が今月行われる。指令を承認・拒否する前の、新しい指令の文面の提出締切は2019年の4月だ。
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音楽業界、YouTubeクリエーターたち、そしてロビイストや表現の自由の立場からの活動家たちがさまざまな意見を表明。そのどれも単純な主張ではなく、微妙なニュアンスを含んだものとなっている。政策立案者たちによる最善の提案とされるものですら、ほとんど非現実的と言えるレベルで、実施が困難なものとなっているのだ。
欧州委員会の狙いはYouTubeなどのプラットフォームとの交渉におけるアーティストや音楽業界の力を強めることにある。アーティストたちが大規模なスケールを獲得するこういったプラットフォーム上での報酬は、Spotify(スポティファイ)などのサービスと比べると非常に小さい。米・レコーディング業界協会(the Recording Industry Association of America)によると、この「価格の差」は、Spotifyの約7分の1にもなるとのことだ。条項13はレコードレーベルやアーティストたちに、コンテンツをプラットフォームに対してライセンス貸出するための交渉力を増やしてくれる。プラットフォーム側が、著作権侵害がないことを確かめる義務を追うことになるからだ。
英国作詞作曲家、著者アカデミーの議長であり自身も作詞作曲家であるクリスピン・ハント氏は、条項13のロビイングをしてきた人物のひとりだ。ほかのアーティストや権利保持者の許可なしにはタイトルは明かせない、としたうえで、彼が共同制作した最近の楽曲について、YouTube上で5000万回の再生回数を得たにも関わらず、158ポンド(約2万1000円)しか受け取っていないと語った。
「現時点ではユーザーが著作権侵害の責任を追っているが、プラットフォームがストリーミングサービスとして振る舞っているのならば、そうあるべきではない」と、彼は言う。
まだ修正や加筆が加えられている最中だが、改訂される条項の重要な要素は次のようになる。
事実でない噂:「私のチャンネルは削除されてしまう」
YouTubeをはじめとするプラットフォームたちは、条項13が目標とするところには同意するものの、施行にあたって意図しない結果が出てしまうと主張する。彼らは著作権侵害を完全に排除することは不可能だというのだ。YouTubeにおける著作権管理の98%はコンテンツIDを通じて行われる。このシステムを通じて、権利者たちに、第三者たちの権利利用に対する報酬をこれまで25億ユーロ(約3120億円)以上支払ってきたという(しかし、この数字は国際レコード・ビデオ製作者連盟[the International Federation of the Phonographic Industry]によって異議が唱えられている)。
同時に、コンテンツすべての権利者を見つけるのは難しいため、注意深く取り組もうとするとYouTubeは、コンテンツを必要以上にブロックする必要が出てくると主張する。それによってプラットフォーム上で生計を立てているクリエーターたちやプラットフォーム自身の将来が脅かされるということだ。YouTubeクリエーターたちのなかには、10代のファンたちに頼んで条項13を変えるためのロビイングを駆り立てている者も多い。
「YouTubeがクリエーターから何人かを大使として選び、彼らをブリュッセルに連れて行き、彼らの口からそれぞれの体験を語ってもらうことで議論に実体験を組み込む、といったアプローチの方が強いだろう」と語るのは、YouTubeインフルエンサー・マーケティング企業のデジタル・ボイス(Digital Voice)ファウンダーであり、マネージングディレクターのジェニファー・クイグリージョーンズ氏だ。条項13にまつわる誤った情報のせいで、YouTubeのあいだでも意見の二極化を呼んでしまったという。YouTubeは、彼らの抱えるクリエーターの意見が参考にされることが重要であるとし、政策立案者たちとともに共同で取り組むことを歓迎すると述べている。
提案されている法案が施行されたとしても、YouTubeクリエイターたちは彼らのコンテンツの権利を依然として所有することになる。条項13の下では、他社のコンテンツが異なるユーザーによって拡散されることがないよう、より優れた方法を開発するか、ライセンスを取得することがプラットフォーム側に求められるのだ。最終的には法律ではなく施行側に責任が求められることになるだろう。9月の段階での改定版の条項によると、誤って取り下げられたコンテンツは回復されることになる。YouTubeは現時点で著作権料徴収団体からライセンスを取得している。業界関係者もこれが完璧な手法ではないと認めている。しかし、YouTube上に権利者以外からコンテンツがアップロードされ続けた場合、責任を負うのはプラットフォームなのだ。
事実でない噂:「条項13によってミーム文化が終わってしまう」
現状の著作権法では、パロディや風刺は例外として認められている。そのため、ミームやマッシュアップといったネットコンテンツはカバーされていることになる。この点は、9月の段階の文面でも再度述べられている。しかし、この根拠のない噂は、依然広がり続けている。
また、条項の対象となるのは、消費者ではなくサービスだ。そのため、マッシュアップを非営利的な目的でアップロードし、シェアすることは影響を受けないだろう。また、もっとも人気がある類のミームは同様にライセンスを受けることになるだろうと、ハンター氏は指摘する。

英国議員の最近のツイート
「YouTube動画を観ている子どもたちから、新しい著作権法がミーム文化を終わらせてしまう、と教えられた」と語るツイートを引用して、「両親相手にロビイングを継続しよう! 効果が出てきている!」と促すツイート(上)。それに対して、「子どもを騙すな。そして、彼らの親を騙すな」と指摘するツイート(下)。
事実でない噂:「条項13は小規模プラットフォームに危害を及ぼすはず」
ミームと同様、この要素も9月の段階の文面で考慮されている。「(中小規模の企業に課される)負担が適切なものであること、そして自動的なコンテンツのブロックは避けること、例外や制限を認めること、基本的な権利といった事柄は考慮される」と述べられているのだ。
もちろん、実際にどのように施行されるかは継続的な議論が重ねられるだろう。「バランスが必要であることは、我々全員が理解している。しかし、この問題にはふたつの側面があることを認めなければいけない」と、ネットピア(Netopia)のエディターであるペル・ストロムバック氏は言う。ネットピアは社会におけるデジタル進化にフォーカスを当てたブリュッセルを拠点としたフォーラムだ。
欧州議会議員であり、ドイツ海賊党(Pirate Party Germany)のメンバーでもあるジュリア・レーダ氏が指摘するところによると、小規模な企業にもダメージが加わる可能性はあるという。Googleはすでに何千万ドルという金額をコンテンツIDに投資してきている。YouTubeはこれを使って著作権を判別している。「自分自身のフィルターを開発する資金的な余裕がないスタートアップや競合他社は、シャットダウンするか、ライセンス料を支払ってコンテンツIDを使う必要が出てくるだろう。ヨーロッパ人がインターネットに何を投稿し、アップロードできるか、Googleがその主な調停者となる可能性がある」と、彼女は述べた。
「(YouTubeに)責任を追わせるだろうが、それがYouTubeにとって危害とはならないだろう」と、ハンター氏は言う。
Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)