「会社のために尽くす人間だ」: Apple のサブスクを率いる、P・スターン氏の人となり

ピーター・スターン氏がAppleに入社した当時、同社のエンタメ企業やパブリッシャーとの関係は冷え切っていた。

テレビ局やエンタメ企業はAppleの厳しい交渉戦略に憤慨していた。FacebookやGoogleがオーディエンスとパブリッシャーを効果的に橋渡ししてきたのを知るパブリッシャーは、プラットフォームとして大規模展開をはじめて若干数カ月のApple Newsがどのような影響を及ぼすのかと身構えていた。

現在、どちらの業界も慎重な姿勢を崩していない。だが、昨年、Appleのサービス部門の事業運営を率いてきたスターン氏は、米カリフォルニア州クパチーノで3月25日に同社が発表した新たなデジタルコンテンツサービスのパッケージに、両方の業界の企業を参入させることに成功している。

Apple News+は雑誌パブリッシャー業界にとって新しくて簡単な収益源として注目を集め、パブリッシャー300社以上が立ち上げ時に参加している。またDTC商品に自社の将来をかける動画コンテンツ企業らがApple TVに参加している。Apple TVは、スティーブ・ジョブズ・シアターの講演でスターン氏自ら発表した商品だ。

スターン氏が担当するポートフォリオには、業界の観測筋が長年に渡って期待をかけていたサブスクリプション動画サービスであるApple TV+や、さまざまな雑誌のコンテンツをまとめて低価格で提供するサブスクリプションサービスのApple News+、そしてオプラ・ウィンフリー氏がAppleの資産を使って「世界最大のブッククラブ」を作ると約束したことで大きく注目されたレガシーサービスのApple Booksなどが含まれている。

タイムワーナー出身

スターン氏はハーバード大、イェール・ロー・スクールの卒業後、マッキンゼーに勤めた。メディア企業の役員らはともに仕事をしたスターン氏について「切れ者で印象的」と口をそろえる。チェダー(Cheddar)の創設者でありCEOのジョン・スタインバーグ氏はスターン氏について「パートナー企業の担当者で一番好きな人物のひとりだ。賢く、率直で、行動が早く、約束を違えない」と評する。

だが、スターン氏について、コンテンツ企業の直面する困難の解決よりも、Appleのカスタマーのニーズに合うかのみに興味を示す人物という評価もある。イェール・ロー・スクールを卒業しコンサルタントとしてキャリアを積んだスターン氏は、タイムワーナー(Time Warner)で戦略イニシアチブ部門のバイスプレジデントからタイムワーナー・ケーブル(Time Warner Cable)の商品管理のトップにまで登り詰めた。そして2016年にはAppleのクラウドサービス部門に転職している。

過去にスターン氏と働いた経験のある、とある人物は同氏について「会社のために尽くす人間で、パブリッシャーの窮状に心を痛めるようなタイプではない」と評する。

エンタメ企業との橋渡し

Appleのソフトウェア・サービス部門のシニアバイスプレジデントを務めるエディー・キュー氏は、昨夏スターン氏にAppleのサービス部門の事業運営を任せている。iPhoneの売上不振をうけて重要性が一段と増した部門だ。Appleの2019年第1四半期のサービス収益は同社史上最高の109億ドル(約1.2兆円)を記録しており、これは前年度比で19%の伸びだ。これはAppleの全収益の13%で、同社はいまだにハードウェアの売上が牽引する企業となっている。

スターン氏がAppleに入社した2016年に、Appleの観測筋は同社がテレビサービスに乗り出すにあたってスターン氏が、Appleとエンタメ企業のあいだの文化的差異を橋渡しするのではないかと予想していた。

ウォールストリート・ジャーナルは、Appleの交渉姿勢とテレビ業界の経済を無視したような取り組みがディズニーをはじめとする大手エンタメ企業やFOXなどの放送局のあいだに生んだ軋轢を報道していた。ストリーミングTV商品にこれら企業を参加させようとする取り組みは立ち消えになった。

スーツとネクタイの姿

タイムワーナー・ケーブルで商品、オーディエンス、戦略の最高責任者を務めた経歴を持つスターン氏は、彼の上司とは反対にテレビ業界に馴染みのある存在だった。上述の関係者は、スターン氏について、「極めてビジネスライクで、常に要点を把握しているプロフェッショナルな人間だ。スーツとネクタイの姿以外は見たことがない。周囲から好かれ、尊敬されていた」と、評する。

だが関係者らは、スターン氏がテレビ企業に馴染み深いこと、そしてデジタルパブリッシャー業界に疎いことは同氏の交渉戦術に大して影響はなかったと指摘する。

プレミアムニュースのサブスクリプションサービスを提供するインクル(Inkl)のCEO、ゴータム・ミシュラ氏は、スターン氏とのApple News+についての話し合いを振り返り、「(スターン氏は)特定の要求をしてくる。ジャーナリズムに関する長期的な問題を解決しようとはしない。スターン氏が関心を寄せているのはAppleの確固たる方向性と、Appleのカスタマーの利益を最大化することだ」と分析する。「そして、その視点が持続可能性やカニバリゼーションといった概念よりも上位に来ていた」。

新サービスの行く末

スターン氏がこれまで得た栄光に満足する様子はない。3月25日に発表されたサービスのいくつかは完全な新規サービスだ。またApple TV+など、提供開始まで数カ月のサービスも存在する。観測筋は、スターン氏がいずれこれらのサービスをAmazonプライム(Prime)のように一本化するのではないかと予想している。

そのようなことになれば、各商品の参加企業の怒りを買うことは避けられない。複数のパブリッシャーが、Apple News+をほかのサービスと一本化してしまえば事業として維持できなくなると指摘している。そして、サブスクリプション収益がなければパブリッシャーは広告収益で代替せざるをえなくなるが、それでも代替として不十分だと多数のパブリッシャーが声をあげている

Max Willens(原文 / 訳:SI Japan)