コンテンツとコマースの融合が試されている。人々が購買の前に商品の情報を集める手段が多様化している。インフルエンサーによるインスタグラムライクな画像やライブ動画で納得いく情報を確保し、直接コンバージョンする行動がモバイルネイティブの消費の一部として定着している。
コンテンツとコマースの融合が試されている。人々が購買の前に商品の情報を集める手段が多様化している。インフルエンサーによるインスタグラムライクな画像やライブ動画で納得いく情報を確保し、直接コンバージョンする行動がモバイルネイティブの消費の一部として定着している。「コンテンツ+コマース」というユーザーの新しい購買行動にフィットするサービスをつくるため、eコマースがメディア化し、メディアがeコマースを組み込もうと模索している。
マーケットプレイス事業者の「コンテンツ+コマース」
Amazonは18日(米時間)にeコマース型ソーシャルメディア「Amazon Spark」をリリースした。気に入ったプロダクトを見つけた場合、ユーザーはほかのサイトに移ることなくその場で購入ができる仕様で「コンテンツ+コマース」を試みる。
似た試みはこれまで多くあった。しかし、ソーシャルメディアはこれまでコマース機能の取り付けに苦戦してきた。Facebook、インスタグラム、Twitterは「Buy(購入)」ボタンを廃止。Pinterestも同様に苦戦している。
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eコマース型ソーシャルメディア「Amazon Spark」
Amazonアカウントを使用しすぐさま購入できることが差別化要因になるか。ソーシャルでは購買をしない傾向があるユーザーがAmazonというショッピングモードに入る地点では「ソーシャル+コマース」が機能する可能性があるのか。
モバイル、動画の可能性
この直通する「コンテンツ+コマース」はスマートフォン時代特有の購買行動と言えるかもしれない。特にトレンドのモバイル動画はその中心にある。動画の消費は拡大の一途であり「Cisco Visual Networking Index: Forecast and Methodology, 2016–2021」によると、動画(Video)トラフィックがコンシューマートラフィック全体に占める比率は2016年の73%から2021年には82%まで上昇する。平均成長率(CAGR)は31%。
「Cisco Visual Networking Index: Global Mobile Data Traffic Forecast Update, 2016–2021 White Paper」によると、2015年にはモバイルデータ通信量の60%が動画に利用されており、2021年にはモバイルデータ通信量の78%が動画に利用される見通し。現在Facebook、Twitterなどの従来動画を扱わなかったプレイヤーも動画に参入しており、人々の情報消費は若年層を中心にモバイル動画へと傾いている(参照「モバイル動画が世界を覆い尽くす」)。
メルカリは7月上旬にライブ配信によるコマース「メルカリチャンネル」を開始した。ライブストリーミングで売り手(主にインフルエンサー)が不特定多数に商品を紹介できる仕組みだ。動画をみて即座に購入するというスピーディなカスタマージャーニーを狙う。
「コンテンツ+コマース」にはメディアサイドの挑戦も多い。C Channelは7月14日、ファッションブランド「Samantha Thavasa」を展開するサマンサタバサジャパンと連携し、動画コマースを本格展開することを発表した。同社は2016年12月からEC事業を開始。アプリ内動画やソーシャルからの送客で商品を販売してきた。C Channelはインフルエンサー事務所も設立しており、アジア各国に「動画+インフルエンサー+コマース」を展開する(森川亮氏インタビュー)。
動画とコマースの融合には以下の背景が想定できる。
- 購買行動の大きな変化が生まれようとしている。意思決定の起点や、情報消費の起点にモバイルが埋め込まれ、人々が常時のコネクティビティ(ネット接続)を得るようになった。しかも動画というリッチコンテンツの存在感が高まっている
- 瞬間的に需要を喚起するライブストリーミングがコマースと相性がいい。多数の同時視聴数を叩き出せるインフルエンサーはとても重要な存在だ。
- メディアがeコマースを行う際には物流、決済、購買などヘビーな外部のパーツを取り込まなくてはならないので、既存事業者との協業が必要。商品開発まで手をのばす場合はマーチャンダイジング、分析など手がける領域がさらに拡大する。
※参照「動画化するeコマース:モバイル広告FIVEの挑戦」、「BuzzFeed12名の特命チームで『eコマース』参入」
近年はeコマース事業者の事業領域は多様化し、メディアとしての側面も強くなっている。Amazonはメディアとしての側面ももちプライムビデオで大量の動画コンテンツを提供している。「Amazonの『メディア価値』に気づいたエージェンシーたち」から参照する。
「Amazonは小売店であることは間違いない。だが、たとえ『購入する』ボタンがなくても、Amazonは世界最大規模の製品情報/レビューサイトであり、商品やショッピングに特化した検索エンジンとしても非常に大きな存在だ。ソーシャルのチャンネルとしても、ほとんどのブランドにとってAmazonはFacebookと同じぐらい重要だ。Amazonは物流業者であり、テクノロジースタックであり、製品やブランドのリサーチや立ち上げに最適な、そして、音声通話でホームショッピングを可能にする技術を持ったプラットフォームだ」
アリババの運営するタオバオ(淘宝網)には販売額上位ショップには動画を駆使するインフルエンサーが食い込んでいる。女性アパレル商品が淘宝網の販売額の大半を占めており、特に中国のインフルエンサーである「網紅(
淘宝直播で商品をアピールする網紅 Via ebrun.com
「いまの単純な製造小売業(SPA)から情報製造小売業に変わらないといけない」。柳井正会長兼社長氏は『週間ダイヤモンド』に対し語っている。SPAはZARAやH&Mなど近年アパレルで急成長した企業が採用しており、ファッション小売企業をなぎ倒すほど競争力がある業態だ。そんな同社でさえも、情報(メディア)・製造・小売・物流の事業領域の明確だった垣根が溶け合うようになっているなか、インターネット内で顧客と会話をするデジタルマーケティングの能力を大きく強めないといけないようだ。そしていま小売店にとって重要なのはコンテンツ、特に動画とコマースを融合する力だ。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Screenshot Via 淘宝直播