近年モバイル、タブレットにクレカリーダーを取り付け、インターネットを通じた安価かつ安全性の確保された決済を中小企業や個人事業主に提供するサービスが登場している。コイニーはこのサービスの日本発スタートアップ。フィンテックの草分け的存在のPayPal(ペイパル)出身の佐俣奈緒子氏が2012年に創業した。
コイニーは決済プラットフォームをクラウド上に構築している。同社の井尾慎之介取締役(FinTech事業開発担当)は「我々は最初からアマゾンウェブサービス(AWS)上に構築した。AWSは米国のカード決済のデータ安全基準であるPCIDSSを取得しており、安全性を担保できる」と説明した。生活者の行動がデジタル上に拡大しているが、「購買はリアル店舗でしている。対面決済に関するデータをもつことは我々の強み」と話している。
小売業者にとってクレジットカード払いへの対応は欠かせない。ただし、壁がある。「まず、クレカ決済端末の導入には十数万円の費用が必要になる場合もある。端末を所有するのではなく、リースの形態をとる」とクレカ決済サービス「Coiney(コイニー)」の井尾慎之介取締役(FinTech事業開発担当)は語った。クレカ端末の申し込みから導入までは、約1~2カ月かかり、手数料にも不透明な部分が残る。
中小規模の小売業者としては、このコストは重荷だ。
端末の導入を決めたとしても、少額の会計に関してクレカ払いを断ることがあるとも言われ、そもそも導入を見送るケースもある。「カード非対応がわかり来店しない」「カード非対応で困り、二度と行かなくなった」という機会損失が生じているとも言われる。
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近年モバイル、タブレットにクレカリーダー(写真㊦)を取り付け、インターネットを通じた安価かつ安全性の確保された決済を中小企業や個人事業主に提供するサービスが登場している。コイニーはこのサービスの日本発スタートアップだ。フィンテックの草分け的存在のPayPal(ペイパル)出身の佐俣奈緒子氏が2012年に創業した。
同じく元ペイパルの井尾氏はバズワード「フィンテック」についてこう語る。「フィンテックはテクノロジー企業が得意とするユーザーエクスペリエンス(UX)、ユーザーインターフェイス(UI)を金融商品にもたらしている。既存のサービスをわかりやすく、スマートフォンで実現できるようにするのがテクノロジー企業の役目だ」。
金融がクラウドに入っていくプロセス
決済に加え、中小企業向けのPOSレジ、会計サービスがクラウド化している。中小企業の経営のバックサイドがクラウドに入っていくことを意味する。これはマーケティングサイドにも以下のような影響をもたらすと考えられる。
- 中小の小売業者もデータドリブンな経営をはじめるため、消費財メーカーはアプローチを変更する必要が出てくる
- クラウド化により購買をめぐる豊富なデータが蓄積される
小売店が、大手同様の分析、需要予測、原材料仕入れの最適化を行う可能性がある。これは消費財メーカーにとって中小の小売業者に対する営業・流通面が変化をもたらす。
コイニーは決済プラットフォームをクラウド上に構築している。井尾氏は「我々は最初からアマゾンウェブサービス(AWS)上に構築した。AWSは米国のカード決済のデータ安全基準であるPCIDSSを取得しており、安全性を担保できる」と説明した。生活者の行動がデジタル上に拡大しているが、「購買はリアル店舗でしている。対面決済に関するデータをもつことは我々の強み」と話している。
アクワイアラとしての側面
コイニーは2013年にクレカ会社、クレディセゾンと提携。現金による決済の割合が大きい中小企業を、クレカ決済に取り込むため協業している。コイニーはクレカ業界のなかで加盟店契約専門業者(アクワイアラ)に類する面がある。
クレカ会社の事業活動は、カード発行者(イシュア)とアクワイアラに分けられる。米国の場合、クレカを発行するのは銀行などの金融機関がメインで、加盟店の開拓業務はアクワイアラに委託する。日本の場合はクレカ会社がイシュアとアクワイアラを兼ねているケースが大勢だ。
コアの価値はクラウド上の決済システム
井尾氏は「海外から進出の打診をしばしば受ける。アジア太平洋、アフリカ、中東、南米、とさまざまだ。その度にその国が進出に適合するか検討している。mPOS (mobile point of sale:モバイルがレジやポスを兼ねる) が普及する素地がある国であればなおさら」と語った。

「海外から協業の打診をよく受ける」と話す井尾取締役(東京都渋谷区のコイニー)
アジア太平洋は相性が良いという。インドネシアを検討した際には、島が無数に連なる国のため、ネットによる決済手段構築のコストが安くなる点が魅力的だったが、現地のクレカ市場を調査すると、クレカ端末が無償提供されており、手数料は0%が普通ということがわかり、進出を見送ったという。
アフリカもポテンシャルだ。電話回線がなく(既存のカード決済端末は電話回線を経由するものが多い)、モバイルの普及がスマートフォン中心となりそうな点が、コイニーに向いているそうだ。
「決済をキャッシュレス化することがコイニーの使命。コアの価値はクラウド上に構築された決済システムだ。クレカは入り口に過ぎない、ブロックチェーンを利用した通貨による決済が一般的になるならもちろん検討する。メジャーとなる決済手段を採用するだろう」。
現金VSその他
コイニーのような決済代行サービスは競争が激しい分野。昨年米国でIPO(新規株式上場)したSquare(スクエア)も日本に上陸している。クレカ発行者である楽天は自社銀行を絡めたサービスを提供し、Alipay(支付宝)的な展開を視野に入れているかもしれない。手数料も既存ルートより低い3.24%(コイニー)、他者も3.25%でほぼ横並びだ。
この決済のデジタル化において日本市場はとても多様だ。LINEが自身のプラットフォームとつながるモバイル決済「LINE Pay」を提供し、Apple Payは日本に進出すると取りざたされている。さらに通信キャリアによるお財布携帯、「Suica」のような非接触型のプリペイドカードもある。
ただし、これらのサービスが総じてぶつかる壁がある。日本特有の「現金主義」だ。カード事業に関する情報誌を発行するカード・ウェーブと、電子決済研究所によると、現金決済は2015年に80.6%と支配的で、クレカ決済は16.4%に留まっている(下図)。
2020年のグラフはカード・ウェーブ社などによる予測。
ここにデジタルな決済が今後どう影響を与えるのか。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock