記事のポイント Netflix広告事業の初年度は困難で、幹部の退社や高価格設定など問題が山積。しかし、Netflixが広告付きプランを拡大し、魅力的な在庫を提供する計画があるとの期待感も。 マーケターは広告付きプランの受 […]
- Netflix広告事業の初年度は困難で、幹部の退社や高価格設定など問題が山積。しかし、Netflixが広告付きプランを拡大し、魅力的な在庫を提供する計画があるとの期待感も。
- マーケターは広告付きプランの受託放送契約や広告リーチの拡大に注目。新しい事業に対して保守的な態度を取りつつも、広告予算の影響を探る場として利用している。
- 現在の価格設定は比較的手頃で、Netflixはすべての広告主に安価な料金を適用している。また、在庫増に注力しており、広告収入の増加も積極的に目指している。
Netflixが広告事業に乗り出した最初の年は、マーケターが目を見張るような驚きの年とはならなかった。広告営業幹部の突然の退社、ぱっとしないアップフロント、目玉の飛び出るような広告価格。やれやれ、である。
しかし、最近、Netflixの営業担当者と話をした複数の広告関係者は、2年目の成長痛を考慮しつつ、「Netflixは広告付きプランの拡大を計画しており、いずれはより魅力的な広告在庫が出てくるだろう」と期待感をにじませる。
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率直な意見を述べるためとして匿名で取材に応じたある幹部クラスのメディアバイヤーはこう話す。「Netflixはいくつかの失敗を犯したことを認めている。しかし、少なくともここ数週間に行った一連の会合に照らせば、彼らが広告付きプランを拡大するための事業計画をいくつか用意していることは明らかだ」。
進む無広告プラン解約の動き
なかでも、マーケターの関心をもっとも引いているのは、リーチ可能なオーディエンスの拡大にフォーカスした計画のようだ。Netflixの幹部たちは、「現在、テレビのメーカーや衛星放送事業者らと広告付きプランの受託放送契約について交渉している」とマーケターたちに話しているという。あるメディアバイヤーは、この契約の狙いについて、ベーシックプランから広告付きプランへの移行が進む米国と英国で、広告のリーチを拡大するための施策だと見ている。
この人物の言葉を借りるなら、「Netflixがこうしたパートナー企業と計画しているのは、ベーシックプランやプレミアムプランではなく、広告付きプランとのバンドル販売を2024年に開始することだ」という。
Netflixは広告付きプランに新規の加入者を集めたいのであって、既存の加入者の多くに広告を歓迎してもらいたいわけではない。そういう思いがあるにしても、それは長期的な戦略だ。さしあたり、Netflixは広告付きプランの新規加入者がどこから来るのかについてはあまり気にしていないようだ。広告なしの高額なプランからの乗り換えであっても歓迎するとしている。結局のところ、広告市場が軟調とはいえ、ユーザー1人あたりの売上は安価な広告付きプランのほうが多いのだ。
Netflixの幹部は、米DIGIDAYが取材したマーケターとの会合で、最近の値上げやパスワード共有を規制する取り組みにより、一部の加入者に高額な無広告プランを解約する動きが見られることを公然と認めている。Netflixとしては、無広告プランのさらなる値上げによって、低価格だが広告が入る視聴体験への移行を促したい考えのようだ。
Netflixは本稿に関するコメントは差し控えたが、マーケターたちから指摘された点について情報の補足を行ったことを強調した。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)の主任アナリストを務めるロス・ベネス氏は、「Netflixの広告事業の2年目を、1年目とは大きく異なる年とするには、相応の数の既存加入者を広告付きプランに移行させる必要があるが、そのような規模の乗り換えが起こるとは考えにくい」と指摘する。「大規模な移行を促すには、広告なしのプランの価格をさらに引き上げるしかないが、そうすると解約のリスクも高くなる」。
Netflixの提案の焦点
これは容易に解決のつく類いの問題ではない。広告主がNetflix広告に対して高額の料金を支払うとすれば、それは相当数のオーディエンスにリーチできる見込みがあるからだ。しかし、広告主の期待する規模感をすぐに達成することは難しく、Netflixの広告担当幹部もこれを公に認めている。だからこそ、彼らは広告付きプランの加入者が右肩上がりで増えていることをしきりにアピールしているのだ。
たとえば、英国ではこの層の加入者増が数字に表れている。最近、Netflixの広告部門と話をしたある広告関係者によると、先月、Netflixの顧客全体に占める広告付きプランの加入者は70万人だった。注目すべき点は、過去3ヶ月の数字を見る限り、このセグメントが毎月10万人のペースで加入者を増やしていることだ。
この傾向は英国に限ったものではない。直近の決算報告を見ると、広告付きプランを利用できる国では、第3四半期の新規加入者の3分の1近く(30%)が広告付きプランを選択している。Netflixが低価格のオプションを求めるユーザー層の開拓に余念がないことは確かなようだ。
ピュブリシスメディア(Publicis Media)のアドレサブルTV事業で商取引案件の責任者を務めていたコンサルタントのマーティン・オボイル氏はこう語る。「Netflixの広告付きプランに成長機会があるとすれば、それは無広告プランの価格を割高に感じる新規の市場だろう。すでに広告なしで視聴している成熟市場の加入者が広告付きプランに格下げするのはハードルが高い。いずれにしても、Netflixがこの戦略を成功させ、意味ある広告事業を展開するのに必要な広告費をマーケターに出させることができるのか否かは、後になってみなければ分からない」。
現状では、多くのマーケターは、マーケティング目標に実質的なインパクトを与えるには不十分でも、まずはNetflix広告の感触を掴める程度に予算を使えばいいと考えているようだ。
Netflixの内部事情
「我々にとってNetflixは、広告予算が事業に与える影響について試行錯誤する場だ」と今回取材したあるマーケターは話す。「いまのところはそれでいい。開始から1年しか経っていない事業なのだから、新しいものに対する保守的な態度はある程度織り込み済みだ」。
より手頃な広告価格を約束されても、彼らの姿勢が揺らぐことはない。夏以来、Netflixは早期導入者に限らず、すべての広告主に比較的安価な料金を適用している。後発組のインプレッション単価(CPM)が約40ポンドのところ、先発組はこれよりやや低い35ポンド前後だ。オーディエンスの規模が比較的限られていることを考えれば、価格は手っ取り早く需要を増やす数少ないテコのひとつだろう。
前出の幹部クラスのメデイアバイヤーは、「Netflixとの会合から得られた最大の情報は、同社の広告部門は広告在庫を早急に増やすために手を尽くしているが、広告収入を稼ぐことにも同じくらい熱心だということだ」と述べている。
Netflixはこれを達成するためには適切な人材が不可欠であると承知している。たとえば、英国のCM部門では、テレビ広告とデジタル広告の販売に精通した広告営業の上級職を12人募集している。ある広告関係者がNetflixの営業担当から聞いたところによると、この人々はNetflixの運用型広告のパートナーであるマイクロソフトアドバタイジング(Microsoft Advertising)と連携して、エージェンシーや広告主への広告販売を担当するという。
Netflixにとってマイクロソフトアドバタイジングは莫大な広告費をもたらす金脈とは言えないが、広く普及している手堅いパートナーであることは間違いない」。
「Netflix、広告界へゆく」
Netflixとマイクロソフトは共同でプレゼンテーションも行っており、その資料でも両者の連携が特に強調されている。もしNetflixが近いうちにマイクロソフトを見限るつもりなら、こうしたことは起こらない。とはいえ、単なる便宜的な関係との感も否めない。
マイクロソフトのアドテク事業の内部事情に詳しい複数の情報筋によると、同社がザンダー(Xandr)に託した当初の意図はいまも継続しており、以前はアップネクサス(AppNexus)として知られていた同部門の主要な開発者人材は、プロモートIQ(PromoteIQ)などのほかのアドテク事業に再配置されているという。
さまざま考え合わせると、Netflixの広告界への進出は、完成されたレギュラー番組というよりも、新番組のパイロット版といった感がある。別の言い方をするなら、当初は非常に有望なコンセプトに思われたが、いまだにあちこちで調整や手直しが行われているといった具合だ。
デジタルマーケティングエージェンシーのマーカシー(Markacy)でマネジングパートナーを務めるタッカー・マシスン氏は、「Netflixは市場の感触をいまだに掴みかねている」と話す。「とはいえ、広告付きプランに関するデータはすでに揃っており、十分な情報に基づいて事業戦略を決定することは可能だ。Netflix全体にとっての利益を積み上げる形で、広告付きプランと無広告プランの両方の強化を図ることになるだろう」。
[原文:Marketers sound off on year one of Netflix’s plan for ad dollars]
Seb Joseph and Ronan Shields(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)