THE GDPR IMPACT

米国のプライバシー規制、2021年になにが起きるか?:要点まとめ

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米国において、包括的なプライバシー保護法を連邦レベルで整備するという公約は、少なくとも10年前から、さながら馬の鼻先にぶら下げられたニンジンのごとく、消費者団体やプライバシー擁護団体の目の前に掲げられてきた。

だが、州レベルでの法整備が進む反面、個人データの秘匿性や安全性を担保する全米規模のプライバシー保護法はいまだ不在だ。米国は欧州連合(EU)をはじめ、世界のいくつかの国々に大きく遅れを取っている。

年内あるいは今議会で連邦プライバシー法が成立する可能性について、専門家の意見は割れている。米DIGIDAYが本記事のために取材したプライバシー事案に詳しい弁護士らは、各州の動きが連邦レベルの動向に影響を及ぼすだろうと見ているが、そこにはふたつのポイントがあるという。

  1. 各州は、プライバシー保護法の整備を全速力で推進している。厳しいプライバシー法の成立が相次ぐなか、経済界からは、より簡素で緩やかな連邦法を求める圧力が強まっている。
  2. 連邦レベルの法整備そのものに対しては超党派の支持があるにもかかわらず、右派と左派のアプローチには依然大きな隔たりがある。最大の論点は、連邦法の制定により、先行する州法または地方法が無効となるのか、および違反者に対して訴訟を起こす権利が個人に付与されるか否かの2点である。

州レベルで活発な動き

プライバシー法案は複数の州議会で通過しつつある。州法が増えるほど、全米規模の法律を成立させよという連邦政府に対する圧力も強まるだろう。Facebookを含むプラットフォーマーやインタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)のような業界団体は、以前から連邦レベルでプライバシー法を整備すべきと提唱してきた。経済界は、多くの法律や条令が乱立するよりもひとつの法律に従うほうが望ましく、それが現在施行されている州法よりも緩やかな法律であればなお都合がいいと考えている。

「(連邦プライバシー法の制定に対する)政治的圧力を生む力があるとすれば、それは各州で議論が進む、極めて厳格なプライバシー法案だ」。プライバシー事案を専門に扱う法律事務所チャペル・アンド・アソシエーツ(Chapell and Associates)のアラン・チャペル代表はそう指摘する。

各州のプライバシー法案に大きな影響を与えているのは、EU全域に及ぶ一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)と、さきごろ強化されたカリフォルニア州のプライバシー法だ。米国でもっとも厳しいプライバシー法のひとつに数えられるメイン州の2019年プライバシー法も、強い影響力を持っている。

企業に厳しいニューヨークの法案

ニューヨークの法案は、個人データの収集、使用、販売に際してユーザー本人のオプトインを義務づける厳しい内容で、経済界からは「酷評」されている。

しかも同法案では、ユーザーが生成したコンテンツやオンライン識別子なども、保護対象の個人データと見なされる。言うまでもなく、ニューヨークは多くのアドテク企業やメディア企業の本拠地という点で、目の離せない重要な州だ。

ワシントン州はゆるめの内容

Amazonとマイクロソフト(Microsoft)が本社を置くワシントン州の動向も気になるところだ。両社とも、ワシントン州プライバシー法(The Washington Privacy Act)を支持しているが、米自由人権協会(ACLU)のワシントン州支部をはじめ、消費者団体やプライバシー擁護団体は、プライバシー保護や法的措置に関する個人の権利が十分に保証されるものではないとして、この法案に反対している。ACLUワシントン支部でテクノロジーおよび人権関連の施策を統括するジェニファー・リー氏は、米DIGIDAYの取材に対して、「州レベルの甘い法律をもとに、連邦レベルの法案が作られるのは望ましくない」と述べている。

ワシントン州の法案では、違反企業に対して訴訟を起こす権利を持つのは州の司法長官のみで、個人が違反企業を訴えることはできない。マイクロソフトを含め、企業からは歓迎されている。

「ワシントン州でこのプライバシー法案が可決されれば、似たような内容の州法を可決させたい後続の州にも影響を与えるだろう」。プライバシー擁護団体のひとつ、フューチャー・オブ・プライバシー・フォーラム(Future of Privacy Forum)の首席顧問を務めるステイシー・グレイ氏は、2020年12月に行われたメディア向けの説明会でそう語った。

プライバシー法をめぐる連邦政府内の動き

2020年の半ばには、少なくとも11のプライバシー法案が議会に出回り、顔認証データや生体認証データなど、プライバシーに関連する個別の問題も議論されていた。

だが、プライバシー法の専門家たち、たとえばパブリッシャーの業界団体であるデジタル・コンテンツ・ネクスト(Digital Content Next)で、政府担当シニアバイスプレジデントを務めるクリス・ペディゴ氏らは、議論の末にどのような法案がまとまるにせよ(もちろん、まとまればの話だが)、上院商務委員会の幹部たちが提出したふたつの法案が、そのたたき台となるだろうと見ている。プライバシー法の観測筋によると、これらの先行する法案に関する議論が本格的に始まれば、将来的な法律の形も見えてくるだろうという。

ワシントン州選出のマリア・キャントウェル民主党上院議員が提出した消費者オンラインプライバシー権利法(COPRA)は、ほかの連邦法と比べて、デジタル広告の日常的な慣行をより厳しく制限することを求めている。とくに同法は、機微な個人情報を処理したり共有したりする際には、消費者から「積極的かつ明示的な同意」を取得するものと規定しており、この機微な情報には「第三者が運営する複数のウェブサイトまたはオンラインサービスをまたいで、経時的に行われる消費者の活動を明らかにするような情報」を含むとしている。つまり、行動ターゲティングに不可欠なデータも含まれるということだ。

「結果的に、個人データの共有に関するかぎり、この法案はオプトイン法案となっている」。製品の評価やレビューを提供するコンシューマ・レポート(Consumer Reports)で、プライバシーおよび技術政策部門を統括するジャスティン・ブルックマン氏はそう説明した。

もうひとつの法案、セーフデータ法(Safe Data Act)は先行するプライバシー法制をまとめた法律で、ミシシッピ州選出のロジャー・ウィッカー共和党上院議員が提出した。データ使用に関して消費者のオプトインを義務化するのではなく、消費者にデータ収集をオプトアウトする権利を付与している点で、ほかの連邦プライバシー法案により近い内容となっている。

また、セーフデータ法は機微データを処理したり、第三者に転送する場合、事前にユーザー本人から積極的かつ明示的な同意を取得することを義務づける一方、機微データの定義はCORPAほど広範ではない。とはいえ、高精度な位置情報および永続的識別子(PID)は機微データの扱いとなっている。

どの法律が適用されて、誰が訴訟を起こせるのか?

連邦プライバシー法に対する共和党と民主党のアプローチには、合意を阻む大きな隔たりが法案の内容そのものとは別に、もうふたつある。

  • 第1に、連邦法の成立に伴い、州や地方のプライバシー法は無効となるのかという問題だ。民主党のキャントウェル議員が提出した法案では、州または地方のプライバシー法が無効化されることはない。他方、共和党のウィッカー議員提出の法案では、連邦法が州法や地方法に取って代わることになりそうだ。一般論として、プライバシー擁護団体や消費者団体は、州法や地方法を有効のまま残すことを希望する。というのも、州や地方のプライバシー法は連邦法よりも厳しく、企業に対して訴訟を起こす権利を消費者個人に付与しているからだ。対照的に、ほとんどの企業は州法や地方法の「継ぎはぎ」状態を敬遠する。プライバシー関連の顧問弁護士や開発者らが、データ規則の遵守に追われることになるからだ。
  • 2番目の論点は、違反企業に対して訴訟を起こす権利を誰が持つのかという問題だ。民主党が支持するCOPRA法案は、規則に従わない企業を訴える権利を個人に認め、集団訴訟の機会を広げる建て付けとなっている。一方、共和党が支持するセーフデータ法では、州の司法長官にのみ訴訟を起こす権利を認めている。

両党の議員は、連邦法に矛盾する州法の無効化と訴訟を起こす権利について合意できるのか。それとも、この2点が今後も連邦プライバシー法の成立を妨げる争点でありつづけるのか。現時点で見極めるのは難しい。

連邦法の成立を妨げるそのほかの障害

立法議案の処理を遅らせ、プライバシー法の整備に水を差すような、技術的あるいはデータ処理をめぐる政策課題はほかにもある。

たとえば、巨大テクノロジー企業に対する反トラスト法訴訟、ソーシャルメディアにあおられる虚偽情報の押さえ込み、通信品位法第230条(問題投稿に関して、当該のサイト運営者を免責する)の改正議論、データの越境移転に関するセキュリティの強化などだ。

「問題は、通信品位法第230条や反トラスト事案などの複雑で緊急の課題が、このさきの予定表を埋め尽くしてしまうことだが、それでもゴールは見えている」と、フューチャー・オブ・プライバシー・フォーラムのジュールズ・ポレンツキーCEOは、昨年12月のメディア向けの説明会で述べている。

妥協の余地は?

ポレンツキー氏によると、プライバシー法の可決は、(国民の「結束」を真に望む連邦議会の議員たちにとって)超党派で勝利をあげるいい機会になりうるという。連邦法と州法の兼ね合いなどについては「歩み寄りの余地はいくらでもある」と同氏は語る。

一方、デジタル・コンテンツ・ネクストのペディゴ氏は、連邦プライバシー法の成立は「見込み薄」と見ている。その理由を同氏はこう語った。「議会は大きく割れている。しかも、2度目の弾劾手続きが進むいま、あらゆる側面でアメリカの分断はさらに深まるだろう」。

[原文:Cheat sheet: What to expect in state and federal privacy regulation in 2021

KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)
Illustration by IVY LIU