いまや時価総額40億ドル(約4300億円)ともいわれるClubhouseは最近、初となるクリエイター向けのマネタイズ機能を発表した。しかし一方では、サードパーティによるマネタイズサービスもすでに登場している。
音声SNSアプリ、Clubhouse(クラブハウス)を収益化しようと、さまざまな取り組みが動き出している。いまや時価総額40億ドル(約4300億円)ともいわれるClubhouseは最近、初となるクリエイター向けのマネタイズ機能を発表した。しかし一方では、サードパーティによるマネタイズサービスもすでに登場している。
たとえば、サードパーティ製アプリのClubmarket(クラブマーケット)は、Clubhouseのクリエイターとブランドをマッチングして、コンテンツの収益化を実現するマーケットプレイスだ。Clubhouseの人気が爆発した2020年末以来、クリエイターたちはマネタイズのチャンスが拡がるとして、この種の収益化サービスを歓迎している。
Clubmarketを運営する、イスラエルのテルアビブに本社を置くテック系企業の創業者、トマー・ディーン氏は「多くの人が参加し、素晴らしいコンテンツが次々に生まれている」と話す。「しかし、クリエイターの多くはコンテンツ制作を無料で行っている。我々は、しっかり報酬が支払われる仕組み構築すべく、Clubmarketを立ち上げた」。
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現状25のクラブが参加
2021年3月にローンチしたClubmarketには、すでに25のクラブが参加している(日本時間4月23日時点)。これらのクラブは、基本的に1~2人のクリエイターが管理しており、それぞれのフォロワー数はおよそ2000人から100万人と幅広い。たとえば『Womxn In Business』というクラブを管理し、31万人のフォロワーを有するクリエイター、クリスティーナ・ホルダー氏もClubmarketに参加している。
なお、これら25のクラブは、スポンサーを求めてClubmarketに応募を行なった500以上のクラブのなかから選ばれた。また、商品を宣伝するため、スポンサー側として応募したブランドは100社以上にのぼるという(ブランド名は現時点では非公開)。
ただ、Clubmarketは直接Clubhouseと提携しているわけではないため、クリエイターとブランドの契約はメールなどを通じて「手作業で」行われる。「4月中に、プロフィールや支払い、予約といった一般的な機能を搭載したプラットフォームをローンチしたい」と、ディーン氏は不足点の補完について述べる。
一方でClubhouseにも、最近導入されたばかりのマネタイズソリューションが存在する。これは、ユーザーが好きなインフルエンサーにいわゆる「投げ銭」を行う仕組みだが、これについてディーン氏は「ブランドは露出できないため、スポンサーがついたとしてもキャンペーンの促進につながらない」と問題点を指摘している。
スポンサードプログラムの中身
現在、Clubmarketが提供するスポンサードプログラムは、ブランデッドルーム、シャウトアウト、共同ホストやインタビューの3種類となっている。なお、クリエイターには平均リスナー数といったデータが、リアルタイムで提供されるという。
Clubmarketは、「システムの構築に必要かつ、健全な範囲のマージン」を各取引から徴収するが、その大半はクリエイターに支払われるという。ディーン氏によると、クリエイターはClubmarketに無料で参加が可能だが、スポンサーとの取引額の20%は徴収対象となる。たとえばあるブランドが1万ドル(約100万円)をClubmarketに支払ったとすると、同社の取り分が20%で、残りの8000ドル(約80万円)がクリエイターに支払われるというわけだ。
「クリエイターを支援しながら収益を挙げることができる、そんなビジネスモデルだ」とディーン氏は強調する。「そして、これはClubhouseにとっても、Clubmarketにとってもメリットがある」。
Clubhouseのマネタイズソリューション
Clubhouseの収益化については、ブロガーやインフルエンサーらがこれまでたびたび話題にしてきた。たとえばブランドとの提携、スポンサードルームや、有料のカンファレンスなど、さまざまなアイデアが提案されている。
Clubhouseは、2021年4月はじめにアプリ上でクリエイターへの投げ銭機能を実装した。支払額は全額、クリエイターに支払われる仕組みだ。また、Clubhouseのブログによると、ユーザーの送金を処理する決済プラットフォーム、ストライプ(Stripe)には「少額の手数料」が支払われるという。また、今後も多数の機能を実装していく予定とのことだ。
マーケティングエージェンシーのVMLY&Rで、体験デザイン担当エグゼクティブ・クリエイティブディレクターを務めるウォルター・ギア氏は、Clubhouseのインフルエンサーとして、1万8000人のフォロワーを有している。ギア氏の場合、今回の機能による収益は、まだ1.35ドル(約145円)程度しかないという。「サードパーティの参入はもちろんのこと、Clubhouseの収益化自体が時期尚早」というのが彼の考えだ。
ストライプとClubhouseの提携には大きな成功を収める素養はあるが、「収益化の手段としては一番簡単な部類であり、オーディエンスの期待に応えるために、慌てて導入されたように見える」とギア氏は指摘する。「Clubhouse側も、どう収益化するのがベストか決めあぐねているのではないか」。
Clubhouseは最近、インスタグラムのファディア・ケイダー氏をメディアパートナーシップ、およびクリエイター担当者として迎えた。また同社には、Netflixのマヤ・ワトソン氏もグローバルマーケティング責任者に就任している。右肩上がりのClubhouseによる「Android版のローンチも間近だろう」とギア氏は予想する。
なお、本記事の執筆にあたってClubhouseに質問をぶつけたものの、回答は得られなかった。
「Clubhouse側も、収益化やパートナー契約のための十分な準備が整っていないようだ」とギア氏。「Clubhouseはいまだベータ版で、今後の方向性についてもわからない部分が多い」。ほかのSNSとは異なり、Clubhouseはコンバージョン率などのデータも提供していない。また、オーディエンスの参加状況を追跡する機能もない。
「昨今のClubhouseを巡る動きは、Clubhouse発信のものよりも、ユーザー発の部分が大きい」とギア氏は話す。「Clubhouseを使って有名になりたい、お金を稼ぎたいというユーザー側の意図が露見している」。
現在の勢いを維持できるのか
パンデミックによるロックダウン下で人気が出たClubhouse。その人気ぶりは、TwitterやFacebookが類似の音声プラットフォームをローンチしようとしていることからも明らかだ。「しかし、ワクチン接種が進むなか、以前のような日常が戻って来たとき、Clubhouseがいまの勢いを維持できるのかは疑問だ」とギア氏は問いかける。
「私は一度クラブハウスを開いたら、1時間くらいはルームに参加することが多い。また外出できるようになったら、そこまで時間を取れるかわからない。確実なことはいえないが、ブランドはこのトレンドがどこに向かうかを見極めたうえで、投資を行うべきだろう」とギア氏は警鐘を鳴らす。
一方、前出のディーン氏は「音声チャットというジャンル自体の拡大を願っている。Clubmarketが、たとえClubhouse抜きでも十分に持続可能な商品に成長することを期待している」と話す。「音声SNSの競争を制するのがどのサービスかには興味はない。我々は、どのサービスでも利用できるソリューションを提供していくだけだ」。
[原文:Clubhouse starts monetization, but startups and influencers may beat them to it]
KIMEKO MCCOY(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU