プルートTVは、クラシックなTVチャンネルガイドを再現する、無料の広告支援型ストリーミングサービスだ。プルートTVのアプリでは、100以上におよぶチャンネルが毎日24時間、リニア方式で放送を行っている。動画配信各社は、そんなプルートTVにおける売上が徐々に増加していると話す。
本物のプルート(冥王星)とは違って、プルートTV(Pluto TV)は「格下げ」による存在感の喪失を免れている。いやむしろ、ニュースや動画をオーバー・ザ・トップ(OTT)で配信する動画配信各社は、プルートTVにおける売上が徐々に増加していると話す。
プルートTVは、クラシックなTVチャンネルガイドを再現する、無料の広告支援型ストリーミングサービスだ。プルートTVでは、ユーザーがアプリを開き、個々の映画やテレビ番組、ウェブ動画を選び、オンデマンドで視聴する代わりに、100以上におよぶチャンネルが毎日24時間、リニア方式で放送を行っている。同サービスでは、プルートTV独自のブランデッドチャンネルが複数提供されており、ワーナー・ブラザース(Warner Bros.)やライオンズゲート(Lionsgate)をはじめとするコンテンツプロバイダーからの映画やテレビ番組、ウェブ動画がパッケージされている。そのほかにも、チェダー(Cheddar)やオニオン(The Onion)、ドラマフィーバー(DramaFever)、ニュージー(Newsy)、ヤング・タークス・ネットワーク(The Young Turks Network)などの動画配信社からのブランデッドチャンネルもある。
プルートTVに24時間のストリーミングチャンネルを持つパブリッシャー3社は、同プラットフォームからの今年の収入は6桁半ばに達する勢いだといっている。プルートTVは広告売上を動画プログラミングプロバイダーと分け合っている。プルートTVドラマ(Pluto TV Drama)やプルートTVコメディー(Pluto TV Comedy)などのブランデッドチャンネル用の動画をプルートTVに提供している別のパブリッシャーは、今年はプルートTVから5万ドル~10万ドル(約560万円〜1120万円)の収入を得る見込みだといっている。ほかのメディアソースによれば、彼らがプルートTVから得る年収は6~7桁だという(プルートTVから支払いに関するコメントは得られなかった)。
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今回、取材を行ったパブリッシャー各社は、いまやプルートTVは「ブレがなく、信頼できる」広告収入源になっているといっている。ほとんどの場合、動画配信各社はプルートTV専用の動画や番組を作っていない。その代わりに、既存のコンテンツをライセンスしたり、同時配給したりすることにより、手間をかけることなく、副収入を得ている。売上を確実にもたらせるプラットフォームがごく少数しかない環境では、これはプラスだ。とりわけ、これらパブリッシャーがコネクテッドTVの画面に足跡をしっかり刻もうとしている時代においては(中小規模のパブリッシャーには、このブレのなさがいっそう重要になる)。
「何百万という月々の視聴と売り上げの増加に、大いに満足している」と語るのは、チェダーで最高経営責任者(CEO)を務めるジョン・スタインバーグ氏。「発見や売上、高品質の環境という点では、プルートTVはニュース動画にとって、Facebookよりもはるかに優れたパートナーだ」。
広告売上は増加の一途
プルートTVは売上や成長に関するコメントを避けたが、同社にくわしい消息筋によると、総売上は前年比で100%以上増加しているという。また、あるパブリッシャーによれば、プルートTVから支払われる毎月の料金は前年比で25~44%増加しているという。
プルートTVはパブリッシャーに対して、まったくといっていいほどリソースを求めていない。たとえば同社は、キュレーター10人からなるチームを抱えており、彼らが映画やテレビ番組、その他の動画をプルートTVの全チャンネルにプログラムする作業を担当している。どのようにコンテンツをまとめて、さまざまな時間帯に放送される、さまざまなテーマの番組ブロックに落とし込むかを決めているのは、このチームなのだ。
「プルートTVが提供してくれているのは、コネクテッドTVでのリラックスした視聴体験へのアクセスだ。しかも無料だ」と語るのは、ヤング・タークス・ネットワークで最高業務責任者(CBO)を務めるスティーブン・オー氏。「テレビやデジタルメディアの世界ではいま、盛んに収束が行われている。我々にとって有料のスキニーバンドルは依然として重要である一方、こうした広告支援型の無料デジタルサービスで配信を行うことも重要だ」。
場合によっては、ライセンスプログラミングに対して料金を支払うこともあるが、プルートTVがコンテンツプロバイダーと交わす契約の大多数は、広告収益分配方式にもとづいていると、プルートTVのCBOを務めるジェフ・シュルツ氏は話す。「互いのやる気を高めるためのシンプルな方法だ。こうすることで、我々が成長すれば、パートナーも成長するのだ」。
自社のチャンネルを持っている場合、そこで広告を販売できるパブリッシャーもなかにはいる。これに該当するあるパブリッシャーによれば、プルートTVのCMPは10~14ドルで、自社のストリーミングアプリのそれ(16ドル~)よりも安いという。
「プログラマティックの売上を促進してくれる主要プラットフォームパートナーはYouTubeだが、中間階層のパートナーもいる。プルートTVやHulu(フールー)などだ」と、オー氏は語り、売上をもたらしてくれる存在としてのプルートTVの地位を、現状に照らして述べた。
増大する競争の脅威
プルートTVに詳しい消息筋によれば、同社は約1000万人の月間アクティブユーザーを擁しているという。だが、プルートTVは、ロク(Roku)やAmazonファイヤーTV(Amazon Fire TV)をはじめとする、あらゆるトップクラスのコネクテッドTVプラットフォームでも視聴できるものの、これらTVプラットフォームディストリビューター自身のなかに潜む「脅威」に直面している。
ロクは現在、広告支援型チャンネルを無料で提供しており、チェダーやニュージー、ABCニュース(ABC News)などのプログラマーからライセンスを受けた映画やテレビ番組、ライブニュースを放送している。番組のほとんどがオンデマンドで提供されているという点は、若干異なるが、このストリーミングチャンネルがライブニュースにも手を広げているという事実は、ロクがリニア方式の番組を増やしていくことに対してオープンであるということを示唆している。またロクは、ウェブや一部のサムスン(Samsung)製スマートTVなど、ほかのプラットフォームでも同チャンネルを視聴できるようにしつつある。
アメリカ国内におけるコネクテッドTVデバイス市場で、第1位のシェアを誇るロクとの競合をめざすAmazonも、同じような無料の広告支援型ストリーミングチャンネルを現在開発しているという。
これらのチャンネル(運営者はOTTエコシステムにより大きな足跡を残しているテック企業であり、自身もロクおよびAmazonファイヤーTVのボックスとドングル内で配信を行っているため、プルートTVはその両社を必要としている)、プルートTVからオーディエンスを引き離すだけの力を持っている。
この点については、さほど心配していないと、シュルツ氏はいう。「コネクテッドTVデバイスやOTT動画の利用者が増えているということは、無料の広告支援型ストリーミングサービスの競争は今後、間違いなく激しくなるということだ」と同氏は語る。「我々が強いこだわりを持っているのは、自分たちのマーケットポジションとその独自性だ。プルートTVは無料のバーチャルMVPD(マルチチャンネル・ビデオ・プログラミング・ディストリビューター)だ。スリングTV(Sling TV)やYouTube TVのようでもあるが、無料だ。また我々は、自分たちが所有するブランドであるチャンネルをつくり、キュレートしてもいる」。
「今日の状況が、決まった額のドルを求めて全員で争っている、ゼロサムゲームだとは思っていない」と、同氏は続ける。「この分野に流れ込んでくるオーディエンスと売上が増えるにしたがって、この大きなトレンドが、我々のユニークなポジションと相まって、我々が未来に対して抱く自信を深めてくれている」。
新たな契約とチーム
競争が激しさを増すなか、プルートTVの次なる一手は配信の拡大だ。その具体的な手法は、スマートTVセットとの融合だ。プルートTVは今年、サムスンおよびビジオ(Vizio)とのディストリビューションパートナーシップを発表した。両社とも、ユーザーへのサービスの直接提供を行っている。プルートTVはビジオのサービス「ウォッチフリー(WatchFree)」(ユーザーはリモコンから直接、同サービスにアクセスできる)のプログラムを行っている。またプルートTVは、サムスンのアプリ「TV Plus」向けのプログラムも行っている(サムスンはプルートTVに投資も行っている。プルートTVはこれまでに、英メディア関連企業のスカイ[Sky]や米大手芸能プロのユナイテッド・タレント・エージェンシー[United Talent Agency]などの投資家から5100万ドル(約57億円)の資金を調達している)。
このテレビ配信契約について「いまのところ、ウェブであれ、iOSあれ、Androidあれ、ロクであれ、プルートTVは何千というアプリのなかのひとつだ」と語るのは、同社の最高売上責任者(CRO)であるリッチ・カラッチ氏だ。「ビルトイン戦略が重要である理由は、テレビが壁にかけたれ、プラグが差し込まれた瞬間から、プルートTVがテレビ体験に組み込まれていれば、それが大きなプラスの効果になるからだ」。
プルートTVは今年、ターナー・スポーツ(Turner Sports)とブリーチャー・レポート(Bleacher Report)で幹部を務めてきたカラッチ氏をCROとして迎え入れた。カラッチ氏はいまちょうど、ダイレクトセールスを担当するチームを作っているところだ。プルートTVはこれまで、プログラマティック広告の販売だけで利益を上げてきた。カラッチ氏によれば、同社の販売組織の人員は12人で、年内にそのサイズを2倍にする計画もあるという。
カラッチ氏は、クライアントの名前こそ明らかにしなかったが、プルートTVは今夏、同社初のアップフロントにおける契約を結び、2019年の契約もすでに獲得していると述べた。
「プルートTVはアグリゲーションプラットフォームだ。我々はひとつのオーディエンスにサービスを提供しているわけではない。さまざまなオーディエンスにサービスを提供しているのだ」と、カラッチ氏は語る。「これが本物のビジネスチャンスというものだ」。
Sahil Patel (原文 / 訳:ガリレオ)