米下院に新たに提出された超党派の反トラスト法案は、Google、米下院に新たに提出された超党派の反トラスト法案は、大手テクノロジープラットフォーム企業を狙い撃ちにするものだ。この包括法案が通過すれば、反トラスト改革推進派として知られ、米連邦取引委員会(FTC)委員長に任命されたばかりのリナ・カーン氏による、実務的なルール作りが執行されるだろう。、Amazonなどの大手テクノロジープラットフォーム企業を狙い撃ちにするものだ。
反トラストの動きが、ますます勢いを増している。
米下院に新たに提出された超党派の反トラスト法案は、Google、Facebook、Amazonなどの大手テクノロジープラットフォーム企業を狙い撃ちにするものだ。この包括法案が通過すれば、反トラスト改革推進派として知られ、米連邦取引委員会(FTC)委員長に任命されたばかりのリナ・カーン氏による、実務的なルール作りが執行されるだろう。
ここでは、本法案の内容を読み解き、それらが実際的にどのような影響を及ぼす可能性があるか概説する。
Advertisement
- 6月11日に提出された包括法案は、「Stronger Online Economy: Opportunity, Innovation, Choice」と名付けられており、5つの法案がまとめられたもの。それぞれの法案は、相互に機能するように考えられている。
- 各法案は主に、プラットフォーム企業の自社サービスに対する自己優遇措置、相互運用性とデータポータビリティに関連したデータ管理とアクセス、新興競合の買収など、いくつかの主要課題に言及した内容となっている。
- 今年に入ってから提出されたほかの反トラスト法案と同様に、この法案もテクノロジープラットフォーム企業側に法令に違反していないことを証明する責任を課している。反トラスト法を専門にする弁護士たちは、この意義は深いと話す。プラットフォーム企業が買収を行う際に、それが反競争的行為ではないことを明確に立証しなければならなくなるからだ。これは難しくなる可能性がある。
- ロードアイランド州選出で民主党所属のデビッド・シシリーニ下院議員と、コロラド州選出で共和党所属のケン・バック下院議員という、反トラスト小委員会のふたりのリーダーが主導する各法案の共同提案者たちは、民主・共和両党にまたがっている。これは、法案通過に向けて弾みをつけるために必要な基盤であると同時に、テクノロジープラットフォーム企業の力を抑制することに対し、民主・共和両党のあいだに強力な支持があることを示している。
- 議員、そしてほかの企業、消費者団体が支持するこれらの法案と、全般的な反トラスト改革の推進に対し、プラットフォーム企業とそのロビイストから対抗する動きが出てくるであろうことはいうまでもない。
自己優遇と差別的な措置への制限
5つのうち2つの法案は、大手プラットフォーム企業における自己優遇措置と差別的措置に関連する。「American Innovation and Choice Online Act」は、自社製品・サービスの優遇や優先的な配置、競合他社の不利な扱いなど、プラットフォーム企業が自社の製品・サービスが有利になるような措置を禁じる。もう一方の「Ending Platform Monopolies Act」も、自己優遇措置に対するものであるが、こちらはプラットフォーム企業が複数の事業にまたがって支配的な力を及ぼし、競合を不利な立場に追い込むことを禁止する。どちらの法案も、時価総額が6000億ドル(約67兆円)を超え、かつ米国における月間アクティブユーザー数が5000万人以上、または米国における月間アクティブ法人ユーザー数が10万人以上のプラットフォーム企業を対象とする。
これが実際に意味すること:「American Innovation and Choice Online Act」法案が通過した場合、たとえばGoogleは、自社に関連したショッピング検索結果を、ほかのeコマース企業より上位に表示できなくなる。さらにいうと、Facebookの場合は「インスタント記事(Instant Articles)」をパブリッシャーサイトに遷移するリンクより優先させることができなくなり、Amazonは自社が販売する商品や自社ブランドを、サードパーティセラーより優先して配置するといった施策が打てなくなる。
「Ending Platform Monopolies」法案は、Googleが過去に実施していたとされるプロジェクト・バーナンキ(Project Bernanke)を防げたかもしれない。これは、Googleが自社のアドプラットフォームで利益を得る一方、広告主から得たデータによって、競合他社をを不利な状況に陥れたとする、同社に対するテキサス州主導の反トラスト訴訟で大きく取り上げられた一件である。この法案の共同提案者には、反トラスト小委員会の副委員長を務めるプラミラ・ジャヤパル下院議員が名を連ねている。同議員の選挙区にはAmazon本社があり、近隣地域ではマイクロソフト(Microsoft)が支配的な影響力を持つ。
これらいずれかに違反した場合、プラットフォーム企業は総収入の15%、または不法行為の影響を受ける事業分野の売上高の30%という制裁金を課せられる。
これらの法案は、コンシューマー・レポート(Consumer Reports)などの消費者団体から大いに支持されることになるはずだ。コンシューマー・レポートは、法案の支持を表明したプレスリリースで、大手オンラインプラットフォームの差別を禁じることによって「どの企業のサービスなのかとは関係なく、最良のサービスが消費者の注目と利用収入を得て、消費者は自分のニーズにもっとも合致したサービスを購入、利用することができるようになるだろう」とコメントした。
データの移動とテクノロジーの連携
上記とは別の2つの法案は、プラットフォームの相互運用性とデータポータビリティについても言及している。「相互運用性」とは、各プラットフォームがほかのテクノロジーと一緒に使用されるときに、どのように機能するかを指し、「データポータビリティ」は、プラットフォームまたはその利用者によって生成されるデータの共有、アクセス、移動に関連する。今後の展開によって、これらの法案はウォールドガーデンが、どこまで閉じた世界のままでいられるかという問題に、影響を及ぼす可能性がある。
「Augmenting Compatibility and Competition by Enabling Service Switching(ACCESS)Act」は、APIなど、サードパーティからのアクセスが可能な透明性のあるインターフェースを設け、競合他社との相互運用性を促進・維持し、ユーザーから積極的承諾を得た上で、企業が安全にデータを移動できるようにすることを、プラットフォーム企業に義務付ける法案だ。先述の「American Innovation and Choice Online Act」法案も相互運用性を扱っており、法人ユーザーによるプラットフォームへのアクセス、または相互運用性の実装は規制するべきではないとし、こうしたプラットフォーム側の措置を「差別的」と断じている。
これが実際に意味すること:これらの法案によってプラットフォーマーたちは、サードパーティ企業に対し、自らの情報に柔軟にアクセスできるような権限を与えなければならなくなるだろう。たとえば、広告計測やアドフラウド対策のためのデータ提供の拡大が考えられる。これは、消費者相手にデータマネタイゼーションを行う企業に影響を与える可能性がある。FacebookやTwitter、マイクロソフトが所有するLinkedInで生成されるデータを、ブラウザ拡張機能などの外部テクノロジーを使用してマネタイズすることを阻む障壁が、引き下げられるからだ。
これに対しプラットフォーマー側からは、外部との連携やアクセスを許すと、セキュリティリスクが発生すると反発があるはずだ。法律事務所スクワイヤ・パットン・ボグズ(Squire Patton Boggs)で反トラスト法を主に担当するシニアパートナーのバリー・パプキン氏は、プラットフォーム側が訴えるであろうデータセキュリティの問題については「目くらましに過ぎない。すべて解決可能なものだ」と語る。
競合排除を目的とした買収の禁止
また、「Platform Competition and Opportunity Act」は、プラットフォーム企業が規模の小さい企業を買収して競合となる可能性をつぶすことを禁じる。買収の際には、買収相手が競合しない企業であること、または今後競合する可能性をはらむ企業ではないことを、規制当局に証明しなければならない。弁護士によれば、Amazonのホールフーズ(Whole Foods)買収やFacebookによるインスタグラム買収など、すでに行われた買収の見直しにもつながる可能性があるという。この法案が、ユーザーの注目とデータを、企業の価値と競争力に貢献する「現代の通貨」としている点は注目に値する。
立証責任の帰属先が政府からプラットフォーマーに
明確で説得力のある証拠によって悪意のないことを証明する立証責任が、原告(政府)からプラットフォーム企業に移されたことは重要な意味を持つと、プロスカウアー(Proskauer)の訟務部のパートナーであり、同法律事務所の反トラストグループの共同議長でもあるコリン・キャス氏は話す。たとえばAmazonのホールフーズ買収の場合、「それが反競争的な効果をもたらすものではないことを証明する責任が、Amazonにシフトする」と述べ、「Amazonにとっては立証が難しいことだ」と語る。
なお、上院司法委員会反トラスト小委員会の強力な委員長である、エイミー・クロブシャー上院議員が今年提出した反トラスト法改革のための法案など、以前にも2本の反トラスト法案が、立証責任をプラットフォーム側に移している。
FTCと新委員長を助ける5本目の法案
下院の反トラスト包括法案に含まれる5つ目の法案「Merger Filing Fee Modernization Act」は、合併の際の申請手数料を引き上げる。手数料引き上げは、連邦政府の2つの反トラスト監督機関である米司法省と米連邦取引委員会(FTC)が法律を執行するために必要な財源に充てられる。今回の包括法案では、実際の実施に関するルールの策定を、FTCに委ねている。反トラスト・消費者擁護の支持者は、6月16日に進歩的な法学者であり、反トラスト法を現代に合ったものに変えていくことを強力に提唱するリナ・カーン氏が、上院で72対25でFTC委員指名の承認を受け、さらにそのあとバイデン政権によってFTC委員長に指名されたことに、大いに喜んだ。
パプキン氏はカーン氏について「大手プラットフォーム企業に対する規制に関して、彼女がどのような立場を取っているかは誰もが知っている」と述べ、共和党議員の支持が「反トラスト法の改革が民主・共和両党から支持されていることを示す」と話す。パプキン氏はこうも付け加えた。「反トラスト法は変わるだろう—130年前にできた法律なのだから」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU