若年層向けアプリを中心としたモバイル動画広告プラットフォームを展開するFIVE。プラットフォームのリーチが2700万人(メディア間重複を除く)に達したのを機に、インフルエンサーらを起用した動画からアプリ内でECやサンプリングに直結する「Interface by FIVE」をローンチした。
若年層向けアプリを中心としたモバイル動画広告プラットフォームを展開するFIVE。プラットフォームのリーチが2700万人(メディア間重複を除く)に達したのを機に、インフルエンサーらを起用した動画からアプリ内でECやサンプリングに直結する「Interface by FIVE」をローンチした。
若年層には店舗を訪れずして、ネット上の情報収集からそのままECでコンバージョンしたり、ネット上の商品情報よりもインフルエンサーの推薦を重視したりという行動がみてとれる。その合間合間に挟まり、ときに決定的な影響を与えるのが動画であり、ECが動画化しているという。世界的に動画化する若者の消費行動をモバイルアプリのなかだけでとらえることを目指している、とFIVE代表取締役社長の菅野圭介氏は語った。
商品の認知から購買までをスマホでスピーディに完結させる傾向も出ている若年層へのアプローチとして、広告事業者がコマースやインフルエンサーマーケティングの領域に足を踏み入れた例として注目される。
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「『ECサイトの動画化』という動きがある。映像なので人の要素が大事で、特にインフルエンサーが活躍している。中国で言うとネットインフルエンサー『網紅(ワンホン)』。広告事業から次の展開を考えていた」と菅野氏は語った。
「通常はモノを売りたい、サンプリングしたいとなると、外部のランディングページに行くことになる。だがページ遷移すると体験が分断されてしまう。Interfaceではサンプリング、コマースの体験をひとつのモバイルアプリのなかで完結できる(下動画)」。
広告事業者がリアル在庫リスク負う
「コミュニティごとに動画を作り分ける。ジャパネットたかたで社長が視聴者全員話しかけているのがテレビのイメージ。こちらはコミュニティが明確であり、マーチャンダイジング(消費者のニーズに沿った商品計画)も明確。場合によってはロジ(物流)まわりも私たちが面倒を見る。ビジネスモデルは検証を続けるが広告による収益とは異なることになる」。
「アプリ内にショッピングタブができるのが理想的。ユーザーの色がはっきりしている場所、たとえば、ファッションのコーディネートを見に来ているアプリにショッピングにつながる機能がつくのが最適だろう」。
さまざまなコミュニティに対し、動画を自動販売機のように置いておいて、ユーザーが好きに買い物をできるようにしたいという。そのためには広告事業者が本来抱えることのない現物商品の在庫リスクも念頭に入れている。
パブリッシャーとの収益分配は、サンプリングの場合は広告主が払った金額を分配。決済・物流が入る場合、コストを抜いた粗利をパブリッシャーと割るという。「広告事業の利益率よりは低くなりそうだ。ロジ回り、カスタマーサポート、はコストがかかってくる」。
モバイルで消費行動を完結させるスマホネイティブ
ではなぜ「Interface」に取り組むのか。菅野氏はこれまでの商品の認知から購買行動に段階的に至るAIDMA(アイドマ)とは異なる消費行動を思い描いているようだ。世界中のスマホネイティブの若年層に顕在化された行動だ。
「顧客は必ずしも店舗に来て購買する必要がない。アプリ内で『Interface』の動画を観ているとき、店舗ではじめて商品を手に取った状態に近い。顧客やユーザーがブランドに対して最初の印象を形作る瞬間である『モーメントオブトゥルース(MOT)』といえるだろう」。
「(瞬間的に需要を喚起するには)ライブストリーミングが相性がいいはず。瞬間的な需要喚起ができる。そのときに同時視聴数がとても大事。我々は各アプリに広告を配信するという分散的なアプローチなので難しいが」。
ライブ動画の好例は中国(DIGIDAY記事)。インフルエンサー起用のライブ動画が人々のエンゲージメントを得ており、コマースや投げ銭によるマネタイズが成功している。
合理的なネット広告、感情的な動画広告
「インターネット広告は極めて合理的に行われてきた。『枠から人』ということでフィットネス媒体を閲覧する30代男性に自動車広告が当たっていて、媒体の特性を無視しているかもしれない。ネット広告は映像というフォーマットを得てよりエモーション(感情)に働きかけることが可能になった」。
「確かに消費者による商品の価格やスペックの比較検討は本当に進んでいる。価格は確かに消費者にとって一番強い要素かもしれないが、価格が同じだったときには心に訴える方を選ぶのではないだろうか」。
インフルエンサーのネットワークとも提携。インフルエンサーの影響力は拡大の一途であり、米国では広告主が直接インフルエンサーと協働するようになっている(DIGIDAY記事)。
決済はどれだけシームレスになるか
決済事業者とも提携を進める。決済はネットコマースの急所。動画を観終わった後に毎回クレカ情報を打つことが要求されれば、面倒くさがりのミレニアル世代(1980−2000年生まれ)などの若年層は嫌気がする可能性がある。
「FIVEからはユーザーの広告IDが分かっているので、ユーザーがどのメディアに来てもクレカ情報をプリセットにして出すことができる。しかし、プライバシーの課題がある。ユーザーが『自分のことが知られている』と感じるかもしれない。法規面もいま丁度整備を進められている最中だ。しかし、エクスペリエンスの面ではプリセットの方がいいだろう。決済分野は競争は激しいところであり、ユーザーベースを得るサービスを載せていけばいい」。
菅野氏はGoogleのモバイルアプリ広告部門Admob出身者だ。「メディアはPV勝負ならSEO(検索最適化)をして、一見さんを増やし、アドテクをぶん回してCPM(インプレッション単価)を上げていくという戦い方をとるだろう。しかし、『それがユーザー体験を上げているのか』という部分がある。メディアは広告収益とコンテンツ製作コストとの兼ね合いになる。メディアが指名で買われるということもあるだろうし、プログラマティックに買われることもあるだろう」。
自動化は新しいバリュー提供を求める
「プログラマラティック、オープンRTBは売り手と買い手が平準化されるもの。プログラマティック導入の最初の意義は、オペレーションコストを削減できること。それが進んでいくと価格下降のプレッシャーが効いてくる。次のフェイズがデータ。データの希少性で『ウチでしかできないオーディエンスセグメントがありますよ』と勝負することになる。ただこれだとデータの原資を握るプラットフォームが強いという議論になってしまう」。
「コンサルティングファームとの境界が曖昧になる部分とも関連すると思うが、マーケティングプロセス全体にまたがるサービス提供やシステムインテグレーションなど、マーケティングにおけるバリューの出る部分が変わってきている、と思う。クリエイティブを内製しており、Interfaceもまた異なるバリューの提示ができるだろう」。
Written by 吉田拓史
Photograph by GettyImage